短編倉庫 | ナノ


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「うじ、……総司……」


やけに聞き慣れた声が聞こえ、総司は身体を揺さぶられていることに気づく。


「んぅ………」


五月蝿そうに寝返りを打つと、いつものように、むに、と頬を摘み上げられた。


「ほら、総司起きろ」

「…っん」


痛いなぁ、と薄く目を開けると、夕焼け空を背景にして、土方が優しく微笑んでいた。


「!!」


その姿を認めた途端、総司はがばっと起き上がった。


「ひ、土方さん!」

「ようやくお目覚めか」


いつの間にか眠っていたらしいことと、何故か土方がいることに驚いて、起き抜けでぼぅっとする頭を、総司は必死に働かせた。


「な、何で」

「ぷっ………お前あんこついてるぞ」


土方は総司の口元に指を伸ばすと、あんこを拭ってそのまま口に運んだ。


「な、な、ちょっと!何してるんですか!」

「やっぱり総司の姉さんのおはぎはうめぇな」

「やめてくださいよ、もう!!」


総司は顔を真っ赤にして怒鳴ると、怒ったように立ち上がった。


「あら、起きたの」


そこへ、新たなおはぎと湯呑みを乗せたお盆を抱えて、ミツが入ってくる。


「姉さん!何で土方さんがいるんですか!」

「何でとは失礼だな。後で行けたらお邪魔するって言っただろうが」

「終わったんですか、野暮用は」

「終わったさ。お前一体何時間経ってると思ってんだよ」

「さぁ?下手すると一日帰ってこないかと思っていました」


総司が嫌悪感を剥き出しにして土方を睨むと、土方は怪訝な顔をした。


「はぁ?買い物に一日もかかってたまるかよ」


そして懐から小さな包みを取り出すと、総司の手に握らせてやる。


「ほらよ、」

「え―――」


驚きながらも包みを開くと、中に入っていたのは色とりどりの金平糖。


「食えよ。美味ぇぞ」

「まぁ、土方さん…わざわざありがとうございます」


"野暮用"の内容を理解したミツは、固まったまま、いつまでも口を開かない総司の代わりに礼を述べた。


「……金平糖、買ってたんだ」

「あぁ。総司好きだろ」

「余計な気を使わないでくださいって、いつも言ってるのに」

「余計じゃねぇからな」


相変わらず減らず口を叩きながらも、心底嬉しそうに顔を綻ばせ、それを隠そうと俯いている総司に満足して、土方はその頭を優しく撫でた。


「だから、触らないでくださいってば!」


顔を真っ赤にして叫ぶ総司を、土方は面白そうに見つめた。


「何照れてんだよ」

「てれっ……照れてなんか!」


ミツは、初めて見る土方の前での総司の豹変ぶりを、温かく見守った。


「総司は本当に不器用ね」

「そんなことはありませんよ!何だってそんな……」

「二人とも、もうこんな時間だし、今日は泊まっていらっしゃったら?」

「…もしご迷惑じゃなければ、甘えさせてもらいたい……今から帰ったら真っ暗になりそうだ」

「と、泊まるの!?」

「ミツさん、総司のヤツは反対みてぇだが」

「な!別に反対なんかしてませんっ!」

「そうですよ、土方さん。総司は嬉しがってるだけですから」

「ちょっと!姉さん!」


耳まで真っ赤にして怒る総司に、土方とミツは、思わず顔を見合わせて笑った。



……結局総司は、ちゃっかり土方と一緒に湯浴みをして、勿論布団はぴったりくっつけて寝たらしい。

しかし、総司が素直に好きと言うのは、まだずっと先の話である。










おまけ


総司が寝てしまってから、ミツは一人でせっせと家事を済ませていた。

はたきで埃を払っていると、玄関の方に来客がある。

あら、と思って出てみると、そこには土方が立っていた。


「まぁ土方さん。お久しぶりです」

「ミツさん…総司の言葉に甘えて、つい来ちまったんだが、お邪魔じゃないですか?」

「とんでもない。さ、どうぞお上がりになって」


荷物を受け取ってやりながら、ミツはつい気になって聞いた。


「あの、土方さん」

「はい」

「その……ご用事は終わられたんですか?」

「は?」

「あ、いえ…総司が言っておりましたものですから………」


この姉弟、好奇心が滅法強いときている。

いくらしとやかで、よくできたミツであっても、やはり血は抗えない。

ふとした拍子に、総司顔負けの悪戯っ子ぶりを発揮する。

土方は何やら嫌な予感がして、家に上がりながら言った。


「総司の奴、女のところに行っているとでも言ってましたか?」

「い、いえ、そ、そういうわけでは…」


そして、嘘が下手くそなところもまたそっくりだった。


「いや、総司が言いそうなことくらい分かりますから。気になさらないで」

「はぁ………」

「誤解のないように言っておきますが、俺は別に遊びに行っていたわけじゃありませんよ」

「そ、そうですか…」


では、何をしていたというのだろう。

ミツが思案していると、土方がきょろきょろと辺りを見回した。


「あの、ミツさん。総司はどこです?」


ミツは、必死になって総司を探している土方を、可笑しそうに見つめた。

と同時に、弟をこんなに気にかけてくれることをとても有り難いと思う。


「総司なら、疲れたみたいで…」


そこです、と縁側に大の字で転がっている総司を指差した。


「寝てんのか……」


少し残念そうに、土方が呟く。


「すみません。お急ぎでしょうに。今、起こしますね」


ミツが総司に延ばしかけた手を、土方は慌てて止めた。


「土方さん?」

「寝かせてやってください。総司の奴、毎日毎日こき使われて、疲れてるんですよ」


俺も少し休ませてもらいますから、と腰を下ろす土方に、ミツは心が温まるのを感じた。

総司も、この男の密かな優しさとか、ぞんざいなようでいて、実はきめ細かい気遣いにちゃんと気付いていて、それで絆されているのだろう。

ミツは、土方はやはり"いい人"だと考えながら、湯呑みに茶を注いで差し出した。


「総司ったら、始終土方さんのお話しかしないんですよ」


そう言うと、土方は驚いたようにミツを見た。


「土方さん、土方さんって。本当は土方さんのことが大好きなんでしょうね」

「そう思いますか?」

「えぇ。だけど、どうも素直じゃないから…」

「俺にはいつも反抗してきて、一度口を開けば、近藤さんの話しかしないんですがね」

「そういう子なんです。土方さん、ご迷惑をおかけしているとは思いますが、どうかこれからも総司を…」

「あぁ。分かってますよ」

「よろしく頼みます」

「俺も、総司が好きですから」


爽やかに笑いながら言う土方を、ミツは純粋に格好いいと思った。

それから数刻、土方はずっと寝ている総司を見つめていたらしい。



20110822




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