destiny-31





突き刺さっていたナイフを一気に抜くと、そこからは夥しい量の血がダラダラと流れ出す。
一気に流れ出した血に体は崩れ、甲板に膝を着くも倒れるわけにはいかず、片足を立てて踏みとどまる。

「おっと…刺した場所が悪かったか?血の量が尋常じゃねぇなぁ?こりゃあいつらとの合流場所につく前におっちんじまうか?」

ぼやけ始める視界にティーチを映すが、その顔は狂喜に歪んでいる。

「まぁ、俺の邪魔にならねぇなら死んでくれても構わねぇがなぁ、ゼハハハハハ。せいぜい残りの命を楽しめよ?じゃあな…ゼハハハハハ」

笑いながら、去っていくティーチに唇を噛み締める。
口から流れる血。
咳き込むと溢れ出る血液。
そして、腹に触れても止まる事なく流れる血にとうとうルカは倒れ込んだ。

直後、ルカの発した覇気に異変感じた隊長達や船員が甲板に現れると全員が目を疑った。

そこには、血の海に倒れるルカと少し離れた位置で瓦礫に埋もれ倒れるサッチがいた。

「ビスタとジョズはサッチの見てきてくれよい!」

二人以外の隊長と船員は周囲に気を配りながら、ルカへと駆け寄りマルコがうつ伏せで倒れるルカを抱き起こすと、閉じていた瞳がうっすらと開かれる。

「ルカ!大丈夫かよい!?何があった!」

マルコの声に安心したかのように、薄く笑みを洩らすもなかなか口を開かないルカ。
そこへ響いたのはサッチの怒鳴り声だった。

「ルカ!てめぇ、勝手に助けに入ってんな傷こさえやがって!何やってんだよ!バカやろうっ!!!!」

「サッチ!黙らねぇか!何があったんだ?」

静かに、だが確かに怒りを孕んだ声音で告げるイゾウにサッチは口を開いた。

「……ティーチだ…ティーチが俺の見つけた悪魔の実を狙って背後から襲ってきたのをルカが庇ったんだ。その拍子におれぁ…情けねぇ事に頭ぶつけてよ…意識ブッ飛んじまって…」

拳を握り締めて、涙の浮かぶ瞳でルカを見据え震える声で事の一部始終を話すサッチ。

そこへ、騒ぎを聞き付けた白ひげがジェットとナースを引き連れ現れた。

ジェットのナースにルカを看るように指示すると、ルカから少し離れた位置で隊長達と話をしていたが、ジェットの悲痛な呼び掛けにそちらへ視線を向けると

「ニューゲート…ルカは…手の施し様が…ない…」

手を握り締めて、哀しみに歪んだ声で告げた事実に船上は一気に空気が冷えた。

「……どういう事だ?」

「刺された場所が悪い。傷は深く内蔵を抉り、何より出血が多すぎる……ルカの血液は特殊だ…もしもの時のためにと血液を取っておいたがその量でも追い付かない…為す術がない…」

その言葉に全員が愕然として血の海の隣に横たわるルカに視線を向けると、ルカの元へと駆け寄った。

「ルカ!ふざけんなよ!次の島でまた一緒に回ろうって約束したじゃねぇかよ!」

エースがルカの上半身に抱き上げ声を荒げる。

目を閉じていたルカがエースの声にまた目を開くと、涙を流し己に捲し立てるエースを捉え、笑みを向けると血まみれの手をエースへと翳す。

『な…か…ない…でよ…。」

話し出したルカの声に全員が耳を澄ませる。

「んな事言ったってよ…まだまだ俺はお前と見たい場所も、景色も、一杯あんだよ!親父を海賊王にすんだろっ!なぁ!こんなとこで死ぬんじゃねぇよ!」

『大丈夫だ…よ…。あたしは…これ…からも…皆の…側にいるよ?ゲホっゴホッゴホッ』

話す度に咳と供に溢れ出す血液に全員が顔を歪ませる。

『だ…から…あた…しの…心配なんてし…ないで……先に進んで?え…す……笑っ…てよ……あた…し…え…すのわら…た…顔が……だい…す…きだった……んだ…から」

そう笑顔を見せたルカにエースは涙にまみれた笑顔を見せた。
それにうんと頷くと、白ひげを呼んだ。

「…お…やじ……さん…ごめん…ね?先に…逝く…よ…。でも、……あたしは…み…なに…あえて……しあわせだた……」

白ひげに手を伸ばすとその手を白ひげは握り締めて、目尻にきらりと涙を浮かべた。

そして、最後に隊長達を見回し、サッチに目を止めるとニコリと笑い

『こ…れは…サッチのせ…じゃな……から…自分を…責…めないで……ね?あ…たしの未熟……さが…まね…い…た事…だ…から…』

そして、空を仰ぐと瞳を閉じてルカは静かに息を引き取ったのだった。

甲板にはルカの名を叫び、泣き叫ぶ者。
瞳から涙を流し、歯を食い縛る者。
ただ静かにルカを見つめ涙を流すもの。
拳を握り締めて、涙を溜めルカを見据える者。
それぞれの哀しみが船を覆った。



愛された堕天使

(死んじまったら意味ねぇだろ…)
(なぁ、起きろよ…)
(目を開けて、冗談だと言ってくれ…)

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