another story
親父達の想いが通じあってから数ヵ月。
仲睦まじい姿を甲板でよく目にするようになった。
今は春島の海域を航行中。
親父と#も甲板で風に当たっている。
そんな2人を少し離れた位置から見守るの俺とマルコ。
「にしても、丸く納まってよかったよな」
「そうだねぃ。お前が取り持つって聞いた時はもうダメかと思ったよい」
「んなっ!?てめっ!」
「お前も好きだったんだろい?」
「…まぁな。でも、あいつが誰を想ってて。その相手が一生懸けても勝てそうもねぇ相手だろ?それなら、あいつが笑っててくれるのが1番だからなっ!」
「次の上陸、しょうがねぇから。お前に付き合ってやるよい」
マルコの言葉ににっと笑い返すと突如甲板に響いたのは#の声だった。
『だからっ!呑むなとは言ってないじゃないっ!少し減らしてみたらって!言ってるのよ!!』
「減らせたぁ。随分な言い方じゃねぇか。あぁ?こんなうめぇもんが体に悪かったら世の中の食い物皆体にわりぃだろうが」
『へ…屁理屈言うんじゃないわ!それはね!量が少なければお酒だって体にいいわよっ!でも、ニューゲートさんの呑む量のどこをどう見れば体にいい量なの?』
「あー。酒の話みてぇだな…」
「そういえば、さっき#にジェットが酒を減らすように話してくれって言ってたの聞いたねい…」
「俺はやりてぇようにやるぞ?自由なのが海賊だ」
『ニューゲートさんのは自由じゃなくて、ただの我が儘だわ』
そういい放つとヒールの音をたてながら船内へ入る扉へと向かう#に親父が声をかけた。
「おい。何処行くんだ」
『医務室です。まだ仕事があるので』
振り替える事もなく告げるとすたすたと船内へ入っていった#を親父が不満そうに見送る。
そして、船内へ入っていったのを見計らって大きなため息をついた。
それを見た俺らは顔を見合わせて苦笑いを溢すと親父のもとへ近付いた。
「親父、どうしたんだ?」
「あぁ。マルコとサッチか…。いや、急にあいつが酒を減らせとか言い出してな。少し揉めてただけだ」
「親父、前から俺らからも何度かその話したことあったよない?」
「ん?あぁ、そうだな」
そこから暫く話をしていると、親父が言ったのは何とも意外な内容だった。
「今まで、あんな風に強く言う事はなかったんだが。どうせジェット辺りに控えさせろとでも言われたんだろう?それがちょいと気にくわなくてな」
つまりは#が考えて、酒を控えろというなら控えるが言われて突然言い出した事が気にくわなかったらしい。
………………………子供かっ!?
親父は確かに今も俺たちにとっては尊敬すべき偉大な親父だ。
でもどうやら#の事となると子供みてえに意地をはっちまうらしい。
そこから俺らはなんとか親父を宥め透かし、#と仲直りする事を進めた。
それから数日は冷戦状態が続いていたのだが。
ある日。2人が久しぶりに甲板にいるのを見かけた俺は影から見守る事にした。
『じゃあ、約束ですよ?ニューゲートさん?』
「あぁ。少しでも長生きしねぇとな」
何があったから知らねぇが、仲直りをしたらしい親父と#。
微笑みあう2人を見守る俺も一安心と小さくため息をついた。
やっぱり大事な人たちには笑っていてほしい。
笑顔でこの数日の話をする#を膝にのせて優しげなでも俺らに向けた事のない微笑みを浮かべて話を聞く親父。
「ほぉ…そらおもしれぇじゃねぇな」
『そうでしょう?それでね、リリーったらなにもないところで転んじゃって!』
「あいつは少しドジだからなぁ?もう少し落ち着けはいいんだがな」
#の話に相槌をいれる親父。
甲板のあちこちでそんな微笑みあう2人を見守る。
これから先いつ何が起こるかわからない。
それでもいつか2人を死が分かつ時まで。
どうか2人が笑っていますように。
『ん?あ!サッチー!何してるの?暇なら一緒に話さない?』
君への想いはまだまだ立ちきれそうもないけれど。
幸せそうに笑う君と親父がいつまでも幸せに包まれるように。
俺らは全力を尽くそう。
「おう!じゃあ、混ざらせて…や、やっぱ俺仕事思い出したわ。じゃあな」
『え?ちょ!?サッチー!?どうしたのかしら?』
「さぁなー?」
「(親父、邪魔されたくねぇなら言ってほしいぜ…)」
扉を潜る前にもう1度2人を振り替える。
親父と#の回りを包むのは、海賊船に似つかわしくない穏やかで暖かな空気。
「幸せんなれよ…」
ぽそり、呟く。
『ニューゲートさん!そろそろやめにして部屋戻りましょうよ』
「いい加減さんはやめねぇか?」
『え?あー、うん。わかったわ…ニュー…ゲート』
満足げに親父は笑う。
あぁ、今日もモビーディックは平和だ。
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