空港に着いた時には、既に日付が変わっていた。
眠っていたらあっという間に着いてしまったが、目的地にはまだ暫くかかるため、起き抜けで眠い目を擦りながら、沖田は颯爽と空港を後にする。
電車もバスももうないし、交通手段はタクシーしかない。
運転手に、以前土方に教えてもらった住所を告げ、沖田は再び目を閉じた。
着いたのは、一人暮らしにしては快適そうなマンションだった。
オートロックではなかったので、そのままエレベーターで土方の部屋まで行く。
とりあえずインターフォンを押してみたが、土方はまだ帰っていないようだった。
仕方ない。これも想定内だ。
待っていればいつかは帰ってくるだろうから、それまで何時間…いや、何日かかろうとも待ってやる。
沖田はドアの前にしゃがみ込むと、腕組みをして、地面と睨めっこを始めた。
コツコツと廊下を踏みしめる音で、沖田は土方が帰ってきたのが分かった。
待ち始めてから数時間経ち、夏ということもあって、辺りは既に白み始めていた。
飛行機とタクシーの中で数時間寝ただけなのでかなり眠かったが、それでも沖田は懸命に顔を上げる。
「総司……?」
土方は信じられないとでも言わんばかりの様子で、少し離れたところに立っていた。
「…どうも。総司ですけど」
沖田は立ち上がって、土方を睨みつけた。
……否、睨みつけようとした。
「っ…ふ…ぇ………ひじかた、さ…」
土方の顔を見たら、張り詰めていた緊張がぷっつり切れたのか、ずっと我慢していた寂しさが爆発してしまったのだ。
怒るなんてとてもできず、沖田はバカでかい声で泣き出した。
土方も、沖田が怒鳴ることを覚悟していたのだろう。
突然泣き出した沖田に暫く狼狽えていたが、やがて歩み寄って、沖田を力強く抱き締めてきた。
「総司、すまねぇ……」
「うぅ………」
謝る土方に、沖田はやっぱり浮気なのかと確信する。
「ひどい!…ひじかたさん、っ…ひどい!」
ぽかぽか…と言うよりはどんどんと土方を殴ると、土方は痛そうに顔をしかめる。
が、思うところがあるらしく、抵抗もせずに甘んじて受けとめている。
「総司、……悪かった」
「許さない!ひどい!僕傷ついた!」
口では強がるものの、沖田の拳の威力はだんだんと弱まっていく。
最終的には、ただ土方のスーツに縋りつくだけのようになってしまった。
「ひ、かたさん……ひっく………二番目で、いいから…僕のこと捨てないで…」
「ばかやろ、急に何を言い出すんだ」
「うぅ〜……嫌いにならないで…」
拉致があかないとみた土方は、沖田を連れて家に入る。
こんな遠いところまで来て、疲れたであろう沖田を気遣い、そのままベッドに寝かせてやった。
そして自分も横になる。
「俺は、嫌いになんかなってねぇよ」
抱き締めながら言うと、沖田は嘘だ!と暴れ出した。
「嘘じゃねぇ。さっきの電話も、悪かったよ。あれは、あの女の出任せだ」
「………そんなの信じない」
「う……まぁ、好かれてることは知ってたんだが、…まさかあんなことを言うとは思わなかった」
「口ではなんとでも言えるじゃないですか…」
「…そう、だな……………」
あまりにも悲しそうな土方の声に、沖田はハッと顔を上げた。
嘘を言っているような感じはしない。
「………ほんと、なんですね?」
「あぁ。俺はずっとお前だけが一番だ」
「………………」
久しぶりの生身の土方に、沖田は柄でもなく照れて俯く。
「…ごめんな、電話もしなくて」
「そ、そうですよ!僕、すっごい心配したのに!」
「いっつも電話しようと思うんだが、仕事だ何だで帰りが遅くてよ。起こしたら悪いし、明日こそ、と思ってるうちにずるずる引き摺っちまった」
「………………」
「……怒ってるか?」
「怒ってますけど…」
「けど…?」
「……土方さん、まだ僕のこと嫌いじゃない?」
「当たり前だろうが」
「……愛想尽かしてない?」
「あぁ」
「じゃあ…………もう怒ってないです」
結局土方を突き放せなかった自分に情けなくなりながらも、沖田は土方にしがみついた。
「今夜は、こうしてていいですか?また、一人で頑張れるように、土方さん充電しときたいんですけど…」
「なんだそれ」
呆れたような声を出しながらも、土方は沖田をしっかり抱き寄せる。
「今夜って言っても、もう朝だな……」
「じゃあ、会社行くまででいいから…」
「いや、いい。会社なんて休んでやる」
「えっそれは駄目です」
「俺も総司を充電しねぇと無理だ」
「っ……そんなこと言って、僕が来なきゃあのまんまだったくせに」
精一杯の強がりを口にする沖田に、土方は触れるだけのキスを送る。
「そうだな。来てくれてありがとう、総司」
それからすっかり毒気を抜かれた沖田は、土方と、お預けだった暫く分の愛を育んでから帰って行った。
…数日間学校をサボって居座っていたというのは、ここだけの話だ。
2012.08.10
この二人なら、遠距離でテレフォンセックスも有りかと思う。
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