その日は朝から機嫌が悪かった。
登校してくる生徒たちの波を見下ろしながら、土方は一人悶々とする。
校門のところに立って仕事をしている風紀委員。
それと、風紀委員にじゃれついて、やたら楽しそうにしている茶色い頭。
―――苛々する。
もう何本目かわからない煙草をくゆらせながら、土方は職員室のベランダに佇んでいた。
「土方さん、朝から何本吸えば気が済むんだよ」
自分の仕事机にのんびりと構えていた原田が、職員室の中から言った。
「済まねえよ」
いつまでも見ているのが馬鹿らしくなって、土方は自分の机に戻った。
短くなりすぎた煙草を灰皿に押し付けると、椅子に深々と沈み込む。
「今日は………遅刻しなかった」
ぼそっと吐き捨てるように言うと、原田が目を丸くする。
「総司の奴が?………天変地異か?」
「いや…斎藤に起こしてもらったらしい」
今や、朝職員室のベランダに立って沖田総司が遅刻かどうかを確かめるのは、土方の日課となっていた。
そして、その結果報告を聞くのが原田の役目である。
今のところ、月に一、二回は遅刻せずに来る日があり、その時は必ず、校門に立っている斎藤一にじゃれついてから校舎に入ることが分かっていた。
そして、不確かではあるが、そういう日は斎藤に起こしてもらっているのではないかとの予想もついている。
「じゃあ今日も、土方さんの機嫌は悪いってことで決まりだな」
いつの間にか、競馬の予想を終えた永倉が傍までやってきて、口を挟んできた。
「なんだよそれ」
「いやー、総司の奴が斎藤に起こしてもらった日ほど、土方さんの機嫌が悪い日もないからなぁ」
原田が永倉に同調する。
「これからは土方さんが起こせばいいんじゃねぇの?」
永倉の言葉に、土方は、まぁそれもそうだと考えを巡らせた。
「あー、けどよ、だからって二人で登校すんのはやめてくれよ?朝まで何してたのか気になって仕方がねえから」
「馬鹿!俺がそんなことするわけ…」
「え、土方さん、そんなことって何だよ」
「っだぁぁっ!もう放っておいてくれ!」
一際大きな怒鳴り声を上げると、土方はイライラと仕事机に向き直ったのだった。
*
放課後、どうにかこうにか嫉妬に負けることなく一日を乗り切った土方は、古典教師専用の資料室で沖田を待っていた。
終礼で渡した伝達カードには、放課後資料室へ来るように、と書いておいた。
あのへそ曲がりが素直に来るとも思えないが、土方とて沖田を易々と帰してやる気は毛頭ない。
神経質に机をこつこつと叩きながら、資料室のドアが開くのを、土方は今か今かと待ち構えた。
「総司くん、偉いから来てあげましたけどー」
いきなりドアが開いたかと思ったら沖田がずかずかと入ってきて、机にでーんと座られた。
その上、第一声がこれである。
土方は深々と溜め息を吐くと、目の前の獲物をどう調理してやろうかと、不穏なことを考えながら立ち上がった。
「……まぁ、お前にしちゃ上出来だな」
言いながら、開けっ放しのドアをガチャリと閉める。
ついでに土方だけが持っている――というのはこの資料室を使うのが土方ぐらいなものだからなのだが――鍵で、内側からしっかり施錠もした。
「僕ってやれば出来る子なんです」
沖田は鍵の音に首をかしげたものの、大して気にもせずポケットから携帯を取り出した。
「で、用って何ですか?」
土方が振り返ると、沖田は携帯を弄りながら気怠そうに足をぶらつかせているところだった。
「僕はじめくんと帰る約束してるから、出来れば早く……ってちょっと!」
土方は素早く沖田から携帯を取り上げると、そのまま沖田を机に縫い付けた。
幸か不幸か、資料室の机はどっしりとした大きめの作りになっているから、沖田の身体は完全に机上に乗り上げることとなる。
「っ痛いんですけど」
嫌悪感剥き出しの顔で睨み上げてくる沖田に、土方はにやりと口元を歪ませた。
「もしもこんなことが目的で呼んだなら、今すぐ先生の大事なとこを蹴り上げますよ?」
沖田は半ば焦ったようにまくし立てたが、土方は答えず、代わりに凍るような視線を送っただけだった。
沖田は、土方が怒っているというのは何となく理解したが、何故怒っているのかは全く見当がつかなかった。
遅刻したこと?
サボったこと?
それとも、小テストで0点取ったこと?
