短編倉庫 | ナノ


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久しぶりに、近藤さんと土方さんと井上さんの、試衛館の古株4人で集まった。


新入隊士に対する稽古のつけ方が荒いだのなんだの小言を言われて、僕の虫の居所は最悪だった。


「そんなの今に始まったことじゃないじゃないですか!何で今更怒られなきゃならないんです!」

「あんな手荒な稽古をされてみろ。みんなおっかなくて逃げ出しちまうだろうが!」

「あの程度で逃げ出すなんて、そんなのそこまでの器の人間だったってことじゃないですか!大体、新入隊士を選出するのは土方さんでしょう!もっと強い人を集めないでどうするんですか!」

「総司!今がこの壬生浪士組にとって大切な時期だってことぐらい分かるだろう!壬生浪だなんて小馬鹿にされたままでもいいのかよ!一人でも多く隊士を集めて、組を大きくさせねえと始まらねえだろ!」


口角泡を飛ばして激論を交わす僕らを止めるものは誰もいない。


否、こうなってしまってはもう誰の手にも負えないことがわかっているので、近藤さんも井上さんも、手をこまねいて見ているしかないのだ。


「僕の所為じゃない!芹沢さんとの折り合いが悪いからって、僕に八つ当たらないでくださいよ!」

「八つ当たってなんざいねえよ!ただおめえに直してほしいと頼んでるだけじゃねえかよ!」

「そんなの無理な相談です!僕には僕のやり方がある…!……いっそのこと僕を首にすればいいじゃないですか!剣術師範なら、永倉さんだって、今度新しく入った斎藤さんだっていますからね。僕なんかいなくたって代わりはいくらでもいるんですよ!」

「っ馬鹿野郎!!!!」



パァーン………!



小気味よい音がして、次の瞬間頬が焼けるように熱くなった。


「…痛っ!!」


負けじと殴り返そうとしたが、僕には土方さんを殴ることなんて到底できない。



悔しくて、じわじわと涙が溢れてきた。



「僕は悪くないっ!」


「総司!!」



思わず部屋を飛び出した。


近藤さんの叫び声が聞こえたけど、構っていられるほど僕は大人じゃないんだ。





「いいさ、ほっとけよ」

ふてくされたように吐き捨てる土方を、井上は険しい顔で見つめた。


「トシ、あんな言い方をしなくてもよかったじゃないか」

「いいんだよ、源さん。あいつはあれくらい言わないとわからねえ大馬鹿だからな」

「でもトシ、総司の言うことも一理あると思うのだが…」

近藤が、井上に同調した。

「かっちゃんまで…何だよみんなして総司の肩を持ちやがって」

「確かに今が浪士組の正念場なのかもしれないが……だからといって、隊士が腰抜けの弱い輩ばかりじゃ仕方ないじゃあないか。そうじゃなくても寄せ集めの烏合の衆なんだから」

