(キャプテンと付き合いの長いクルー)



 たぶんキャプテンは、わたしを似ても似つかない妹の代わりと見立てている。わたしは彼に与えられたものが全てだったし、「身内」として近い扱いを受けるのはとても嬉しかった。だから素直におにいちゃんと慕っていたのだけれど、成長に従ってわたしと「彼の妹」の差は格段に広がっていったのだろう。容姿も性格もなにもかも。だって仕方ないじゃないか、わたしはわたしなのだから。

「キャプテン」

 船の大黒柱と、ただの乗組員。それはわたしたちを安全に隔たる適度な距離だった。おにいちゃんはいつしかキャプテンに、妹代わりはいつしかただの仲間に。互いに捻くれて育った性格は、距離を取ることでようやく落ち着きを見せ始めていた、はずだった。

「キャプテン、どうしたんですか。らしくない」
「うるせェ。黙って寝てろ」
「起こしたのはキャプテンなのに」

 暗がりにのしかかった影は、紛れもなく彼のもの。反論には無言の圧力といっしょに手首への負荷で返された。ギシリと鳴くベッドのスプリングに、ああこれはシャチが喜びそうな展開だなあなんて、のんきに考える余裕が生まれた。第一危険を感じる謂れはない。わたしと彼がそんな関係に及ぶわけがないと、わたしが理解し過ぎているのだから。彼も、同じだと思うのだけど。

「壁を壊すのは、実はとても簡単な話なんだって。知ってたか」

 だから彼の言葉には、目を丸くした。自分の気持ちを汲み取ったことに? 限界の先を求めていることに? きっとそのどちらも当たりで、つけ加えるなら途端に言い知れぬ不安に駆られたせいでもある。わたしの知らない「キャプテン」がいることは、実に、恐ろしい出来事の前触れなのだ。

「お前は昔っから、こわい夢を見ればおれに泣きついて、こわい現実を見れば夢の方がよかったとまた泣きついて。情けねえったらありゃしねェ」
「子供の頃の話でしょう」
「たしかに泣きはしなくなったが、いまでも大して変わらねェだろ。いまだって、ほら」

 手首の代わりに、首筋へぺたりと張りついた掌。冷たくてびくりと肩を跳ねさせれば、彼は喉を鳴らした。暗闇に慣れた目でも、帽子のツバで隠された表情は読みにくい。ただ、皮肉っぽくつりあがった唇に見合った眼差しが注がれているとは、すこし考えにくかった。

「やっぱり寝たままでいりゃあ、よかったのに」

 そんな悲しそうに唸るくらいなら、きちんとお顔を見せてください。そうすればわたしだって、これが現実でもいいと、受け入れる覚悟ができるのだから。



(141230)




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