「ありがとう、一君」
果てしない沈黙の末、総司は短く言った。
ハッとして顔を上げる斎藤に、総司はにっこり笑いかけた。
「僕、幸せだよ。最期まで君に気遣ってもらえて。土方さんたちには嫌われちゃったみたいだけ
「それは違う!総司、あんたの死を望んでいる人間は誰もいない!」
総司は混乱して戸惑う。
「副長たちは、あんたを刀の時代に留めてやろうと……」
「刀の、時代?」
「ああ…今度の、伏見の戦いからは、鉄砲や大砲が主流になる。刀の時代は……もうすぐ終わる…」
「刀が…終わる……」
「これ以上病で苦しまないように…永遠に一緒にいられるように……そう思って…副長は…」
まさしく、断腸の思いで。
そんな言葉が相応しいのだろう。
斎藤の言葉は、真に迫るものがあった。
斎藤の言葉に、総司は号泣した。
「ズルいよ……一君…ほんとズルいよ……」
いつもそうやって、別れを辛くさせるほど、君はいい人になるんだから。
「ありがとう……一君…でも、もういいんだ」
「何故…」
「僕のこと、みんな忘れないでしょ?…嫌いじゃないでしょ?……なら、心置きなく逝けるよ」
「そう、じ……」
「それに、こんなに優秀な人がいれば、安心して新撰組を任せられる。近藤さんも、土方さんもいる…だから…」
総司の目から、大量の涙が零れ落ちた。
「総司っ!!」
「あはは。一君、そんなに泣かないでよ。僕、どうせあと少しで死ぬ運命だったんだからさ」
総司は、斎藤に刀を握らせた。
「最期に、一本、手合わせしてくれる?」
「総司、何を…」
「本気で打ちかかるからね。君も、容赦しない、で…」
新撰組には必要がなくなったかもしれないけれど、最期に土方さんの思いやりを感じられて、それでもう充分だった。
「僕は…刀と共に死ぬんだね」
最期にもう一度、土方さんに会いたいと思った。
今までのお礼どころか、さよならも言えないなんて、ちょっと心残りだ。
でも、いい。
我が儘はよそう。
斎藤が、俄かに立ち上がった。
「総司、あんたが勝ったら、逃げてくれ」
「勝ったら、ね」
「約束しろ」
「……分かった」
二人の間を、一陣の風が吹き抜ける。
そして、どちらからともなく、一斉に土を蹴って舞い上がり………
刃が冷たく煌めいた。
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