短編倉庫 | ナノ


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宗次郎曰わく、この行為はもう長いこと続いていて、昨日今日に始まったことではないらしい。


ある日突然、兄弟子の一人が夜部屋に来て、無理やり犯されたのだという。


「手と口、縛られて、……」


宗次郎は思い出したくないとでも言うように、ふるふると頭を振り、土方の胸に押し付けてきた。



「僕は、男子として失格…だって……顔が女みたいだから、そうやってなら、……可愛がってやらないことも、ない…て」

「何で嫌がらねぇんだよ!」


土方が思わず声を張り上げると、宗次郎は目に涙を溜めて言う。


「だって…ふぇぇ……大人しくしてれば、痛くしない…て、言うから…ぁぁ…」


泣き声と混ざって、よく聞き取れない。


「でも、痛か、た……ぐす…」

「ったりめぇだろ……」

「だから、次の日…隠れてたら、ひっく…酷いこと…された……」



そんなに何回も続いていたことなのかと、土方は唖然とした。


臀部の傷と言い、酷い扱いをされていたことは容易く想像できる。


ずっと気づいてやれなかったことが悔やまれた。



しかし今日までは、宗次郎にここまであからさまな痕がついていることはなかったのだ。


そういう痕跡があればすぐに分かるだろうし、何故突然、こんなに無惨な有り様になってしまったのか訳が分からない。



「で、昨日は何でそんなに傷をつけられたんだ」


昨日の昼間は宗次郎の顔に傷一つなかったから、これは昨日の夜つけられたものに違いない。

そう考えて、土方は問うた。


すると、宗次郎はぎゅっと目を瞑った。



「…き、のぅ…は、…」



また涙が零れ落ちる。

よほど辛かったのだろうか。



「きのう、は……いっぱい…来た…」

「は?」

「だ、から…いっぱい…四、五人…」

「え………」



土方は言葉を失う。



「拘束され、て…口塞がれて……かわり…ばん、こに……」


そう言って、土方の着物をぎゅっと掴んでくる。


嘘だろうと思ったが、状況は宗次郎の言葉を裏付けるものばかりだ。



「口、塞がれたの…苦しく、て……自分で、引っ掻いた…の…」



それで、誰にも顔を見せられないと思って、押し入れに隠れていたのだという。



「宗次……」



どうしようもなく胸が痛んだ。



「辛かったな……」



大の大人だって、そんなことをされたら耐えられないだろう。

それを、まだ年端もいかない宗次郎が抱え込むなど、到底無理に決まっているのだ。



土方は、その華奢な身体を抱き締めてやった。

自分じゃ嫌がるかとも思ったが、泣いていて嫌がる余裕がないのか、案外抵抗もしてこないのを良いことに、土方はずっとそうしていた。



「何で近藤さんに言わねえんだよ」


暫くして、土方がそっと言った。


「ぅえ……言ったら…ぁ、言ったら、迷惑…かかる…」


土方は目を剥いた。


「お前…そういう問題じゃねぇだろ!」


どこまでも自分を犠牲にしようとする宗次郎が、痛々しくて堪らなかった。


「なら、俺に言えば良かったじゃねぇか」

「ひ、かたさん…に?」

「あぁそうだ。俺になら迷惑だってかからねぇし、お前だって…」

「やだ…ぁ…」


益々泣き始めた宗次郎に、土方は慌てた。


「やだって…何でだよ!?」

「ひ、かたさ、ん…は、綺麗な人だから……僕で汚れちゃいけない…」

「宗次………」



土方は、宗次郎の言葉に驚愕した。

今まで、宗次郎に反抗ばかりされていたから、その言葉の真意を測りかねる。


「お前、俺のこと嫌いじゃねぇのか?」

「……嫌いです」


胸に顔を埋めながらぼそりと言う宗次郎に、土方はああやっぱり、と苦笑した。

ちょっとでも期待した自分が馬鹿だったという訳だ。



「でも、嫌いと同じくらい好きです」


土方は驚いて腕の中の子供を見下ろした。


「……お前」


相変わらず顔は見えないままだが、首まで真っ赤になっている。


もしかすると、これが宗次郎の本音なのかもしれないと思うと、温かい気持ちになった。


「よくわからねぇ理論だな」


自然と頬が緩む。



「…ありがとな」

「土方さん、こそ……ありがと…ございます」



それから、土方は宗次郎の顔を上げさせた。



「お前、これからは絶対一人で我慢するんじゃねぇぞ?」

「うん……」

「何かあったら、迷わず俺に言え。俺が絶対にお前を守ってやる」

「土方、さんが?」

「そうだ。二度と傷付けさせねぇ。指一本振れてみろ。俺がたたっ斬ってやる」


宗次郎は何だか不思議そうな顔をした。



「土方さんは、どうしてそんなに優しくしてくれるの?」

「それは……俺だって、宗次郎が好きだからだ」


宗次郎は目を丸くした。


「え」

「……近藤さんじゃなくて悪いけどな」


自嘲めいた口調で言うと、宗次郎が首を振った。


「うぅん……」



それから、宗次郎はぽつりと呟いた。



「僕、嬉しい。土方さんは、僕なんてどうでもいい邪魔な存在だと思ってるんだって…思ってた」


土方はまた驚愕する。

今朝は、宗次郎に驚かされてばかりだ。


「っんなわけねぇだろ!いつも気にかけてたさ」

「そ…なの?」

「当たり前だ。お前は俺の大切な……弟、なんだからな」


「…ありがと」


宗次郎は、微かに微笑んだ。



その微笑みを見て、土方は、宗次郎がずっと笑っていられるようにしてやろう、と決心したのだった。



20110808




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