朝、電車の中で放送していたニュースの占いで、こんなことを言っていた。
『しし座のあなた。今日は気になるあの人と近づけるかも…!?ラッキーイニシャルはH★』
ラッキーイニシャル??
普通そこはラッキーアイテムとかじゃないの?
ていうか、Hの人なんて周りにいたっけ?
登校しながら思いを馳せていると。
「おっ総司じゃ〜ん!」
「あ…平助………あ。」
さっそくイニシャルHの人が現れた。
「何のんびりしてるんだよっっ!あと30秒でチャイム鳴るぞっ!!」
「え?別にいいかなぁって……」
「何言ってんだよ!早く行こうぜ!」
無理やり平助に手を掴まれて、そのまま引っ張られた。
おかげで学校にはギリギリ遅刻しなかったものの、朝から僕は疲労困憊。
大体、朝食も食べていないのに、低血圧な僕を走らせるなんて言語道断なんだよ。
授業中、遅刻を免れさせてくれたということで、平助がラッキーイニシャルHなる人物かと思っていると。
走った所為で、徐々に瞼が落ちてきた。
まぁいいか。
どうせ最初から寝るつもりだったし、寝てしまおう。
そう思って、一時間目から僕は爆睡した。
「総司」
肩を揺さぶられて起こされる。
「ん………?」
目を開けると、一君が僕を見ていた。
「はじめくん……」
というわけで、第二のイニシャルH登場。
「早く着替えろ、次は体育だ」
そう言って僕を急かす。
「あ〜、寝ちゃったのか…」
「寝ちゃったのか、ではない。一応ノートは取っておいたから後で写せ」
「えっ!ありがと!」
確かに今日のラッキーイニシャルはHらしい。
わざわざノートを見せてくれるなんて。
ほんと一君っていい子だよね。
僕は慌てて着替えると、一君と連れ立って校庭へ行った。
「総司ーっ!何だその動きは!」
げ。
準備体操が面倒臭くてサボっていたら、原田先生に見つかってしまった。
「準備体操が肝心なんだぞ!」
「うぇー。でもめんどくさい」
「ったく、きちんとやれ!」
仕方なく僕は屈伸する。
体育委員のかけ声に合わせて、いちにっ、いちにっ……
って、馬鹿みたい。
その日の体育はバスケットボールだった。
一君と、敵のチームになった。
平助とは、同じチームだった。
…勝ちたい。
僕、負けず嫌いだから。
特に、一君には負けたくないし。
柄にもなく、めちゃくちゃ頑張ってみた。
平助が目を丸くするほどの働きぶりだったらしい。
「平助、パスっ!」
「ぇ、お、うんっ!」
一君は僕をマークして一々うるさかったけど、僕もお返しに一君ばかりマークしてあげた。
結局チャイムが鳴っちゃって、30対30の同点に終わったんだけど。
「総司、なかなかやるな」
「っは……一君こそ」
ほんと、一君は好敵手だと思う。
「総司パス回しが早いんだよ…」
「そういう平助だって、瞬発力すごいよね。すばしっこいっていうかさ」
「総司!」
試合後だべっていると、原田先生に呼ばれた。
「お前、バスケ上手いな」
「えへへ。それほどでも…というか一君と平助のおかげです」
「は?」
「何と言っても、イニシャルHだし」
「はぁぁ?」
あ、そう言えば原田先生もイニシャルHだった。
「原田先生は、何かしてくれないんですか?」
「は?お前さっきから何言ってるんだ?」
「ん、今日の僕のラッキーイニシャルはHなんですよ」
「ラッキーイニシャル?………あ、それより、担任の先生が総司を呼んでたぞ」
「え……やな予感」
「はは…ま、頑張れよ」
「うぅ〜」
どうせ遅刻が多いだの、授業中に寝るなだの、いろんな小言を言われるんだ。
僕は憂鬱な足取りで職員室に向かった。
原田先生、イニシャルHのくせに、何もラッキーなことしてくれなかった。
むぅ。
「せんせー、何かご用ですかー」
職員室にいた担任は、案の定僕の生活の乱れについてがみがみと怒った。
一気に雷が落ちる方が、よっぽどマシだ。
こうもネチネチいつまでも怒られると、すっごくげんなりするんだよね。
で、授業を受けるのも億劫になるんだよね。
で、結局サボっちゃえ!という結論に落ち着くんだよね。
僕がサボってるのって、絶対この担任の所為ってところが大きいと思う。
だけど、先生は絶対そんなこと自覚してないんだ。
ムカつく。
僕はむしゃくしゃしながら屋上への階段を上り、ばーんと大きくドアを開けると、日陰にごろりと寝転んだ。
「あーもう!」
僕の王子様はどこ?
なんて気持ち悪いことは言わないけど、早くラッキーイニシャルHさんに登場してもらいたかった。
いや、平助と一君にはお世話になったけど。
原田先生は特に何もしてくれてないけど。
どちらかというと、僕に悪い情報を持ってきてくれたけど。
っていうか大体、『気になるあの人』って誰?
そんな人いないし。
…………
…うん、いない。
多分………いない。
いない…………こともない。
っじゃなくて!
それに、たかが電車の占いを信じてこんなになってる僕ってどうなの?
あーいやだいやだ。
折角サボってるんだし、寝ようっと。
それからすぐに、うとうとと微睡み出した。
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