心は愛を欲してる



年の終わりの白ヒゲ大忘年会。

近海を進む傘下の海賊達もこぞって参加する。
楽しげな雰囲気とは裏腹に少し離れた海上には、忘年会であるにも関わらず無駄な警戒を見せる海軍の軍艦がぷかぷかと浮かんでいた。


『エース!!呑んでるー?』

「ルカ!おう!!喰ってるぞ!!」

『……ちょーっと返事が違うけど、まぁいいか』

そう言ってエースの隣に腰を下ろすと、ルカはエースに話しかけた。

『ねぇ、ねぇ。ちょーっと、聞きたいんだけどさ。エース、この後なんかある?』

「ん?何もねぇけど?終わったら寝るだけだ」

『ふーん。』

そう返すとルカは腕時計に視線を落とすと立ち上がった。

『じゃぁさ!ちょーっと付き合わない?』

「どこにだ?」

『あそこ』


1番大きなメインマストを指さしてニッと笑うルカに首を傾げつつもエースは頷くと立ち上がった。

その時一瞬、マルコへと目配せをしたルカには気付くことなく。

エースはルカの後を追って、メインマストへと歩き出したのだった。




「寒くねぇのか?」

『寒いに決まってんでしょ!!』

そう言いながらルカはエースへとぴったりとくっつくと、エースは笑いながらルカを包み込むと2人は明るく賑やかな甲板を見下ろした。


『ねぇ、エース?』

「ん?なんだ?」

『エースは、お父さんが嫌い?』


ストレートに聞かれたルカの言葉に、エースはその顔を歪めた。


「…なんだよ。急に」

『ん。何となく。あたしはさ、元の世界に親も兄貴も馬鹿な悪友もいたんだ。』

前を見据えて話し出したルカの顔をエースは見つめる。

『実はね、この世界に来たのは。多分おじいちゃんが、関係してるみたいなの。』


それまで、語ることのなかったルカの話にエースは目を丸くする。


『あたしのね、おじいちゃんも。この世界に堕ちてきてた。今を生きてるのか、とっくの昔に死んだのかもわからないけど。おじいちゃんが、エースのお父さんと知り合いだったのは。確かなの。それでね、エースと歳が近いだろう。あたしをおじいちゃんはこの世界に呼ぶことにしたみたいなのよ。』


「…っ!!それって、俺のせいでルカは…」


続けようとした言葉はルカが振り返り、エースの頬を両手で包んだことで途切れた。


『エースのせいじゃないよ。』


真っ直ぐにエースを見つめる紅い瞳に、エースはグッと言葉に詰まる。



『多分…選べたとしても。あたしはきっとこの世界にやってきたと思う。』


そして、君を捜したと思う。


ルカの言葉にエースは真剣な眼差しを向ける。



『あたしはね、エース。元の世界にあったこの世界の本で、大体の事は知ってるつもり。』


だからこそ、あたしは君に会いたかった。


続けた言葉にエースは瞳を丸くする。


『君が、エースが。この世界を、お父さんを嫌ってる事も全部知ってる。そして、誰よりも人の温もりを欲してることも。誰よりもエースが優しいことも。』



そして、誰よりも悲しみを苦しみを抱えてる事を知ってる。





『あたしね、エースに会ったら伝えたい言葉があったの』


一度外した視線をエースへと向けたルカは、エースの瞳を見上げた。





『エースは、生きてていいんだよ。あなたは誰よりも明るい光を持ってる。誰よりも優しい心を持ってる。あなたは、愛されてる。沢山の人に。そして、誰もを惹きつけるの。その光で…』


寒さで頬を赤くして、告げる言葉にエースごくりと喉を鳴らした。



『エースを、蔑む奴がいるなら。あたしがそんな奴ぶっ飛ばしてあげる。』


『エースの事、悪く言う奴がいたら。あたしがぶん殴ってあげる』

『エースが道を間違えそうになったら、この体で止めてあげる』

『エースが淋しいなら、抱きしめてあげる』





『エースの側に、あたしも皆も…ずっといるから。』







そうルカが言った瞬間、甲板から声が上がった。






「エース!!」



俺らはお前が大事だぜ!!

手のかかる奴程、かわいいってか!!

お前がいねぇと、喧嘩も面白くねぇ!!

お前がいるから、俺らは笑ってられる!






それに何より、この船でいらねぇやつなんざ

誰一人いねぇ。



皆親父の息子なんだからよ!!





声にエースが甲板を見下ろせば、大きな布に書かれた




エース!!happy birthday!!




の文字。








『エース。見てよ。この船の全員、エースを愛してる。』


『エース。あなたはもう1人なんかじゃないんだよ』




だから、お願い。




愛してくれて、ありがとう




なんて、あんな悲しい台詞を残さないでほしい。




一緒に、この海の先を生きていこうよ。







言葉には出さなかったルカの言葉は闇に飲まれる。






ルカの視線の先には呆然と甲板を見下ろすエースの姿。




『エース。誕生日おめでとう。あたしは、エースに会えて本当に幸せだよ?産まれてきてくれてありがとう』



だからね、あたしはエースのお母さんとお父さんにお礼を言いたい位なの。



続けた言葉にエースが振り向けば、優しく笑うルカの顔。




「…ったく。しょーもねぇ、奴ら」


ぽつりと零したエースは頬を掻きながら俯くと、バッと顔をあげた。


その顔は心からの笑顔。



「サンキューな。ルカ。確かに俺は親父の事なんか、大っ嫌いだった。だけど、今は…」



そこで1度区切ると、甲板へとエースは視線を向けてから白ヒゲを見る。

そして、もう一度ルカを見た。



「あいつのおかげで、オヤジやルカ、みんなに会えたから。少しは感謝してるぜ?」




ニッと笑ったエースに笑顔を浮かべて頷くと、2人はメインマストから飛び降りた。


降り立った場所には一斉に家族たちが詰め寄り、エースはもみくちゃにされてしまう。

それをマルコの隣へと移動したルカは笑いながら見つめる。




「これで、よかったんだろい?」


『うん!ごめんねぇ?いいとこどり!』


にしっと悪戯な笑みを浮かべたルカの頭をマルコはガシガシと撫でる。


「お前が適任だろい?1番、あいつのちかくにいたお前の」


これからもな?と続けられた言葉にルカは一瞬だけ顔を曇らせた。


『そうだね』



一拍遅れた返事を訝しがりながらも
両手を振りながらこちらへと声をかけるエースの元へと2人は歩み寄る。


もみくちゃにされて、ボロボロのエースは
これでもかと輝く笑顔を2人へ向けた。



心は愛を欲してる
なら、あたし達が惜しみない程に
君へと愛を捧げよう
君を愛する人は星の数程いるのだけど…


2014/01/01 ace Happy Birthday!!!!!

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