「そりゃあそのうちに鉄の掟を作り上げるさ……浪士組をかっちゃんのものにするためにも、規則を作らねえと烏合の衆はまとめられねえ」

苦々しく土方が言う。

「だけど、今からあんな稽古をする必要はねえんだよ!」


まだ怒りが収まらない様子の土方を、井上が宥めにかかった。


「まあ仕方ないじゃないか。総司は強いんだから。あんな剣士が敵方にいてごらん。誰も勝てはしないよ」

「そうだなぁ。総司が敵だったら…なんて考えるだけで寒気がする」

「アイツは強すぎるんだよ!おまけに教え方は荒すぎるし…てんでなってねぇ!」

「でも手を出すことはなかったんじゃないか……?」


近藤が心配そうに土方の顔を覗き込むと、土方は、は?という顔で近藤を見返した。


「あんなに強く打って…殴らなかったのはほっとしたが…」

「…あ、あぁ。そのことか」


土方は合点のいった様子で頷いた。

「違う。違ぇよ、あれはそんなんじゃねえよ」

「?」

不思議そうな顔をする近藤と井上に、土方は面倒臭そうに説明した。


「総司が、自分のかわりなんざいくらでもいる、なんていうから……」


そして、ばつが悪そうに顔を背ける。


それを見て、困ったように近藤が笑った。

「トシも総司も不器用だなぁ。もっとお互いに歩み寄ってみたらいいのに」

「でもアイツは俺のことが嫌いだろ?なら俺がいくら歩み寄ったって無駄じゃねぇかよ」

「あははは。トシ、総司はむしろ、トシのことが好きだと思うんだがなぁ」

「な、何を言うんだよ。総司が心を開いてるのはかっちゃんだけじゃねえか」

「それはトシの思い込みだよ。いいから、少しでも詫び入る気持ちがあるなら、今すぐ行って話し合ってくるといいよ」


井上が諭すように言うと、近藤も激しく相槌を打つので、土方は渋々といった風に、その重い腰をあげた。





「土方さんの馬鹿」


八木邸と前川邸の一角を間借りしている身では、浪士組はあまり堂々とのさばることもできず、狭い部屋にぎゅうぎゅうと押し込まれ、みんなで雑魚寝するのが常だった。


一応副長助勤などの幹部らは大広間で平隊士と雑魚寝、という待遇には処されていないが、それでも一人部屋を与えられているのは局長や副長らのみだ。


当然、僕にも同室の人がいるわけで。



しかも今日は、僕が怒られてきたことに対する野次馬精神からなのか、部屋の襖を開けると、中には試衛館仲間がずらりと勢揃いしていた。

「……っ…」

「よお、総司。元気か?」

「随分派手にやりあってたじゃねぇか」

「おいおい見ろよー。総司が泣くなんて天変地異かぁ?」

「仕方ねぇよなぁ。大好きな土方さんに詰られるなんて、誰に詰られるより辛いもんな!」


いつもは元気づけられる佐之さん、新八さん、平助たちのからかいにも、今日ばかりは気分が沈む一方だった。

頼むから一人にしてほしい。

でも、ずっと押し黙ったままこちらを凝視している、同室の斎藤くんの迷惑にもなっちゃうし、僕が別の場所に行った方がいいんだろうね。


「ぶたれたのか?」

不意に斎藤くんに聞かれて、咄嗟のことに戸惑った。

「え?」

「あ、本当だ!総司のほっぺた赤いぜ!」

「なにィ?総司、おめ、ぶたれたのか?」

「……、」

「男で平手打ちなんて珍しいなぁ。普通そこは殴るんじゃねえのか?」

「うへぇ!土方さん女々しいな!」



あまり知られたくなかったのに。


なんて不躾な人たちなんだ。


親しき仲にも礼儀あり、って知らないの?


「手当てはしなくていいのか?」


また斎藤くんが言った。


彼、何を考えているのかわからないところがある。


噂じゃ、浪士組を預かっている会津藩が、浪士組の内部情勢を調べるために送り込んだ密偵だとか言われているし。

それが嘘だろうが本当だろうが僕には関係ないけど、斎藤くんは言葉数が少ないから、気持ちを読み取るのには骨が折れた。

「だいじょぶだよ……僕そんなに柔じゃない」


言いながらどこか一人になれる場所へ行こうとして立ち上がりかけると、襖がものすごくきれいにスパーンと開いた。


「総司、ちょっと来い」


明らかに不機嫌そうな土方さんの一言で、みんなが一瞬にしてしーんと静まり返った。


「土方さん…?」

戸惑いながら土方さんの後に続いて部屋を出て行く僕を、斎藤くんも含めた全員が心配そうに見送ってくれた。


「それからおめえら…ま、斎藤は仕方ねえが、人のことに首突っ込むなんていう野暮ったいことをしてる暇があったら、早く休んで明日の隊務に備えろ」

底冷えするような土方さんの声に、佐之さんたちが蜘蛛の子を散らすように退散していった。


「ほら、総司。ついて来い」


着流し姿で腕組みをした土方さんが、僕を一瞥して言った。


何なんだ。


先ほどまであれほど怒鳴り散らして、人のことをぶっておいて……

今更何を言うことがあるって言うんだ。




―|toptsugi#




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