短編倉庫 | ナノ


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総司は風間に連れ去られ、数日間監禁されてました。
土方さんたちは必死で探し回ってます。






「っふ………」


漏れ出でそうになる声をぐっと堪える。

噛みしめすぎた唇から、真っ赤な液がぽたぽたと滴り落ちる。

目は心と共に堅く閉ざした。



何も見ない。

何も聞かない。

何も思わない。



……けれど、感じずにはいられない。



「んっ…んんっ…」

「もっと喘げ」

「っ……ふっん…」

「そんなに噛み締めたら傷がつく」



行為とは裏腹に優しい声色。

そして、更に優しく血を拭う指。



風間にさらわれて、もうどのくらいの時間が経ったのだろう。


土方さんたちは、僕を探してくれているのだろうか。


あの日町へ出掛けたきり戻ってこない僕を、助けようとしてくれている?




嫌だ嫌だ。

もういっそのこと、このまま消えてしまいたい。


どうせ二度と彼らに合わせる顔なんてないのだ。



下から突き上げる熱い塊に引き裂かれたのは身体じゃない。


僕の、心だ。



「泣き叫んで助けを呼べば、あやつが来てくれるやもしれぬだろう?」


首を振る。



こんな浅ましく、陵辱的な姿など見られたくない。

それに、今口を開けば、出るのは間違いなく嬌声だ。

拒絶する心を嘲笑うかのように、身体は快感に手を伸ばし、それに溺れていくのだ。


口を閉ざしているのが、最後の抵抗だった。



「強情な奴だ」


不意に手が伸びて、鼻を摘まれた。


「!」


荒縄で手を縛られていては、何の抵抗もできない。


止まない突き上げと快感の波に、徐々に息が苦しくなっていく。


悔しさからか、生命の危機を感じてか、堅く閉ざした目から涙が零れ落ちた。


「んっ……ふっ…」


身を捩って抵抗したが、片手で自身を扱き上げられ、腰から力が抜けていく。



死んでもいい。

こいつの前に屈服するくらいなら、このまま窒息死した方がましだ。



けれど、身体は本能に抗えない。



「っはぁ…あぁ、ん!」
息苦しさに思わず口を開けた途端、最奥を貫かれた。

たまらず発した喘ぎ声に、嫌悪感が込み上げる。


「…いい子だ」

「やぁっ…あんっ…あっ」


鼻を摘まれている所為で更に鼻にかかった嬌声が、絶え間なく漏れ出す。


「っあ…やっ…やだっ……」


抵抗は、虚しく虚空へと吸い込まれる。


「新撰組も堕ちたものだな…幹部がこんなに淫乱な犬ころだとは」

「ちがっ…んっ…やっ、やぁ!」

「違う?嫌?…戯けるな」


指の腹で先端を擦られて、込み上げる吐精感を無理やり堪えた。

こいつにだけは、達かされたくない。


「っは…ひ、……ひじ、か…さんっ…」



思わずその名を読んでしまう。

もう二度と、会ってはいけないのに。

他人に辱められた身体など、晒してはいけないはずなのに。

心が勝手に求めてしまうのだ。



「そうだ。そうやって泣き喚け」

「ひじかたさんっ…ひじか、たさんっ、あ、ぁっ」

「泣いて叫んで、己の無力さを知るがいい。あやつはどうせ来られぬからな」

「何、でっ…っひぁ……」

「先ほど、斬っておいた」


「……!!?!?」


衝撃で、思わず中を収縮させてしまったらしい。

目の前の男が、顔を歪めて呻き声を漏らした。


「くっ…そんなに締め付けるな。食い千切る気か?」

「嘘だっ」

「嘘などつかぬ。貴様を返せと煩く喚くものだから、少々痛めつけなければ、犬ころには解せぬと思ってな」

「嘘だ!……嘘だ嘘だ嘘だっ!」

「ぎゃあぎゃあ喚くな」

「やっ……あぁっ…」


また律動が開始される。



何で?
あの土方さんがやられるなんて、そんなわけ……


頭が真っ白なまま、身体だけが揺さぶられた。


快感に理性を手放しそうな頭で理解できたのは、この男が憎いこと、そして、斬り捨てなければならないことだけだった。



刀…

僕の刀……



