転がり落ちて、キミの手中
『さてと、今日も…』
朝ベットから起き上がり軽く鏡で髪を直して、お気に入りの服に腕を通す。
数ヵ月程前、この白ひげの船に仲間入りしたあたしは一目で恋に落ちていた。
相手は4番隊隊長サッチ。
随分な女好きで、常にナースを追いかけ回し。
島に上陸すれば毎夜女を求めて酒場に通っては、その端正な顔と鍛え上げられた肢体に女は群がりその中からとびっきりのいい女を選んで夜を供にする。
彼にとって女なんて、自分が微笑みかけるだけでぶわぁと群がる事も全て承知済み。
そんな中でどうしても、彼を手に入れたい根っから海賊なあたしは痛む胸を抑えてあえて彼に背を向けるんだ。
「おう!###!はよー!」
山積みの朝食に囲まれたエースが笑顔であたしに朝の挨拶を送る。
『おはよう。エース!相変わらずとんでもない量…』
顔が食べかすだらけのエースの側に置かれたタオルで顔をふいてあげながら笑いかけて挨拶を返す。
「おう、わりぃ!サンキューなっ!」
「相変わらず、エースには甘いな?###はよい」
『おはよう。マルコ。今日は仕事ないの?』
「あぁ、昨日やっと全部片付いたよい。」
『そう、お疲れさま』
笑顔をマルコに向けて、あたしは彼のいるキッチンへと足を向ける。
そこに群がるナース達に軽く挨拶をしながら自分も朝食を取りにカウンターへ向かう。
4番隊の隊員にトレーに乗った朝食を渡され、笑顔で礼を伝えてその場を去ろうとすると
「お!おはよーさん、###」
あたしの欲しい人の声。
その声に振り替えると私は笑みも浮かべず振り返り
『おはよう、サッチ。今日も相変わらず、女性に囲まれて幸せそうだね?その緩んだだらしない顔、少しは隠したらどう?』
「おまっ…相変わらず辛辣だな…」
『そんなに美人に囲まれてるんだから。あたし1人位現実に戻さないと、緩んだままのだらしない顔が定着したら困るでしょ?仮にも、かーりーにーもー隊長様…だもんねぇ?』
ばかにした笑顔をそこに残し、颯爽とその場を去るあたしにサッチは苦笑いを浮かべるのだった。
そうして、マルコ達の元に戻りマルコの隣に腰を下ろすとマルコが笑いを堪える事もなくクツクツと笑いながら話しかけてくる。
「サッチには相変わらずキツイねい?」
『白ひげの4番隊隊長ともある人が一年中女に鼻の下伸ばしたままよりマシじゃない?』
「あいつにあんな事言うのはお前さんぐれぇだからな、いいお灸だろうねぇ」
声に振り替えるとそこには朝から完璧に身なりを整えたイゾウが煙菅片手に立っていた。
『アハハ。そうかもしれないね?』
あたしの毎日はそうして始まるんだ。
あたしの所属は5番隊。
今日は甲板掃除を行っていると現れたのはナースの中でも飛びきりの美人と名高いレイラとサッチ。
それを見たあたしは、ツキンと痛む胸に気づかぬふりをして二人を見据えた。
「あら、###。ごきげんよう。精がでるわね?」
『レイラ、こんにちは』
飛びきりの笑顔を浮かべてレイラに挨拶を返す。
あえてサッチには触れないあたしは、きっと家族の中でサッチが嫌いだと思われてるんだろう。
本当は欲しくて、欲しくてしょうがないのに…
そんなあたしにやっぱり苦笑いを溢すとレイラの腰に手を回して二人は船尾へと去っていった。
それを見送りため息を1つ溢すと気をとりなおして甲板掃除を始めた。
「なぁ、やっぱ。俺###に嫌われてんのかね?」
「今更だろい」
「誰もが振り返る俺の魅力にどんなに手を回しても落ちないなんて……どうゆー事だ!」
「知るかよい…んな事。」
「あー、欲しいな…あいつ…」
「あんまり構ってやるなよい?」
「だぁーって、しょうがねぇだろ?あいつがここに入ってきた時から、ずーっと狙ってんだぜ!?俺はー!それなのにどんなにちょっかいかけても、反応0だぞ!むしろはぁ?みたいな顔して笑顔で辛辣な言葉残して去ってくんだぞ!あぁされると余計追いたくなる不思議だ!」
「追いたくなる?」
「お前も1度やられてみろよ!」
「……ふーん。こりゃ、面白い事になるかもない」
「ん?何が面白いんだ?」
「こっちの話だよい。まぁ、欲しいなら頑張れよい。海賊なんだからな」
ポンとサッチの肩を叩くとマルコはその場を去っていった。
船内へ入り、廊下を進んでいると向こうから###が刀を持って歩いてきた。
「よう。これから訓練かよい?」
『ん?あぁ、マルコ。そうだよ?』
「頑張れよい」
###の頭に手を置くと、マルコは笑いながら言葉を続けた。
「追いたくなるらしいよい?お前のサッチに対する態度は」
ニヤリと笑いながら、作戦は成功かい?と問いかけるマルコにびっくりした表情を見せるもすぐにクスリと笑うと海賊らしい笑みを浮かべて
『それなら、もう一押しって所かな?』
と言ってみせると、今度はマルコが驚いた顔をした。
『じゃあね』
手を降りながら去っていった###を見ながらぽつりと呟く。
