「そやそや、うち、姐さんたちに頼まれてたんやった」
「何だ」
「土方はん、ここに何しに来はったの」
「あぁ?」
「色男なのに座敷に女も呼ばないで、一体何しに来はったんやろって。姐さんたちが噂してたんや」
「ったく、面倒なこった」
「で、聞いて来いて言われたんよ」
土方は横目で禿を見た。
それから目の前の膳に視線を落とす。
「別に、野暮用だ」
「野暮用て?」
「そのうち分かるさ」
そして、"そのうち"はまもなくやって来た。
土方が黙って酒杯を傾けていると、俄かに廊下の方が騒がしくなった。
「やっと来たか」
土方は満足そうに顔を上げた。
「来たって、何が?」
「失礼いたします」
禿が不思議そうな顔をした時、不意に廊下から声が掛かった。
そして静かに襖が開いて、見世の遊女が入ってくる。
「あ、姐さん!」
姐さんと呼ばれた遊女は、禿の方を見て険しい表情になった。
「こらあんた。お客様の前で失礼やろ」
「へぇ、すんまへん」
禿はばつの悪い顔をした。
「土方様、お連れ様がお着きになりました」
「あぁ、通してやってくれ」
土方はこくりと頷いた。
すると遊女が部屋を出て行って、代わりに"お連れ様"が入ってきた。
「土方さん、お待たせしました」
「おう、総司。遅かったじゃねぇか」
「えへへ、芹沢さんに捕まっちゃって」
「芹沢に?」
土方の眉間に皺が寄る。
「一緒に飲まないかって言われたから、体裁よく断ってきましたよ」
言いながら、総司はよっこらしょと土方の前に腰を下ろした。
そこで初めて、部屋の隅に控えていた禿に気が付いたようだ。
「えっと、……こんにちは」
「こんにちは」
吃驚したように総司を見ている禿に、土方は思わず笑みを漏らした。
「ほら、こいつがさっき言ってた餓鬼だ」
「あぁ、このお人が」
「ちょっと、土方さん」
総司の尖った声に、土方は顔を上げた。
「何だ」
「餓鬼、って何ですか」
「お前のことだが」
「……そうやって、この子に僕の悪口でも言ってたんですか?」
「悪口じゃねぇよ。事実だ、事実」
「は?訳分かんない!僕は餓鬼じゃありません!」
「だから、そうやってすぐムキになるところが餓鬼っぽいって言ってるんだ」
土方が総司を軽くいなしているのを、禿は困惑したような、何とも難しい顔をして見ていた。
「何、この方は土方はんの弟はん?」
「はぁ?」
間抜けな声を出したのは、すっかり機嫌を損ねた総司の方だった。
「何でそうなるの?誰がこんな人の…」
「こんな人たぁご挨拶だな」
土方は総司を鼻で笑った。
「土方はん、野暮用て、このお人と飲むこと?」
「そうだ」
禿の質問に答えてやると、禿は何やらむっとしたような表情を浮かべた。
「ふぅん…女はいらへんの?」
「あぁ、さしで飲む約束なんだよ」
「ふぅん……」
禿は胡散臭さそうな目で土方と、それから総司を見た。
「君さぁ、分かったらさっさと行ってくれないかな?はっきり言って邪魔なんだけど」
何故か機嫌を急降下させている総司が刺々しい声で言うと、これまた機嫌の悪そうな禿は、あからさまに顔をしかめた。
「なんや、うちは土方はんのお酌してたんや。邪魔て言われる筋合いはあらへん」
「煩いなぁ……僕が来たんだから、さっさといなくなればいいでしょ?僕は、あくまでもお客様なんだけど」
土方は暫く黙って二人のやり取りを聞いていたが、次第に険悪さを増していく会話に、とうとう口を開いた。
「おい総司、くだらねぇ意地張ってんんじゃねぇよ」
「だってこの子がいちいちムカつくこと言うから……」
「ったく、餓鬼だって言われたくなかったら聞き分けろ」
「むー……」
総司は土方のことを恨めしそうに見つめながらも、大人しく引き下がった。
「ほな、うちは失礼させていただきます」
「おぅ、ありがとな」
「へぇ。何かあったら、すぐに呼んでおくれやす」
「はいはい、分かったからさっさと行ってよ」
「もーう!……ふんっだ!失礼します!」
禿は顔を真っ赤にしながら、襖をピシャリと閉めて出て行った。
「…ったく、お前なに荒れてんだよ」
それを横目で見ながら、総司に問い掛ける。
「別に?荒れてるように見えるってことは、土方さんに何かしら落ち度があるってことなんじゃないですか?」
「はぁぁ……お前も大概に扱い辛ぇ奴だな」
「悪かったですね、どーせ僕は扱い辛い餓鬼ですよ」
「お前なぁ……あんな子供に嫉妬してどうすんだよ」
「なっ……べ、別に、嫉妬なんかっ…」
「はいはいそうかよ」
「っムカつく!何その言い方!僕は!ただ!せっかくご多忙な副長殿と2人っきりで飲めるから!邪魔なんかされないで、少しでも長く一緒に居たかっただけなのに!」
ぎゃあぎゃあとまくし立てている総司の言葉に、土方はしたり顔で笑みを浮かべた。
「は、とうとう言いやがったな」
「へ?!」
「それがお前の本音なんだろ?」
「っ……!」
総司は見る見るうちに真っ赤になって、今にも泣きそうなほど顔をしかめながら、ぷい、とそっぽを向いてしまった。
「はぁ……拗ねんなよ、総司。心配しなくても、今夜の俺の時間は全部お前のもんだ」
「別に拗ねてませんっ!!」
「……」
土方は普段の勢いをすっかりなくして小さくなっている総司に笑ってやると、その身体をそっと抱き寄せてやった。
「総司、俺はお前以外見てねぇよ」
「…………そんなんじゃ足りないんですけど」
栗色の髪の向こうに見えた総司の首は、熱でもあるかのように真っ赤に染まっていた。
「…だから、お前が好きだって言ってんだよ。分かりやがれこのやろう」
2012.02.10
なぁぁぁんの萌えもない( ・ω・ )
そんなこたぁ分かってる
しかもきっといっぱい訛り間違ってますよね!
すんまへん!
そやかてー、うち江戸っ子だから分からへんの。
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