「ただいま……戻りました…」
時刻は既に明け方近い。
東の空が白み始めた頃、ようやく斎藤は、総司を連れて伏見まで帰ってきた。
「斎藤……」
帰りを寝ずに待っていた土方は、やつれきった目で、斎藤を迎えた。
「っ…副長」
渇きを知らない涙が、斎藤の目から溢れ出した。
土方は、斎藤の背中にあるものを、固唾をのんで凝視している。
「総、司………??」
総司は、斎藤の背中で、ただ眠っているように見えた。
「総司っ!総司!!」
駆け寄る土方に、斎藤が総司を渡す。
ぐったりと土方の肩に沈み込む亡骸からは、総司の匂いと、そして、血の匂いがした。
土方は総司にすがりついて、押し込めていた感情を吐き出した。
「ぅ……くっ…」
土方の目に、涙が溢れる。
「俺は、総司のためを…思って…」
「副長は……間違っていないと…思います」
「斎藤…ぅう……」
伏見の屯所の一室に、土方の咽び泣きが響き渡る。
「俺は…こうすることしかできなかった…できなかったんだ……」
「副長…」
「総司を幸せにしてやることなんか…俺には…」
「…副長が一緒で…総司は幸せだったと…」
土方は、押し黙って、暫く総司を抱いていた。
子供をあやすように、ゆっくりと左右に揺れて、頭をそっと撫でる。
「総司ぃ……」
やがて、斎藤が遠慮がちに口を開いた。
「総司の、最期の言葉……副長が、幸せになるように、と……言っていました…」
土方が目を見開く。
「……っ馬鹿野郎!…おめぇなしで…どうやって幸せになれってんだよ……」
「それから…忘れないでくれ、とも……」
「っ………」
斎藤は、じっと総司を見つめていたが、やがてさっと立ち上がった。
「俺は……失礼します。少し…休みます…」
土方はハッとしたように斎藤を見た。
「…すまない……俺は……あ…その、ご苦労、だった……」
「いえ、これは……いずれ通らねばならなかった道ですから……」
斎藤は、音もなく立ち去る。
後には、土方だけが残された。
「総司、悪いが…すぐ行くから……少しだけ…待っていてくれ……」
土方は一晩中、総司を抱き締めて、愛情という愛情を注ぎ込んだ。
「総司……愛して、る……」
とうとうやってしまった。歴史無視して総司を京都で殺してしまいましたよ。
ありえん。絶対こんなのありえん。
土方さん馬鹿でしょ!!
愛してるなら殺すなよ!
一君も一君だよ!
その命令だけは受けるなよ!
仕事は選びなさい!
だがしかし、総司を土方さんに殺させてみたかったわたし。
ほんとは、どこまでも冷酷な土方さんを描こうと思ってたんですけど、やっぱり総司の亡骸にすがりついて嘆き悲しむ土方さんが見てみたくなって、途中で進路変更しました。
なんか色々とすいませんでした…。
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