揺れる視界の片隅に、無惨に引き裂かれた着物と、その下に朽ちるように無造作に打ち捨てられている刀が映った。


「…俺を斬りたいか?」


喉の奥でくっくっと笑うそいつを、思い切り睨みつけた。



刀は手の届かないところにある。

両手も縛られていて、絞殺や撲殺を試みることすらできない。

ならば、本当に彼自身を食い千切ってやろうかと思った。



「やだ、ぁっ…んっ……っあ…」


ぐちゅ、と秘部から音が漏れる。

僕自身からは、先走りがとめどなく流れる。



「身の程知らずな行為は止めておけ。貴様は、愛する奴を殺されて、その相手に犯されるだけの……」





その時突然、ずる、と男が中から出て行くのを感じたかと思ったら、乱暴に打ち捨てられた。


「っあ……」


煽るだけ熱を煽られて、中途半端に放り出された身体は、力なく床に転がる。



すると、間髪入れずに鋭い殺気が耳元を霞め、男の金髪が一房宙をまってはらはらと落ちた。




「貴様っ…!?」

「風間っ…てめえよくも……」



ふと、鼻先を愛しい匂いが擽った

………ような気がした。



どうして?

貴方は斬られたはずじゃないの?




ちゃき、と刀が鳴る音がする。


怖い。

怖い。

何も見たくない。

何も知りたくない。


頭上で繰り広げられる殺陣が自分を巡るものであっても、結果を知りたくない。


人の殺気や、刀が風を斬る音をこれほど恐ろしく思ったのは初めてだ。



僕は芋虫みたいに床の上に這いつくばって、頭を抱えて馬鹿みたいに震えていた。




「何故生きている?」

「…あんな屁簿な太刀じゃ、死にたくても死ねねえんだよ」



やはり、現れたのは土方さんのようだ。


けれど、何故。


風間は…殺したと言っていたのに。



目の前に、不気味なほど赤い液体がちらついた。


「っう………いやだぁぁ……」



そんなのってない。


もし土方さんが…あれを…飲んだのだとしたら………それは紛れもなく僕の所為だ。



喉の奥から絞りでるような嗚咽を堪えもせずに、どこか遠くで刀が激しくぶつかり合う音を聞いていた。



「屁簿な太刀とは…言ってくれる。しかしその屁簿な太刀に倒れて、みすみす大切な部下の貞操を奪われたのは誰だろうな」

「っ…」



土方さんは寡黙だった。


極度の怒りの所為で、我を失っているかのようだ。


今までのどの殺陣よりも激しく刀を振るっているような気がした。



「くっ………」


ほら、風間も窮している。


「貴様……っ…」

「っ…死ねよ、鬼」



土方さんが、一際大きく刀を振りかざしたのが分かった。




肉が抉られるような音。

次いで飛び散る血飛沫。




「ぐっ……っ…あぁぁぁぁぁっ!!!!」



土方さんの一太刀は鬼にも相当な深手を与えたようで、閉じたままだった目をうっすらと開けると、風間がふらふらと崩れ落ちるのが見えた。


「ちっ………貴様のことは…いずれ必ず…殺してやる…」


そのまま、部屋から出て行く。




「は………ぁ…」


「総司っ!」


土方さんが刀を投げ捨てて駆け寄ってきて、僕のことをかき抱いた。


「やめてっ………触っちゃ…や…」


僕はもう、土方さんに触れてもらえるような身体じゃない。


「馬鹿!」


僕は土方さんから逃れるように身を捩る。


そんな僕を制して、土方さんが手の荒縄を解いてくれた。


「痛かっただろう……」


土方さんが悲痛な声で僕を呼ぶ。

そして、優しく、けれど激しく、僕を抱きしめる。


「や………」

「何も心配するな。悪いのは……俺だ」

「いやだぁっ……」


涙で、前が見えない。


「お前が消えてから…あちこち探し回ったんだ。不逞浪士に斬られたんじゃねえかとか…本当にどこら中探した」

「も…いいから…」

「観察方が、風間にお前が連れられて行くのを見つけてくれなかったら…」


ぎゅっ、と腕に力が籠もった。


「まさか風間の野郎に監禁されてたとは………すまねえ…もっと早く来ていれば…」


ふるふると首を振る。

そんなこと…もうどうでもいい。


僕のこと、
探してくれてたんでしょ…?

