私のことが好きだと言うわりに、扇くんは女の子たちと遊ぶのを止めない。彼女たちは扇くんにとってどういう存在なのか。好きな人、友達、仲間――表現できる言葉は沢山あるけど、当てはめるのは扇くんの仕事なので私にはさっぱりわからない。だからこうして焼き餅を焼くのがお門違いなのか正当なのかすら分からずに、私はもやもやと不快感を抱き続けなければならなかった。

「どう思いますよ六郎さん」
「俺に色恋を聞かれてもなァ」

 小さな六郎さんの背にもたれて、私は出された茶を啜る。落ち着くわあ。六郎さんは心底どうでもよさげだが、勝手に離れたり、会話を無視したりしない辺り、やっぱり優しい人だと思った。

「六郎さんかわいー」
「お前の目、腐ってんじゃねえか。こんな化け物じみたやつのどこが可愛いってんだ」
「くりくりのお目目とか、そうやって若干投げやりな性格とかですかね」
「あほか」

 そう言いつつも、六郎さんはクツクツと喉を鳴らす。今日はどうも機嫌が良いらしい。やっぱり、扇くんが屋敷にいないからだろうか。私の勤め先の頭とその弟さんだったり、ここの兄と弟だったり。名門の兄弟というのは、どうも複雑な育ちをするらしい。普通に姉が家督を継いだ私には、分かるような分からないような、やはり判断が難しい話だった。
 ねえ、と六郎さんを呼び掛けた時。私の頬を風が撫でた。同時にふわりと浮く体。驚きすぎて声も出せずにいたら、次第に遠ざかる六郎さんがまたもや斜に笑った。

「おいおい、どうした七郎。ずいぶんと怖え顔してんな」

 ぱっと声の矛先を見れば、なるほど、たしかに僅かな怒気を孕んだ扇くんが宙にいた。私を包む風は、そのまま私を彼の横まで運ぶ。ちら、とこちらを一瞥してから、扇くんは六郎さんに向き直った。

「六郎兄さん、わかってやってるでしょう」
「何の話だかな。俺にゃあさっぱり」
「兄さん」
「おうい、女」

 にやりと六郎さんが私を仰ぐ。上から見るくりくりお目目は、なんだか面白い。なんですかあと応えたら、六郎さんは両腕を着物の袖に突っ込んだ。

「良かったな。愛しの七郎が帰ってきて」
「え、でも私、六郎さんも好、」
「あーそれ以上ナシな。今度会うまでには、もう少し空気読む練習しとけ」
「……六郎兄さん、もういいでしょう」
「はいはい。それじゃ、邪魔者は退散するとすっかね」
「あ、六郎さん付き合ってくれてありがとうございました」

 そう言うと、六郎さんはじっとこちらを見据えた後に「おう」とひらひら手を振った。次の瞬間にはつむじ風が舞って彼の姿は消えていた。相変わらず便利な能力である。
 隣から刺さる視線を避けるように、彼が居たところをぼんやり眺め続ける。さて、どうしたものかと内心冷や汗を流していたら、ふっと纏う風が緩くなり床へと戻された。

「……扇くん?」

 次いで彼が隣に降り立つ。思わずふり返ってしまったことを、私はすぐに後悔した。

「あんまり、意地悪しないで欲しいな」

 扇くんは、そこら辺の女子学生を一発でのしてしまう王子スマイルを浮かべた。けれど、唯一笑っていない瞳に、私の視線は釘付けだ。
 こちらにはろくな焼き餅すら焼かせてくれないくせに、自分は大層な独占欲を晒すのだから。理不尽ったらありゃしない。



オートロックすら効果なし



(110626)
つい*ったふた*りへの*お題っ*たーより


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