心当たりを片っ端から思い浮かべてみたが、そんなのは今に始まったことではないのでイマイチピンとこない。
「先生?あの、痛いんですけど」
「…………」
何故かどす黒いオーラを纏っている土方を、沖田は戸惑いながら見上げた。
「…気が済んだら離してください」
「……聞けねぇ相談だな」
言うや否や、土方は沖田のネクタイをするりと解いた。
元々お飾り程度に辛うじて結ばれていただけのそれは、沖田の抵抗を受けながらでも片手で簡単に取れてしまう。
「ね、ちょっと、先生ってば!」
そのまま解いたネクタイで両手の自由を奪われて、沖田はいよいよ本格的に暴れ出した。
「っいやですっ!離してよっ!」
「お前はヤりゃあできる子なんだろ?」
「っそっちのヤるじゃない!」
沖田は顔を真っ赤にして怒鳴ったが、土方はどこ吹く風、という様子で、一向に相手にしてくれない。
「…本気でヤろうとしてるんですか?!」
「これが冗談に見えるか?」
「っいやです!離してください!僕ははじめくんと…」
「そのはじめくんとやらの名前は、二度と口にしねぇことだな」
「っな、で……」
ぷちぷちとボタンを外されながら、沖田は必死に上半身を捩った。
「何でって、俺の機嫌が悪くなるからだ」
「なっ…そんな理不尽な理由、誰が聞…い、やっ!」
沖田の主張は悲鳴にかき消された。
「や、ちょっと!どこ触ってるンですか!」
「お前のイイところだろ」
言いながら、土方が指で胸の突起をピンと弾く。
「やっ、ぁ、も、やめてっ!」
自由の効かない身体で必死に抵抗するものの、土方に押さえ込まれてはなかなか思うように動けない。
「やめねぇよ。お前にはたっぷり反省してもらわねぇといけねぇからな」
「っ…はん、せ、いっ?」
「あぁ。最後には泣いて許しを請わせてやるから覚悟しろ」
「な………っ」
沖田は恐怖に震えて鬼畜と化した土方を見上げた。
*
「っい、ぁあぁっ…んっ…!」
唾液と先走りでどろどろになった沖田自身に指を這わせると、沖田は呂律の回らない口で悩ましい喘ぎ声を洩らした。
その根元には土方のネクタイがキツく巻かれているので、熱を吐き出したくても切なそうに揺れるしかない。
「っせん、せぇっ…イきた、っ…」
苦しそうに歪められる沖田の顔を、土方はそっと撫でてやった。
片手で沖田自身を触ってやりながら、もう片方の手でひたすら顔をなぜる。
長い睫毛やツンと尖った鼻、最後に唇に指を沿わせると、沖田は無意識の内に口を小さく開けた。
それに答えるように土方が指を口腔に入れると、沖田は赤い舌をちろちろと動かして、懸命に土方の指を舐めてきた。
ちゅる、と音がして、だらしなく開いた口の端から唾液が零れ落ちる。
それを見て土方が指を引き抜くと、沖田ははぁはぁと荒い息を繰り返し、目からは一筋涙を伝わらせた。
「っおねが、っい、…キス、して…」
甘えたように言ってくる沖田に思わず絆されそうになるのをぐっと堪えて、土方はそれを無視した。
キスはしてやらない。
沖田の思い通りになどさせない。
土方は最初からそう決めていた。
「ダメだ。こんなんじゃ全然ダメだ」
「ぅっ、あぁ、も、イきたい、のにっ、ぁ」
くりくりと敏感な先端を撫で回してやると、沖田は涙を散らして感じまくった。
「っいぁぁ、やあっ、それやぁっ!」
ぶんぶん首を振って、過ぎた快感に耐えようとするその姿は、見る者を充分に欲情させる色気を放っている。
しかし、土方は尚も沖田を虐め続けた。
「あーあ、俺のネクタイがぐしょぐしょじゃねぇか。ったく、お前のここはだらしねぇなぁ」
土方の言葉に、沖田は眉をハの字に曲げて泣きそうになる。
「せん、せ…ぇ、ぼくっ、イきた、い」
イきたいとそればかり繰り返す沖田に、土方は意地悪く笑って見せた。
「なら、出さないでイくんだな。お前は淫乱だから、それくらいできんだろ?」
「っい、やだぁ…」
ぽろぽろ涙を零す沖田を、土方は満足そうに見下ろした。
普段反抗的な奴が、自分の下で蹂躙されているのを見るのは、何とも言えない快感だ。
特に沖田の場合は、そのプライドも気高さも、全てずたずたに引き裂いてやりたいと、過剰なまでに嗜虐心を煽られる。
やるならとことんやってやろうと、土方は再び沖田の股座に顔を埋めた。
「っいゃ、ぁあっ、…ぃっ…んっア」
沖田はパサパサと髪を振りながら、土方によって与えられる刺激に必死で耐えた。
温かい舌で裏筋を舐められ、唾液をたっぷり含ませた口腔内で吸い上げられる。
じゅる、と音がするのは、きっと土方が故意にしていることだろう。
それだけでも達しそうになるのに、ネクタイが邪魔して熱を解放できない。
苦しい。
辛い。
早く楽になりたい。
そういった感覚が快感に変わるのも時間の問題で。
土方にしゃぶりつかれている内に、沖田は何が気持ち良くて、自分が今何に感じているのかもさっぱり分からなくなってしまった。
「ひ、ぁあっ、イきた、い、ぃっ…!」
「ダメだって言ってんだろ」
はむように先端を刺激され、沖田は背中を仰け反らせた。
「ぁぁあ、んっ、…イきた…い、イきたいぃっ」
とうとう赤子のように泣き出してしまった沖田に、土方はようやく顔を上げた。
「そんなにイきてぇのか?」
「っイかせ、て、ぇっ」
「は…仕方のねぇ奴だな」
土方はにやりと笑うと、沖田の身体を起こして、素早く反転させた。
急な体制の変化に沖田はふらふらとよろけながら、必死で机に縋りつく。
最早制服のズボンは下着と共に踝(くるぶし)まで落ち、辛うじて肩に引っかかっているシャツもただの布切れである。
自分の恥ずかしい姿を自覚して、沖田はぎゅっと目を瞑った。
「そんなにイきてぇならイかせてやるよ」
沖田は土方の言葉に安堵したものの、一向に外される気配のない戒めに、再び不安気な顔を見せた。
「但し、空イきで、だがな」
「、へ?」
土方の無情な言葉に沖田は震え上がった。
制止しようとするも、後ろから抱え込まれていては分が悪い。
「後ろだけでイってみろよ、ちゃんと弄ってやるから」
「や、そん、なっ…ひぃっ…あぁっ!」
土方は、嫌がる沖田には構わず、様々な体液で濡れそぼった指を、ぐいぐいと後孔に押し込んだ。
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