「媚薬、だと……?」
開いた口が塞がらなかった。
頬を上気させ、いつもにも増して色気を放っている沖田の様子を見れば、媚薬というのが嘘でないことは明らかだ。
が、しかし、土方はどうしてもその現実を受け入れることができなかった。
「何びっくりしてるんですか……援交してるような奴なんだから、媚薬の一つや二つ持ってたって全然おかしくないでしょ?」
そういうことではない。
土方は、全く別の理由で衝撃を受けていた。
「お前…これを俺に飲ませようとしたのか……?」
そう尋ねると、沖田は一瞬だけぎくりと肩を震わせてから、諦めたような笑みを浮かべた。
「そうですよ」
「何で……」
土方は、どうしても理由が分からなかった。
自分に理性を失わせて、一体どうしたかったと言うのだろう。
「…俺に媚薬なんざ飲ませて、どうするつもりだったんだよ。俺を生徒…それも男子生徒を襲ったとんでもねぇ教師に仕立て上げて、免職にでもなればいいと思ったか?」
「嫌だな…違いますよ」
沖田は目を丸くして言った。
口元はさも可笑しそうに緩んでいる。
「僕、ね……」
沖田がちらりと土方を見てきた。
土方が沈黙してその先の言葉を待っていると、沖田は溜め息混じりに呟いた。
「…先生に、興味あったんだ」
その言葉の真意が分からず、土方は眉を潜める。
「どういうことだ」
「どうもこうもありませんよ。初めて学校で会った時から、先生以外見てなかった」
「な………」
「先生が乱れるところ、ずっと見てみたかったんです」
土方はまた絶句して、その場に立ち尽くす。
「お堅いスーツに身を固めて、どこまでも型通り、規則違反は断じて許しません、って感じの鉄仮面を、こう……外してみたかったというか」
「お前………」
「だって、先生だって、男でしょ?」
息を乱して力なくソファに沈み込む沖田を、土方は幽霊でも見るかのように眺めていた。
「今日あそこで会った時、チャンスかなって思った。先生に電話がかかってきたのも全部、行動に移せってことなのかなって……」
「じゃあお前、まさか最初からそのつもりで…」
「じゃなかったら、声なんてかけませんよ。だけど、それなりに良心の呵責もあったから、さ…つい躊躇しちゃって……もっと上手くやればよかった」
そう言って、沖田は自嘲している。
土方は推し量るように沖田を凝視した。
別に自分を陥れようとしていたわけではなく、全ては興味本位でしたことだという。
沖田の口調に他意は感じられないが、かと言って俄には信じられない…というかおいそれとあるような話ではないので、なかなか頭がついていかない。
怒ればいいのか、何か罰を与えればいいのか、するべき対処すら見当がつかない。
「は、ぁ……キツ…」
土方が押し黙っている内にも、沖田の息は上がっていく一方だった。
「ねぇ、せんせ…お願い」
沖田は、土方を見上げて言った。
「僕、もうキツい…」
潤んだ瞳で見上げてくる沖田に、ぐっとこないと言ったら嘘になる。
しかし、土方を押しとどめるものは多々あった。
「無理だ」
冷たく言って沖田から離れようとすると、不意に手を掴まれた。
その体温が余りにも熱くて、土方は思わず沖田を振り返った。
「ねぇ、…責任、取ってくださいよ」
「お前が勝手に飲んだんだろうが!それにそもそも、お前が媚薬なんか使わなけりゃ、こんなことにはなってなかったんだよ!」
「僕、別に誰にも言わないから、」
「そういう問題じゃねぇだろう!」
「お願い、先生……目の前に先生がいるのに、僕一人で抜かせる気ですか?」
そう言って、沖田は指を絡ませてきた。
不思議と気持ち悪さや嫌悪感はなく、その媚態には酷くそそられるものがある。
「まぁ…別にいいですよ?一人でするのが嫌なら、この火照った身体を冷ましに、もう一度ネオン街に行けばいいだけの話だし」
「…っ!」
土方は答えに詰まった。
それは、一番芳しくない選択肢だ。
