Savior-45
『……………』
物言わぬ亡骸となったティーチの傍らへとしゃがみこんだルカは、びりっと着ていた服の裾を破くとティーチの口元を伝う血を拭った。
それを無言で見つめるエース、マルコ、サッチ。
『バカだよ。本当…』
そうルカが零した時。
背後でザッと足音がした。
それを聞いたルカはもう一度、ティーチの顔を見つめてから立ち上がる。
「何だよい?」
「まぁだ、続けるか?」
「俺はもう、捕まんねぇし…誰もわたさねぇぞ」
「お前らの事はもういい。私は堕天使に用がある」
ルカが振り返った先には、海軍元帥センゴク。
『……なに?』
「さっきの契約。書面にはしてない不当な物。だが、確かに承諾はしたからな。それに従い、不服ながら白ひげ海賊団及びその傘下の者達には手出しはせん。だが……」
『何?長い話なら後にしてくれる?』
「白ひげ海賊団、異界の堕天使アマクサ・ルカ。貴様は海軍に投降してもらう!!」
そうセンゴクが言った瞬間。
ルカ達を囲うように海兵達が武器を向けた。
「ふざけるなよい。そりゃ、できねぇ相談だ」
「わりぃがそうやすやすと大事な家族を渡す真似、俺らにゃできねぇぜ?」
「やっと会えた姉ちゃんと又離れるなんざ、ごめんだぜ?」
そう言って、センゴクを…海兵を睨みつける。
『………ってわけだし?あたしも、やっと会えた家族と又離れ離れなんて嫌なんだよね。…っつ!?』
真っ直ぐとセンゴクを見据えたルカだったが、ここに来てシリュウから受けた深手が響いてきたのかガクリと膝をつく。
「「「ルカっ!!」」」
サッチがルカに駆け寄り傷の具合を確認する。
傷はかなり深く、かなりの量の血も流れている。
傷口を見たサッチは眉間に皺を寄せ、マルコへと無言で視線を向け首を振った。
その時更に3つの足音に顔を向けたサッチの視界に入ったのは、3人の海軍大将だ。
「そんな大怪我したもん、捨て置いていけぇいっちょるんがわからんかぁ?」
「足手纏い以外の何ものでもないだろぉ〜?」
「だーいじょうぶだってぇー。わりぃようにはしねぇからよ??」
そう言って彼らはルカを守るように立ち塞がるマルコ達を見下ろした。
「悪いが、俺らの中にルカを売って逃げ馳せようなんて奴は誰一人としていないよい」
そう言ってマルコは不敵に笑ってみせると、それに続いてエースも口を開いた。
「おうっ!!帰るときは全員一緒ってこった!!」
「堕天使が恐れた事態になろうと構わないのだな?」
告げたマルコとエース、背後に控える白ひげの海賊たち、傘下の海賊達を見てセンゴクが言った。
「ここでルカを置いて逃げ出すくれぇなら、俺らはルカを守って死ぬ方を選ぶってぇもんだ!!」
白ひげの言葉に、船員、傘下の海賊たちも咆哮をあげて答える。
『……みんな…』
それを聞いたルカの瞳には涙が滲む。
「…ってぇ、わけらしい。センゴク、お前ら海軍がこいつらを追うと言うなら。俺らも全力で阻止させてもらおう」
言ったのはシャンクス。
「貴様…」
「俺も、もう会うことは叶わないと思っていたルカと又別れるという選択肢は持っていない。こいつを捕らえるということが、お前らにどれだけの損害が降りかかるか…よく考えるといい」
シャンクスの言葉にセンゴクは苦虫を噛み潰す。
「例え、どれだけの被害を被ろうと。我々海軍は、脅威である堕天使を逃がすわけにはいかん。幸い、堕天使は深手。赤髪!!例え貴様が邪魔だてしようとも、堕天使をこの海に解き放つことはできん!!構えろっ!!他の誰を逃がそうと、完全に覚醒した堕天使だけは逃がすな!!!」
センゴクの言葉に武器を持った海兵が、サッチに支えられて立ったルカの元へと詰め寄ってきた。
と、その海兵たちを炎が包んだ。
「わかんねぇ奴らだな。ルカはわたさねぇって言ってんだろうが」
海兵たちの悲鳴と怒号を皮切りに、上空へと上がったマルコがルカとサッチの元へと舞い降りながら目前へと来ていた海兵を蹴り飛ばす。
「サッチ!!お前はルカ抱えて先に船へ向かえよい」
「おうっ!!後ろは任せた!!」
言って、サッチはルカを肩に担ぐともう片方の手に剣を握りモビーへと走り出した。
『ちょっと!!?サッチ、まだあたし走れるし闘えるよ!!』
叫ぶルカの声を無視したサッチは向かってくる海兵を片手で切り伏せて走る。
その間もギャーギャーと騒いでいたルカにサッチは声を荒げた。
「うるせぇ!!無茶ばっかしやがって!!俺らは全員お前の兄貴だ!!兄貴が妹守って何がわりぃってんだ!!てめぇはたまには大人しく守られてりゃいんだよ!!」
その言葉にルカが目を丸くした時、背後から刀を振り上げ向かってくる海兵が視界に入った。
『サッチ!!!!』
慌てて声を上げた瞬間、ルカを背負うサッチと海兵の間に影が潜り込んだ。
それと同時に崩れ落ちた海兵を見送ったルカの目前に現れたのはシャンクス。
「俺にも、お前を守らせろ…。サッチにばかりいいところはやれんからな!」
振り返ったシャンクスの顔には笑みが浮かぶ。
「マルコ達には、ベン達が援護に入った。直に来るだろう」
「で?俺らには、お前って事?」
「あぁ、不服か?サッチ」
「まぁ、今はそんなこと言ってられねぇか。しょうがねぇ、遅れとんなよ!!」
『ちょっ!!?勝手に決めないでよ!!シャンクス達は関係ないじゃない!!』
「ん?関係ないとはひどいな。友人を助ける事に理由なんて…必要ない。そうだろう?」
シャンクスが微笑みを浮かべてルカへ告げたとき。
シャンクスの背後にいた海兵が吹っ飛ぶ。
直後聞こえたのは。
「あぁっ!!!シャンクスの言う通りだぞ!!俺だって、まだまだ闘えるぞ〜!!」
ルカが振り返った先には、モビーからぞくぞくと降りてくるルフィと他の隊長達。
「ここからが、我らの出番か?末妹が暴れすぎたせいで待ちくたびれたぞ」
「ほれ、さっさと船へいかんか。援護は俺らに任せろ!!」
その様子を見ていた白ひげは後退を始めながら声をあげた。
「赤髪の小僧たちと協定を結んだ!!援護しあいながら、なんとしてもルカをモビーへ!!!てめぇらぁ!!行くぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
響いた白ひげの声に続いてあちらこちらで声が上がる。
目的を達した彼らが海軍本部であるこの島にいる理由はもうない。
ただ彼らは、愛する妹と
愛する友と
愛する女を守り通して、あの常識の通じない海。
“新世界“へ帰るために走り出した。
大脱出!!
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