「……もう…土方さんの所為ですからね」
うなだれて総司が言う。
「まさか、土方さんの前で言うことになろうとは」
ハッと我に返ったように、土方ががみがみ説教をし出す。
もっともそれはさして中身のない、単なる照れ隠しにすぎなかったが。
「お前、何でもかんでも俺の所為にするのはやめろ。あと、ああいうことを人様の前でずけずけと言うのも、金輪際やめろ」
そして、総司の腕から手を離すと、やっと草履を脱ぎだした。
「いいじゃないですか、僕たち懇ろなんだから」
「お前、ちょっとは恥を知れ」
「でもあれは、土方さんが言えって言った所為じゃないですか」
早足で廊下を歩き出す土方についていきながら、すっかりいつもの調子を取り戻して、総司が楯突く。
やがて土方の部屋の前まで来ると、襖を開けながら、土方が言った。
「入るか?」
当たり前だ、という顔で総司は頷く。
「じゃあ遠慮なく」
足取りも軽やかに、ずかずかと部屋にあがりこむと、後ろ手に襖を閉めた。
「今回は、早いお帰りでしたね」
荷物を片付け始める土方に、総司がこそっとつぶやく。
「早くねえよ。一週間もかかっちまって。こっちとしちゃあ、一刻も早くお前に会いたくて、なるべく早く帰ってきたんだがな」
そう言ってちらりと総司の顔を見ると、ぷいと顔を背けている。
「だ、ダメじゃないですか。新入隊士をきちんと集めないと、新撰組が廃れますよ」
恐らく、照れ隠しというやつだ。
「ったくお前は可愛くねぇな」
心では、滅多にみせない総司の態度をいじらしく思っているが、顔にはおくびにも出さない。
「で、でも!僕だって病気だから、土方さんのこと、ずーーーーっと待ってたんですからね」
慌てた様子で付け足しながらも、病気の所為にしようとする総司に、土方は苦笑する。
「ほら、土産だよ」
そう言って、荷物の中から包みを取り出して、総司の方へと投げやった。
「わ!お煎餅だ!」
がさがさと包みを破って、中から出てきたものに顔を綻ばせている。
本当に、何なのだ、この生物は。
「っと、総司、いくつか訂正があるぞ」
はて、と首を傾げる総司に、土方がもっともらしく言う。
「俺だって持病くらいあるけどな、煙草の依存症でも仕事の依存症でもねえよ」
「へえ…あんなに毎日仕事と煙草漬けの生活を送っている土方さんに、他に依存するものなんてあったかな」
「俺はだな、そうだな……わざと口にあんこを付けたままにしている誰かさんの依存症だよ」
少し驚いたあと、すぐに総司の顔が輝く。
そして、にこにこしながら満足そうに擦りよってきた。
「随分変な依存症ですねぇ。誰です、その悪趣味な誰かって」
土方が総司を引き寄せる。
「ほんと素直じゃねえよな。どうせ、こうして欲しかったんだろ?」
そして、なんの躊躇いもなく、総司の口についたあんこを舐めとった。
敢えて、唇には一切触れない。
時折かすめるその感触に、総司の目が揺れる。
「甘い」
すっかりきれいになったところで、土方が名残惜しそうに口を離した。
すると、総司がもじもじして言った。
「まさか、疲れてる、とか言って断らないでしょう?」
「なにが」
土方がわざと聞き返す。
「……僕、依存症だから。その……お薬が、欲しいなあ、なんて」
「それじゃわかんねえな」
総司は、焦れったそうにこちらを見上げてくる。
「あの………もっと……シて?」
土方の口元が大きく歪んだ。
「随分と積極的じゃねぇか」
そんなことない、とまた恥ずかしがっている総司を、土方はゆっくりと押し倒した。
「ただいま、総司」
労咳ネタだと思ったじゃないかという方はすいません。
わざと表記しませんでした(笑)
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