また援交をさせるのは何としても阻止したいし、それに何よりも、この乱れたままの状態で帰すのが一番憚られた。
「……分かった。責任は取ってやる」
土方は、沖田のすぐ傍に腰掛けると、沖田の腰を引き寄せた。
沖田がそうであったように、土方もまた、何か理由が欲しかったのだ。
沖田とことに及んでしまっても、正当化されるだけの理由が。
薬を飲んでしまったから仕方がない。
そう言って、全ての責任を薬に押し付けることができる。
そういう意味で、あの薬は本当に魅惑的だった。
飲んだ者だけでなく、周りの者までをその熱で脅かしてしまうような、そういう毒性を孕んでいる。
実際、土方の理性は脆くも崩れ去ろうとしていた。
それほどまでに、沖田の乱れた姿は恣惑的だったのだ。
だから、土方は殆ど何の抵抗も感じずに沖田に触れていた。
「んっ……」
微かな摩擦さえ快楽の引き金にしかならないらしい。
沖田は眉間に皺を寄せると、苦しそうな吐息を漏らした。
土方はぐったりとして力の入らない総司を自分の足の間に座らせると、躊躇うことなくズボンを下ろした。
「すっげぇことになってんな……」
下着も下ろしてしまえば、そこが次から次へと蜜を零しているのが明らかになった。
土方が思わず呟くと、沖田は羞恥に耳を染め上げた。
「よ、余計なことは…言わなくていいですからっ」
珍しく押され気味の沖田を見て、その意外な一面に気をよくした土方は、ニヤリと口元を歪めた。
「余計なことか?」
「も…いいからっ……早く、」
先を急かす沖田を焦らすように、土方はワザと緩慢な動きで沖田自身に手を伸ばした。
「は、ぁ…じらさない…で…よ…」
「悪ぃな、後ろからじゃよく見えねぇんだよ」
「っもぅ…!」
突然沖田が土方の手を掴んだかと思ったら、次の瞬間その手を強く自身に押し付けた。
「んぁっ、あっ!」
そして大袈裟に肩を震わせて快感に耐えている。
土方はその大胆な行為に一瞬だけ驚いて動きを止めたものの、理性の焼き切れた沖田の姿に言いようのないほど煽られて、すぐに手の動きを再開させた。
「ぁ、も…むり、ぃっ…」
「何が無理だよ。こんなに濡らしやがって」
沖田が熱い息を吐き出して、土方に体重を預けてくる。
「意地悪、言わないで、っん!」
色素の薄い頭髪がパサパサと音を立て、土方の視界を遮る。
「お前、いつもこんなことをされてんのか」
沖田の耳元で囁きながらも、下を愛撫する手は止めない。
つい手持ち無沙汰になって、空いている手で沖田の胸を服の上から弄ってやると、沖田は一際甘い声で啼いた。
「ここも感じるんだな」
「ぃっ、あ…やぁっ!」
「いっつも誰かに触られてよがってんだろ?」
「ゃ、あっ、ち、違っ…」
「違うのか?……ふん。どう違うのか教えてもらいてぇもんだぜ」
言葉巧みに沖田を追い詰めている間にも、辺りには粘着質で卑猥な水音が響き、沖田は益々辛そうに身体を捩らせている。
否、辛いというよりも、快感が上限を超えてしまったと言った方が適切だろう。
沖田は今や、呂律の回らない口と焦点の合わない目を持て余して、土方のされるがままになっているだけだった。
「こんなに感じまくって…お前、とんだ淫乱だったんだな」
「やだぁ…違う、っんぁ、!」
胸を弄りながら先端に爪を食い込ませると、沖田は土方の腕をぎゅっと握ってきた。
「っい、ぁっ、イっちゃ…!」
「イけばいいだろ」
「や、ちょっ…あぁっ!ま、待っ…」
「何で待たなきゃならねぇんだよ」
「いやぁ!イっちゃう!…っ…ぁあっ――!」
土方が指の腹で先端を擦るようにしてやると、沖田はぶるぶると身体を震わせて果てた。
その間ひっきりなしにあがる嬌声が、鼓膜を刺激して土方の熱をも煽る。
勢い良く飛び散った白濁は、着たままだった沖田の服を濡らし、卑猥な染みを作っていった。
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