(乱歩さんスキーな子と中島くん)



「私、乱歩さんのためならなんだってやれるわ」

 僕の腹にまたがった彼女は冷たい瞳でこちらを見下ろしてくる。視線だけで人を殺すつもりだろうか。僕の両手首を拘束する力はとても軽いが、なんたって彼女は異能者だ。力ではない何かを使ってビリリと終えてしまう可能性もある。人が許容できる電圧を、果たして彼女は理解しているだろうか。

「あなたみたいな新人に場所を取られるなんて、許し難いったらありゃしない」
「お、落ち着いてよ。僕はたった一回彼と行動しただけで」
「それが許し難いんじゃない。私の役割は世間知らずな彼の世話をすることよ。与謝野先生ならともかく、あなたみたいな新入りに、子供に、先生の後ろを取られてしまうなんて」

 君だって同じような歳じゃないか、第一、横でなくて後ろでいいんだね。なんてくだらない返答は腹の奥に流し込んで、僕はただただ哀れっぽく引きつった笑いを見せるのみ。同情でもしてどいてくれないかなあ、僕の能力はちょっとの抵抗には向いていないのだし。

「……ほんとに、むかつく」

 僕の目は一瞬にして丸くなる。ぷくっと頬を膨らませた彼女の顔が、あまりに幼かったものだから。見目や対応から大人びた質なのだろうと踏んでいた身としては、彼女の反応はほんとうに、なんと云うか、ああ。

「そんな可愛らしい顔をして、男に跨っちゃあいけないだろ」

 くすくすとおかしそうな笑い声に二人揃ってハッとする。いつの間にいたのやら、見れば乱歩さんが一つのデスクに腰掛けているではないか。僕は少しだけ青ざめて固まるも、彼女は一瞬で真っ赤に染まりすばやく僕から飛び退いた。困った風に眉を下げて、乱歩さんの顔色を伺う様はまるで親に許しをこう幼子のそれだ。けれど彼は親ではないし、彼女も子供ではないのだ。

「乱歩さん」
「君が激するなんて珍しい。でもいけないよ、男は大方が野獣なんだ。あんなかわいい顔して襲っちゃ、逆に君の方が食べられてしまう。ねえ、そう思うだろう中島くん」
「えっ、いや、僕は」
「あと少しで、君は虎になりそうだったものねえ」

 小粋に笑う乱歩さんには、なにもかもがお見通しらしい。


(131116)


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