(夜行の人の昔)




 中学生の頃、私の学校にはすごい男の子がいた。
 成績優秀、運動神経バツグン、外見もよく、おまけに性格もいいときた。一部の男子に妬まれはすれど、先生を含めた学校の大半は彼に味方していたと言ってもいい。表社会においての彼は、「おとぎ話の王子さま」だった。
 けれど、私は知っていた。私たちのような普通とは少し違った人々が活躍する裏社会において、彼は「死神」と呼ばれ畏怖されていたことを。

「ちょっといいかな。きみは、結界師なのかい?」

 裏社会に足を突っ込んでいるとはいえ、私は色々と半端な育ちであり、幼い頃から英才教育を受けてる彼とは意識も実力も雲泥の差があった。また、彼はどうも「裏」と「表」に一線を引くのが好きらしく、学校で少し怪しい話題が出る度に、百八十度の話題転換を心掛けていたような気がする。
 だからこうして、彼が学校という「普通」の場所で、「変わった」会話を求めて来たことに私はいささか動揺した。

「えっ、いや、えええどうしたの急に」
「昨日の晩ね、ちょっと見ちゃったからさ。学校の周りで活動してるの」

 口元に弧を描いたまま、彼は視線を私に固定する。正直言って、こんなイケメンに声をかけられるだけでも恐ろしいのに、私たちを包む空気はどこか重苦しい気がして今すぐ逃げ出したくなる。
 彼の実家は、あらゆる方面においてプロの意識が高いと聞く。それは治療も妖退治も、人殺しも。とりわけ彼は、暗殺に関して手厳しいとの噂もある。脇から背中からと吹き出る汗に、私の思考回路はパンク寸前だった。
 何て答えれば良い、彼の求める答えは何。頭と一緒に目玉もぐるぐる周り始めたら、私の口は勝手に言葉を紡いでいた。

「あなたが、扇一族の跡取りって本当?」

 質問に質問で返す、ファウルすれすれの発言。
 きょとんと、彼が瞬いた。さっと、血の気が引いた。もし今聞いたことが事実だったとして、それを知って何になる。もしかしたら彼に敵認識されて命を狙われるかもしれないのに。
 あわわわと視線を泳がせて、逃走ルートを探し出す。後方の扉なら、逃げ出せるかもしれない。助走をつけるべく握り拳を作ったところで、彼はゆっくりと左手を自分の胸に添えた。

「そうだね、人を知るにはまず自分を明かすべきだ。お察しの通り、僕は扇一族の跡取り息子、扇七郎だ」

 恭しくお辞儀をしてから、彼は子供っぽく笑った。いつも女の子たちが騒ぐ「王子さま」登場のおかげで、私は完全に逃げ遅れた。



勘弁してください
(尋問は、まだまだ続く)



(110626)


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