2013/11/17
「トーマス!」 晴れやかに息子の名を呼ぶ彼女の背中を見つめて、ぼくは一つ首を傾げる。ちいさな違和感だ。正体はわからないので、ぼくはそのまま二つの背中を見送った。
「VとXのことはそう呼ぶのに、Wはトーマスのままなんだね」 トロンさんが不思議そうに、けれど楽しそうに目を細めるものだから私はきょとんと彼を見返した。ねえ、どうして。以前聞いた猫なで声とは違う、やさしい声。これもあれも全てカットビング少年のおかげ。船をあける息子たちの代わりに、私がお茶の席に着くようになったのは、最近の話ではないけども。 「院のときからそう呼んでいましたから。癖で、つい。いけませんでしたか?」 「そんなことはないと思うよ。少なくとも今は」 「今は?」 「もっと呼んであげるといいさ」 くすくす笑って紅茶を一口。言葉の意味はわからない。それすら気づいているだろうに、トロンさんは助言をくれなかった。トーマス本人に尋ねてみれば、何かわかるだろうか。
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