2013/12/20
「遠いね」
ぽつりと落ちた言葉に、こいつは自身で驚いたようだった。何の話だ。眉を上げて音もなく問えば、照れくさそうにはにかんで控えめに空を指さして「雲のことだよ」と、またぽつり。音を相手に届けるのではなく、水に石を投げては波紋を相手に伝えるような、拾っても拾わなくても許されるような話し方。こいつは大概、拾われないだろうと高を括っている。
「近いわけねェダロ。飛行機でも鳥でもあるまいし」
くだらねェ、なんて言葉のおまけといっしょに睨みつければ、不思議そうに一度だけ瞬く。けれどしばらくの間を空けて返ってきた笑い声は、どうにも、やわらかく俺の棘を覆っていく気がした。
「そうだね。私も荒北くんも、人間だったや」
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