2nd memorise of thatch
あいつを…ルカを初めて見た時は、まさかあんなに子供みてぇな奴だとは思いもしなかったぜ?
だってよ!黙ってりゃ、上玉中の上玉。
誰もが振り返るいい女だぜ?
そんな女が暇がありゃ、ハルタやエース、ショーンといつも悪巧みしてよ。
大体イタズラのターゲットって、俺かラクヨウの2人でよ…
なぁ…ハルタくーん?
今までで1番やられたなって思ったのは、あれだな…まさか…あいつがあそこまでして楽しむとは…その後も俺当分可哀想だったぜ?はぁ…
あぁ?なんだと?マルコ!
自業自得とは言えたもんだな!
おめぇだって、ちょっと騙されてたじゃねぇかよっー!
それは、エース加入から少したった。
ある夏島での出来事。
『何で!何で、サッチ達は上陸出来てあたしは仕事済ませてからなのよー!』
自室で雄叫びをあげるのはルカ。
「書類溜めた自分が悪いよールカ?」
『あたしは!きっちり終わらせたよ!どれもこれも、サッチがギリギリになってあたしに渡した書類の山だもん!』
「はっひが?」
『そうっ!てゆーかさ。何で、あたしが副隊長でもないのに、この仕事しなきゃなの!』
「書類仕事が得意なのばれたのが悪いよ…」
『だってー、マルコがあの時困ってたから…あー手伝わなきゃよかった…」
「ねぇ、ならさ!サッチが上陸ギリギリにこの書類回してきたならさ!ちょっとこらしめてやろうよ!」
悪い笑みを浮かべてルカに話を持ち掛けるハルタ。
『なになにー?面白い作戦でも思い付いた?』
「うん!多分ナースも面白がって協力してくれる筈だよっ!」
『で?内容は?』
ルカの部屋でこそこそと繰り広げられるサッチを凝らしめる為の作戦会議。
当初、一部始終を聞いたルカは嫌がったがハルタが押しきる形でルカを乗せると結局面白がりその作戦の実行が決まった。
作戦決行は今夜、急いで仕事を済ませるとエースとショーンも巻き込みナースの部屋へ走ったのだった。
そして夕陽は沈み夜を迎えると、酒場は白ひげの船員が集まり賑やかになっていた。
当然、そこにはサッチやマルコ、イゾウも集まり、少したつとハルタやエース、ショーンも姿を見せた。
が、そこにルカの姿がなくサッチはハルタ達に尋ねると
「あぁ、ルカなら仕事が片付かなくて部屋に籠ってるよ?」
「片づかねぇ?珍しいな。そんな難しい書類はなかったはずだぜ?」
「量のせいだろい?お前がギリギリであの量渡したんだ片付かなくて当たり前だろ?」
そんな話をしていると、酒場に集まっていた他の船員達が喜びの声をあげだした。
それに気づいたサッチ達が船員達が見ていた方へ視線を向けるとそこには綺麗に着飾った女達がいた。
「おい、マルコ。今回は随分上玉揃いだぜ?」
サッチが鼻の下を伸ばしながら女達を見てマルコに言う。
と、入口付近にいた船員達が騒ぎ始めた。
騒ぎに目を向けると、そこには長い金髪を靡かせ、セクシーな赤いドレスを纏った女が背筋を伸ばし一歩一歩店内を進む姿がそこにはあった。
店内の誰もがその女に目を奪われ言葉を失う。
それはサッチやマルコ、そしてイゾウまでもが例を洩れず視線を奪われていた。
「すっげぇ…いい女……」
サッチの呟いた声に思わず同意したマルコとイゾウ。
すぐに動いたのはイゾウだった。
「なぁ?俺らの酌、してくれるかねぇ?」
女に歩み寄り手を取り、その手に口付けを落とすイゾウに店内の誰もが息を飲んだ。
女の瞳は燃えるような紅い瞳。
その瞳がイゾウを捉えると、それまで凛とした表情を見せていた女の顔は妖艶な色を孕みながら笑みを浮かべると
『かの有名な白ひげ海賊団の隊長様直々のお誘い断るはずがありませんわ?』
少し高めだが、耳に心地いい声音の声が店内に響いた。
そのままイゾウが隊長達の揃うテーブルへと女をエスコートしてくると、女の姿が更に鮮明にサッチ達の視界に入る。
豊満な胸を強調する胸の谷間を惜しみ無く晒すデザインのドレスは背中までも晒し、更には深く入ったスリットは歩く度にスラリと伸びた美しい足が見え隠れする。
隊長達の前へ来ると1つ笑みを浮かべてお辞儀をすると女は話し出した。
『シェリーと申します。ご一緒させていただいてもよろしいですか?』
その声に我に返ったマルコが口を開いた。
「あぁ、よい。隣来いよい」
いつもはどんな女が来ても、余程気に入らない限り家族の前で女を隣に置く事のないマルコが自分の隣へ招くと、サッチが慌てたような素振りを見せる。