それだけで…もう充分なんだ……

それより………




「土方さんは………大丈夫なんですか?」



視界が赤く染まる気がして。

恐怖にうち震えながら聞いた。



「俺は、平気だ」

「…飲んだから?」

「…は、何言って」

「変若水………飲んだんでしょ?…飲んだから…来れたんでしょ?」

「はぁ?」


土方さんの着物は、血でこの上なく汚れていた。

返り血がついたとでも言い訳する気だったのかもしれないが、それは紛れもなく土方さんの血だ。


「飲んでねえよ」

「でも…じゃあ…」

「風間に何て言われた」

「貴方を…斬ったって……そう言われた。僕を返せって煩かったから…って。なのに、貴方が来たから……」


土方さんは、困ったように笑った。


「そうだよ」

「っ……!」

「恥ずかしながら、確かに風間の野郎に斬られたよ」

「じゃあ…やっぱり…」

「でも、飲んでねえ」

「えっ…」

「そんなに深く斬られてねえからな…あいつだって殺したつもりはなかったと思うぜ…まぁ、それなりに…痛えけどよ」


そう言って、土方さんは着物の前をはだけて見せた。


「っ!」


羅刹化していれば、とっくに閉じているであろう生々しい刀傷が、袈裟状に刻まれていた。


こんな傷を抱えて…土方さんは僕を守って戦ってくれたんだ………


「ごめんなさっ……」


嗚咽で上手く言葉が紡げない。


「僕の所為でっ…土方さん…っう…ごめんなさいっ」

「お前の所為じゃねえよ。俺が、弱い所為だよ」

「違う!違う、僕が……」


先の言葉は、頭を土方さんの胸に押しつけられた所為で消えていった。


「いいんだよ。どうってことねえ。今、こうして生きているしな………それより、お前が無事でよかった……」


違う。

無事じゃない。

確かに生きているかもしれないけど、この身体はもう…綺麗じゃない。


「僕は……汚れてしまった」

「…辛かっただろ……本当にすまねえ」

「どうして?どうして土方さんが謝るの!?僕は…もう…」

「総司は何も心配しなくていい」

「でも!……僕は貴方に…傷まで負わせて……」

「俺が受けた傷なんざ、ほっときゃそのうち治るんだよ。けどな、お前が心に受けた傷は……俺の何倍も深くて、なかなか治らねえだろ?」

「こんな僕………」


こんな僕では、もう傍にはいられない。

そう言おうとしたら、口を塞がれた。


「んっ……」


しょっぱくて、血の味がする口付けだった。


「お前の傷は、俺が必ず治す。例え何年かかっても」


だから、と続ける土方さんの声は微かに震えていた。


「頼むから…俺の前から消えないでくれ…」



ぽつりと、土方さんが呟いた。



「土方さ、ん…………っ」


窒息しそうなほどきつく抱き締められると、妙に安心できた。


途端に、どっと涙が溢れてきた。


「土方さんっ!…怖かった…僕、怖くて……っ」

「大丈夫だ、もう大丈夫だから……」

「うっ…ぇ……土方さんっ……」

「大丈夫…」


土方さんに必死に縋りつく。

大丈夫大丈夫と繰り返しながら、宥めるように、小さな子供をあやすように、土方さんが髪の毛を梳いてくれた。


力任せに抱きついて、その温もりを感じ、土方さんの匂いを吸い込んだら少し落ち着いた。



「…こんな僕でも…愛してくれますか?」

「当たり前ぇだ」

「傍にいても…いい?」

「俺の傍にいていい奴は、お前だけなんだよ」


だからもう泣くな、とそう言われた。


「…帰ったら…土方さんの手当てをしても…いい?」

「おう。是非ともやってくれ。……さ、立てるか?」


優しく着物を着せて、大雑把ではあるが後処理もしてくれた。


「う、ん」

「じゃ、帰ろう」



僕は、差し出された土方さんの手を迷うことなく取って、ぎゅっと握りかえした。





あれ、ひょっとしたら初土沖以外の沖田受けじゃないか。
何故こんなに総司を虐めたくなったのか謎です(笑)

20110625




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