「サッチ、おめぇとんでもねぇ女に捕まったな…」
その声が誰もいない廊下に染み渡った。
その後甲板では5番隊の訓練が始まっていた。
1対複数の訓練を行う甲板では、指南役のビスタが腕を組み隊員の動きに声を上げていた。
次は###の番だ。
前の番が終わり中央に移動し構えると、一気に###に飛びかかっていく屈強な男達。
それに負けじと、###も刀を振るう。
それを眺めていたサッチは汗を滴らせ戦う###に目を奪われていた。
そして、ビスタからアドバイスを貰い笑顔で礼を伝えて頭を下げると端に腰を下ろして次の番を汗を拭きながら眺めだした。
そこにすかさず姿を見せたのはサッチ。
「お疲れさん、相変わらずいい動きすんのな」
『サッチ。そりゃどうも。で?何か用?用ないなら自分の仕事でもしてきなさいよ。女にだらしない上に仕事もしないんじゃ、救い用がないけど?』
「かぁーー。相変わらずの物言いだな…。お前みてぇな女が落ちる男はどんなやつだよ…」
『さぁねぇ?どんな男だと思う?』
ニヤリと美しく笑う###に息を飲むサッチは、珍しく続く会話に目を丸くした。
「おい、槍でもふんのか?」
『何よ?急に…頭まで沸いちゃったわけ?…』
「いや、お前が俺と会話のキャッチボールをするなんて…珍しい事もあんだなと思ってよ…」
『したくないなら、どっか行ったらいいんじゃないの?』
「あ!いや、そういうわけじゃねんだって!いつもなら、そりゃもう辛辣な一言残していっちまうからよ…わりぃ…けど、ありがとな…まじで俺お前に嫌われてるかと思ってよ…すげぇ嬉しいわ…」
笑顔で###に捲し立てるサッチに、クスっと笑うと今までサッチに見せた事のない笑顔をむけた。
『何よ、それ!別に嫌いなわけじゃないって』
その笑顔と言葉にサッチは目をこれでもか!と開いてその笑みに目を奪われた。
年甲斐もなく頬を赤くさせたサッチは慌てて片手で口許を覆い顔を背ける。
と、わざわざサッチの前に顔を覗きこませニヤリと笑いながら話し出した。
『百戦錬磨のサッチさん?どうしたの?そんな真っ赤な顔して、隠しきれてないみたいだけど?』
「なっ!お、お前!まさかっ!」
クスクスと笑いながらその場を後にすると、夕陽を背にサッチに振り返りだめ押しの満面の笑みを浮かべて言った。
『ねぇ、サッチ?あたしが欲しいなら、身辺整理してから出直してきてくれる?そうしたら、考えてあげるけど?』
その一言を残して###はサッチに完璧に背を向けてビスタの元へと走り去っていった。
後に残されたサッチはその笑顔に暫しみとれてから慌てて船内へ駆け出し、それまで関係のあったナースや女の船員に話をつけて回った。
そして、夜マルコやエース達と酒を傾ける###の元に辿り着くとその顔には無数の赤い手の跡。
「お前が欲しい!」
その顔は真剣で、でも顔の跡のせいで少し情けない。
その顔を見た###は酒を依然として傾けたまま一蹴すると、ニコリと笑いサッチに告げた。
『じゃあ、前向きに健闘させてもらうね?サッチ?』
ーまずは、ゆっくり距離を縮めましょうか?
その日から、###の尻に完璧に敷かれたサッチが船内の各所で見受けられたらしい。
それから数ヵ月後。
とうとう付き合いだした二人は当時を振り返り話をしていた。
「俺超必死だったのに、お前なかなか落ちねぇんだもん…」
『お前?』
「いや、###が落ちねぇからよ…」
名前ではなくお前と言ったサッチに厳しい目を向けた###に慌てて言い直すサッチ。
それに満足したのか、ニコリと笑うと
『ねぇ、サッチはいつからあたしを狙ってたの?』
「そりゃ、船に乗った時、ってゆーか、初めて会った時からだよな…」
サッチの言葉に###は目を見開くとサッチがそういう###はどうなんだよ?と聞くと、笑いながら
『あたしもサッチを見た時に恋してたよ?』
「はぁ!?嘘つけよっ!あの態度考えろよ!」
『他の女と一緒じゃ、手に入れた内に入らないでしょーが!只でさえ女寄ってくるんだから!』
「え、じゃあ、あれ全部……」
顔面蒼白で答えたサッチにニヤリと笑いかけると
『狙った獲物は確実に絡めとらないと…ねぇ?』
「ま、まんまとはまったのか…俺は」
『そうゆー事かな?』
クスクス笑い海を眺める###に、1つため息を溢すと苦笑いをしながらサッチが言った。
「まぁ、いっか。どちらにしろ###は俺のもんになったわけだしな!」
『誰があんたのもんになったのよ?サッチがあたしのもんになったの。勘違いしないでくれる?』
その言葉にあっけにとられながら、二人は顔を見合わせると笑いあった。
「そうだな。見事に落とされたよ!」
転がり堕ちて、キミの手中(見事に策にはまった俺はキミの虜)
title by Mujun
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