『それでは、失礼させていただきますね?』
スルリとマルコとサッチの間に滑り込むと、まずマルコへと酌をするシェリー。
その姿に見惚れるサッチに気付くと、シェリーは頬を赤く染めて、サッチへ話し掛ける。
『4番隊の隊長さん…で間違いないかしら?』
よく通る声に我に返ったサッチが慌てて喋り出す。
「あぁ!俺ぁ、4番隊の隊長サッチで間違いないぜ?」
『やっぱり!私、あなたを手配書で見た時からいつかお会いしたいと思っていたの!まさか会えるなんて…私、凄く嬉しいわ?』
シェリーはサッチの腕に自身の腕を絡め、熱の篭った目でサッチを見上げる。
その言葉にマルコやイゾウは眉間に皺を寄せる。
「まじかよっ!こんないい女にそんな事言われて喜ばねぇ男はいねぇぜ?」
シェリーの頬へと手を伸ばすと、もう片方の手はシェリーの腰へと手を伸ばす。
『そんな……お世辞言わなくてもいいわ?私より綺麗な女なんて山程相手にしたんでしょ?』
憂いを込めた瞳で、サッチの胸板に手を置くとサッチを見上げる視線とサッチの視線がからむ。
「シェリーって言ったか?俺はお前みてぇな女会った事ねぇよ。なぁ、あっちで二人で飲み直さねぇか?」
カウンターへ視線を向け、シェリーをカウンターへと誘うサッチに、頷いて誘いを受けるシェリー。
腰に回した手をそのままにカウンターへと向かうサッチとシェリー。
二人が背中を向けた瞬間、シェリーだけがマルコ達に振り返ると、舌を出しながらサッチとは反対の手を少しだけあげて、OKサインをするとすぐに前へ向き直り、サッチとカウンターの席に座る。
その瞬間。
マルコとイゾウは全てを悟ったのだった。
シェリーと名乗ったあの美しい女の正体を。
「ハルタ……ありゃどういう事だよい…」
「サッチを少し懲らしめてあげようと思ってさ」
心底悪い笑みを浮かべて二人をみやるハルタにマルコとイゾウの背を冷や汗が辿ったのだった。
その間も、いける!と勘違いしたサッチはルカが変装したシェリーと言う女を口説いていた。
そして、とうとう口説いたと勘違いしたサッチは船員達の前でシェリー…ルカにキスしようと顔を近付けるも、ルカが人差し指をたてそれを止める。
『皆が見てる前でなんて恥ずかしいわ?あなたとするなら二人きりで誰にも邪魔されずにゆっくり過ごしたいわ?』
これでだめ押しとばかりに口にした台詞にサッチは上機嫌でルカの腰に手を回した瞬間。
彼は、地面とキスをした……
痛みと今の状況が理解出来ずに目を見開くサッチにハルタが堪えきれず笑い出す。
「アハハハ……!!」
突然の出来事とハルタのあげた笑い声に店内は静まり返るとシェリーに扮したルカがサッチの前に屈みこむと、被っていたかつらをずるりと外した。
それに店内の全員が目を見開いた。
『サッチ?お楽しみはこれからよ?』
妖艶な笑みを携え、銀髪を靡かせる紅い瞳がサッチを見据えたところで事の次第に気付いたサッチは茫然自失。
それと同時に店内は一気に驚きと笑いに包まれたのだった。
『今日の収穫は0だね?サッチ隊長?』
笑みを浮かべて告げた言葉にサッチは我に返りなんとも言えない雄叫びをあげたのだった。
『ふん。これに懲りたら、あたしに回す書類は貯めずにこなしてね?』
にっこりと笑顔を溢すと高らかに笑いながらルカは酒場をあとにしたのだった。
「サッチ隊長、残念でしたねぇ?」
船員達はそれぞれ今夜を共にする女を連れて酒場を去っていった。
それから数日。
それをねたにからかわれる威厳のかけらもないサッチの姿が見られたとか…
あれさ、俺以外の奴も騙されてた癖に何で俺ばっかバカにされたんだよ!!!
って俺は言いたい!
けどさ、今となっちゃあれもいい思い出だよな。
一瞬でも本気で女のあいつを間近で見れたの俺だけって事だろ?
ちょっとだけ優越感だよな!
思い出すのは、無邪気に笑う君の顔。
今では船内のどこを探しても見つかる筈のない君の笑顔を、ふと気がつくと俺は探している。
君を守ると決めていたのに、実際に守られたのは俺だった。
悔しくて、悲しくて。
もしも、もしもいつかまた巡り会えたなら、
今度は必ず俺が君を守ってみせるから。
そんな、もしも話を願う俺を君はどう思うだろうか?
胸に宿る願いを星に託す
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