短編倉庫 | ナノ


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―――何故か朝から皆がそっけない。


「おはよう、総司」

廊下で総司とすれ違ったから、いつものように声をかければ、

「あ…………おはようございます」

と言ってそそくさと逃げてしまう。


昨日は久しぶりに床を共にしなかったから嫌味の一つや二つ覚悟していたのだが、無駄な心配だったようだ。

もっとも、昨日一緒に寝なかったのは、総司の方から「疲れた」などと言って振ってきた所為だ。


だからその時は、また俺が何かして、総司の奴の機嫌を損ねちまったのかもしれねぇ、と思っただけだったのだが。



いざ広間に入って席についても、誰一人顔を合わせようとしてこなかった。

交わすのは挨拶程度で、床にだらだらと寝そべっていた原田と永倉も、態度が素っ気ない。

どこかよそよそしいというか、妙に避けられている感じがした。


いつもと変わらないのは、山南さんくらいなもので。

「おはようございます、土方君。今日は良い天気になって、よかったですね」

「ん?…………あ、あぁ」

言われてみれば、昨日まで湿度の高い、嫌な天気が続いていたかもしれない。

普段山南さんと天気の話をすることもないので、多少の戸惑いを隠せなかった。

口調や、悠然と構えているその態度こそ平生通りだが、やはり山南さんもいつもとは違うのかもしれねぇと思う。


そして、広間に藤堂が入ってきた時、もやもやとしていた疑心がはっきりと頭をもたげることになる。

「おはよーございまー……………っ!!!」

寝ぼけ眼でふらふらと姿を現した藤堂は、土方を認めた途端、ぎょっとしたように反応したのだ。

「ひ、土方さん!………お、おはようござ…ます…」

いかにも目が覚めた!という体で、そそくさと自分の席へ向かっていく。

そんな藤堂を見て、永倉が小さく舌打ちをするのが聞こえた。

「…………?」

ちらりと原田を一瞥すると、困ったようにこちらを盗み見ているのがわかった。

「、」


ここで、てめぇら何を隠していやがる!などと怒鳴るのも一つの手だが、朝からそんなことをする気には到底なれなかった。

まぁ、どうせ常日頃"鬼の副長"などと呼ばれている身だ。

良からぬ噂を立てられたところで、大して反論はできまい。

そう思って、大きく構えていることにした。


続いて山崎も入ってきたが、流石は山崎。いつものように冷静沈着、皆に向かって一礼しただけで、あとは一切口を開かなかった。

普段から寡黙だと、こんなところで役立つのかもしれない。



やがて、お茶をお盆に乗せて、雪村が入ってきた。

雪村に至っては、ただにこりとしただけで何も言わなかった。

……この場合、それが正解なのかもしれないが、揃いも揃って皆が妙な態度を取っているのは、それなりに不快だった。

気にしねぇ、と思えば思うほど、行動がぎこちなくなってしまう。

言いたいことがあるなら、面と向かって言うのが武士だろう。

回りくどいことをする、と思い、ただ黙ってお茶を啜った。


「そういえば、総司と斎藤は?」

二人の姿が見えないことに気がついて、誰にともなく言う。

返事が返ってくることはあまり期待していなかったが、全員にお茶を配り終わった雪村が、目を泳がせながら教えてくれた。

「あ、それは………今日は私と沖田さんと斎藤さんが朝食当番だったんですけど、丁度お浸しに使うお醤油が無くなってしまったので、買いに行ってくださっているところです」

あまりにも訥々とした話し方で、嘘でも吐いているのかと思わず聞きたくなった。

「私が行くと言ったんですけど……私が外に出るのは危ないとおっしゃって…」

「醤油が無くなった?」

眉間に皺を寄せながら聞くと、原田がなるほど、と大声を上げる。

「それでさっき大慌てで出て行ったんだな」

「どうりでいつまでたっても朝飯が運ばれねえわけだ」

永倉も相槌を打った。

「………ったく、新撰組幹部が使いっ走りなんかして、みっともねぇよ」

何となく腑に落ちなかったが、朝餉が始められないのは確かなので、また黙っていることにした。



妙に気まずい沈黙が流れているところへ、突然近藤が駆け込んできた。

「大変だっ!六条の馴染みの料亭で、長州の奴らが暴れているらしい!」

「何??!」

血相を変えて立ち上がると、他の幹部らも慌てたように居住まいを正す。

「長州か!!?…暴れるって、誰と」

当然の質問をすると、近藤はしどろもどろになってお茶を濁す。

「それが……よく分からなくてね…町人相手なのか不逞浪士でやり合ってるのか…定かじゃないんだよ。ただ、通報してきた店の使いの者が、訛りは長州だったと言うものだから……」

「でも何で、奉行所ではなくうちに知らせたんだ……?」

「あ、いや…長州の敵と言えば新撰組だろうし……新撰組が段々と認められてきている…という…ことなの、では…」

「俺たちは何も町の喧嘩処理係じゃねぇんだよ」

不機嫌さが滲み出た声で言うと、近藤がまあまあと宥めてきた。

「…ま、長州の奴らがいるとなると、仕方ねえな。捕らえて引っ張らねえと」

そしてすぐ、皆の方へ向き直る。

「聞いたか?六条の小料理屋で斬り合いだ。新撰組、すぐに出動する!………あーっと、一番隊と三番隊は無理だな…じゃ、今ここにいる幹部と、集められるだけの隊士で行く」

こんな肝心な時に、新撰組きっての使い手が二人ともいないのは、正直キツい。

仕方なく、大勢を駆り出すことにした。


「まじかよー」

「俺、折角非番だったのに」

「しかも朝飯もまだ食べてねぇぜ?」

「腹が減っては戦はできぬ!…なぁんてな」

「長州の奴らも、こんな朝っぱらからよくやるよ」

「感心している場合かよ」

口々に何か言っているが、何故か、全て棒読みに聞こえた。

「いいからさっさと行くぞ」


そんなわけで、かなり苛々しながら出動したのだった。




―|toptsugi#




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