「大丈夫か…?」
ぐったりしている沖田が心配になって土方が上から覗き込むと、沖田はとろんと溶けた目で土方を見上げてきた。
「……っ…」
土方はごくりと生唾を飲んだ。
「…………ありがとう…ございました…」
「いや…」
土方はばつが悪くなって顔を背けた。
……手がすっかり汚れてしまった。洗わなければ。
そんなことを考えて気を紛らわせていると、不意に沖田が言った。
「…いいんですか?先生は」
「何がだ」
「僕に挿れても……いいですよ?」
「なっ……んなことできるかよ!」
お前は俺の生徒だろう、と声を荒げて言うと、沖田は小さく笑った。
「もう、一線は超えてますよ」
「だからって…」
「でも、さっきから当たってるんですけど。先生の硬いの」
土方がギクリと身体を強ばらせると、沖田はくるりと身体を反転させて、ズボンの上から土方自身に触れてきた。
「……やめろ」
「ねぇ、僕に欲情したんでしょ?」
「っ……」
否定できないのが、何とも心苦しい。
果てたばかりの上気した顔に妖艶な笑みを浮かべ、下から土方を見上げてくる沖田はとても扇情的だった。
「僕に挿れるのが嫌なら、口で抜いてあげますよ」
「な……ちょっと待て、おい!」
土方は慌てて制止したが、沖田は慣れた手つきでチャックを開け、熱く昂ぶった土方自身を取り出した。
「ん……おっきい」
「沖田!今すぐやめねぇと……っ!」
土方は思わず息を詰めた。
沖田が、舌を這わせてきたからだ。
変な声を出しそうになるのをぐっと堪えて、土方は沖田の頭を押し返そうとした。
「やめ、ろ……っ」
「何れ?…気持ちよくない?」
「っそこで喋るんじゃねぇ!」
土方が慌てていると、沖田ははむ、と先端を食んできた。
「っ……」
息が上がってしまうのは本能的なものだ。
自分ではどうすることもできない。
巧みな舌使いで裏筋を舐めあげ、口に深く含められれば、土方ももうお手上げだった。
沖田の口の中で、どんどん質量を増していくのが分かる。
気持ちよくないと言えば嘘になる。
寧ろ沖田の口淫は実に上手く、この上なく吐精感を煽るものだった。
やはり慣れているのかと、土方はどこか寂しく、情けない気持ちになった。
「っ……もういい」
必死に口を動かす沖田の髪を掴んで、土方は頭を離そうとした。
「ん゛っ、んんっ……」
「おい、聞いてるのか?出ちまうから…」
しかし、沖田は動きを止める気配を見せなかった。
それどころか、より一層執拗に舌を絡ませてきているように思える。
「おい、本当にもう………っ」
土方がぐい、と手に力を込めて引っ張ると、力に逆らえずに沖田の顔が離れた。
その瞬間、沖田の歯が先端を微かに掠めた。
「っ!!」
「あっ―――」
土方はつい堪えきれずに我慢していたものを吐き出した。
勢い良く飛び出したそれは、当然沖田の顔にピシャリと当たることとなる。
「んっ…!」
沖田は微かに顔を歪めた。
乳白色のどろりとした液体が、沖田の頬を伝って顎まで零れ落ち、一部はその唇を汚す。
土方は咄嗟にしまったと思いつつも、その余りにも卑猥な光景に、思わず息を飲んだ。
「にが……」
沖田は唇に付いた精液を、ペロリと舌で舐めとった。
「っ悪ぃ……」
「…先生って、顔射する趣味あったんですね」
「ち、違ぇよ!これはたまたま…」
「あはは、ワザとですってば」
「何だと?」
「歯立てたの、ワザとですから」
唖然とする土方の股座で、沖田は意地の悪い笑みを零した。
「お前……いつもこんなことをしてんのか」
土方が声のトーンを変えて言うと、沖田はまた煩そうな顔をした。
「…そうですよ。だから何ですか?」
土方は深々と溜め息を吐いた。
こんな媚態を不特定多数の男に見せているという、その無防備さに対しての溜め息だ。
これなら惑わされる男が何人いてもおかしくはないだろう。
元来土方は独占欲の強い男だ。
この先どうするか、既に心に決めていることがあった。
「お前、金輪際援交はやめろ」
土方が語調を強めて言うと、沖田はまた嫌そうな顔をした。
「だから、さっきも言いましたよね?僕、やめるつもりはありませ…」
「俺が、相手してやる」
「え………?」
沖田は信じられないという様子でこちらを見てきた。
「なん…で……」
「お前が望むように抱いてやるから、俺以外の男にはもう二度と抱かれるな」
横暴とも言えるその台詞に、沖田は息を飲んで固まっていた。
「で、でも……僕はお金が必要だから…」
しどろもどろになって言う沖田に、土方はちらりと目線を合わせた。
「一人暮らしが大変なら、ここに住めばいいだろう」
「な………」
沖田は眉を吊り上げて土方を見上げてきた。
「っ先生バカですか?!自分が何言ってるか、分かってるんですか?!」
「あぁ、そのつもりだ。お前が援交するくれぇなら、俺が相手した方が何十倍もマシだからな」
「っ……そんな…そんな憐れみなんていらないっ!」
「憐れみじゃねぇよ」
「じゃあ何なんですか?そもそも何でそんな非現実的なことを平気で言うんですか?教師たるもの…そんなんじゃ駄目じゃないですか!」
沖田の言葉に、土方は小さく笑った。
「何だよ、お前が言ったんじゃねぇか。何でも型通りの教師ぶってる俺が嫌いだって。それなのに、型破りなことをしたら、それはそれで怒るのか?…おかしな奴だな」
「それは…その…………」
沖田はなにやら口の中でぶつぶつ言っていたが、すぐにまた顔を上げて言った。
「学校にバレたらどうするつもりですか?」
土方は呆れたように溜め息を吐いた。
「その台詞、援交してたお前に言ってやりてぇよ」
「っ………」
反論の余地がないのか、沖田は答えに窮している。
「まぁ、考える時間はやる。但し、援交をやめねぇ限り、俺はお前に口うるさく付きまとってやるからな」
「そんなのっ………もういいです。考えるまでもありませんよ。ここに置いてもらいます」
得るものこそあれど、僕が失う物はなにもありませんもんね、と沖田は言った。
「随分とあっさりした決断だな……いいのか?お前、俺のもんになるんだぞ?」
そう言った途端、沖田は耳まで真っ赤に染め上げた。
「いいって言ってるでしょ!!先生のことが好きなんだから、援交なんかよりずっといいに決まってるじゃないですか!」
「好き……?」
土方は自分の耳を疑った。
「お前今、好きって言ったのか……?」
「そうですよ?何で今更驚いてるんですか?」
「え、いや………好きなのか?」
「はぁ?……最初に言ったでしょ?」
「興味ある、とは言っていたが…」
「もう!同じことですよ!」
そう言って沖田はそっぽを向いてしまった。
「そうか………」
土方は沖田を見つめながら、暫し考えを巡らせていた。
果たして自分は、沖田のことが好きなのだろうか。
今日彼に散々煽られたのは事実だが、それはひとえに媚薬の所為ではないのか云々。
隅々まで考え尽くした土方だが、やがて顔を上げると、沖田のことをじっと見据えた。
「おい沖田」
「…………総司でいいです」
沖田はむっとした表情で、土方を見てきた。
「俺もお前に興味あるぜ、総司」
そう言って、土方は薄く笑みを浮かべた。
堕ちるなら、とことん堕ちてやる。
甘い罠に、土方は一歩足を踏み入れた。
終
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