学校からの帰り道。
「総司…」
「ん?」
飽きもせず板チョコを頬張り続けている僕に、一君が溜め息混じりに言った。
「総司は板チョコを常備しているのか?」
「え…うん」
ほらと言って、スクールバックのポケットから、ストックを取り出した。
ちょっと溶けて、柔らかくなってしまっている。
「あ、一君も食べたかった?」
僕が折った欠片をあげようとすると、いらないと一蹴された。
「そうではなくて、総司は何故板チョコばかり食べているのだ。他にもお菓子は沢山あるだろう?」
「うーん…何でだろ」
真剣に悩み出す僕に、一君がはぁと盛大な溜め息をついた。
「なんかさ、板チョコ食べてると、おやつ食べてるなぁっていう気分になれるでしょ?ザ・お菓子っていうかさ。それに美味しいし」
思わず、ちょっこれいと、と歌い出した僕を、一君が嫌悪感剥き出しの顔で眺めている。
「総司、知っているか?チョコレートは大抵ごく微量の麻薬を含有していて、自然と病みつきになるように製造されているのだぞ?」
「へぇぇ。一君は本当に物知りだね。だから僕やめられないのか!」
「それに、チョコレートばかり食べていると虫歯になる」
「そんなの、飴ばっかり舐めててもなると思うよ?」
「…そんなに沢山食べたら、鼻血が出るだろう!」
え?と思って一君を見ると、顔を真っ赤にして怒っている。
でも、それってさ……。
「あはっ。一君、麻薬含有とか高度なことを知ってるくせに、鼻血の都市伝説を信じてるんだ!あっは!おかしー」
僕はひいひい言って笑った。
「っな!それは都市伝説ではない!現に俺は…!」
「それは、一君が逆上せやすかったりするんじゃない?食べたことで血行がよくなって、それで毛細血管が切れちゃうことはあるかもしれないけど、チョコを食べたからって、直接血管に支障はきたさないんだよ?」
僕が丁寧に説明してあげると、一君は真っ赤な顔のままムッとしている。
「でもさ、なんで今頃そんなにチョコのことを気にするの?」
「そ、それは……」
へー。
ちゃんと理由があるんだ。
興味ある。
「…それは、キスをする時、いつもいつもチョコの味ばかりで、いい加減飽きたからだ」
真顔で堂々と言ってのけた一君に、僕はただただ唖然とした。
「飽きた……?」
「甘いのは嫌いではないが、チョコの味はもう沢山だ」
そう言って、一君はぷいと顔を背けてしまった。
「…そんな………」
一君が…僕に飽きた?
ありえない。
悲しすぎて、僕泣いちゃう。
「一君…僕に飽きちゃったの……?」
僕が顔を覗き込むと、一君は憮然として言った。
「べ、別にそうは言っていないだろう。キスの味に飽きたと言っている。だから、たまには味を変えてみては……」
僕は、ニヤリと口角を歪めた。
なんか、今日の一君は大胆な気がする。
普段はキスのキの字も、自分からは出さないような子なのに。
まぁ、こういうのも悪くない…というか、むしろ嬉しいんだけど。
一君の我が儘は、何でも聞いてあげなきゃね。
「じゃあ、僕コンビニ寄ってから帰る」
飴を買ってくるから先帰ってて、と言って別れようとすると、一君が僕のカーディガンの裾を、くぃっと引っ張った。
「え…?」
なに?
もしかして、一緒に行く、みたいな?
「あの…これ…………」
一君が、スクールバックから、おずおずと何かを取り出した。
「買っておいたのだが」
「……フルーツミックス…」
一君が僕に差し出したのは、フルーツ飴の袋だった。
僕は思わず顔を背ける。
…一君がどんなことを想像しながらこれを買ったのかと思うと、驚きと嬉しさとが相俟って、なんだか変にそそられちゃった。
「総、司?」
袋をぎゅっと握りしめたまま、心配そうに僕のことを見てくる一君に、僕は欲情しそうになるのをぐっと堪えて、辛うじてにっこり笑った。
「一君、随分用意周到じゃない。そんなに僕とシたかったの?」
すると、一君は顔を真っ赤にして俯いている。
「そんなことは………」
「でも分かってるでしょ?僕がキスで止まらないことくらい」
「なっ……」
「僕としては大歓迎なんだけどね?一君が望むなら、キスの味くらいいくらでも変えてあげる。だから、飽きただなんて悲しいこと言わないでよね?ヤり方だって、いくらでも一君の好きなように…」
「総司!もういいっ」
ずんずん歩いていってしまう一君の手を、僕はさっと握った。
「ちょっ…」
「なに逃げようとしてるのさ。誘ったのはそっちでしょ?」
「お、俺は誘ってなど…」
手を離そうと躍起になっている一君から、僕は先ほどの飴の袋を奪った。
「あっ………」
「へぇ…いちご、りんご、みかん、れもん、ぶどう、めろん、もも……随分と盛りだくさんだなぁ……これじゃあ、1日一回シたって一週間かかるよ?それに、たまにはチョコの日も入れなきゃいけないし、フルーツばかりじゃなくてミルクとかソーダ味も入れた方がいいし……これから毎晩忙しくなりそうだね、一君」
一君は耳まで真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。
「ねぇ、今日はどの味がいい?一君」
「…………」
僕はムッとして、答えない一君の手をぎゅっと握った。
「今から舐めれば、お家つく頃には舐め終わるし。そしたらすぐできるでしょ?」
「…………」
「は・じ・め・くん?」
「…………ご」
「え?なになに?」
「いちご……」
僕はにんまり笑った。そして、飴の袋をがさごそと漁る。
「じゃあ、今日はいちごね」
一君が、真っ赤な顔でこくんと頷く。
「……」
…こんなに可愛い一君を見られるなら、たまには板チョコじゃないお菓子もいいかなぁと僕は思った。
これぞ801の真骨頂!
板チョコ大好き人間が思いついた駄文です。というか総司は多分板チョコ派です。
麻薬の件は、日本じゃどうか知りませんが、少なくともアメリカではそうらしいですよ。
麻薬とかちょっと焦る。
でも何で媚薬じゃないの?とも思う←え
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