短編倉庫 | ナノ


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「「「「土方さん、お誕生日おめでとうございます!」」」」


その場にいた全員が、一斉に何かを叫んだ。


「は……………?」

「ぷっ……あははははっ!ちょっとはじめくん!今の土方さんの顔見たっ!??」

「…あ、あぁ…………」

「あはははっ!もう僕笑っちゃうよ!今流行りの写真に写しておきたかったよ!あの顔を真正面から見るために、僕、この役目に志願したんだからっ♪」


座敷の奧では総司がお腹を抱えて笑っているし、後ろを振り返れば、困ったように笑っている近藤さんがいて、その後ろでは幹部らや平隊士がにやにやとしたり顔を浮かべている。


「トシ……騙してすまなかった!」

「は……?」

「いや、トシを騙すなど士道に背くことに値すると思って…切腹覚悟の上でしたことだ!本当にすまない!」

「えぇぇぇっ!近藤さんまじかよっ!まかりなりにもこりゃあ祝いの席なんだぜ?」

「祝い……?」

「土方さんまだ気がつかねえのか?今日は土方さんの誕生日だろ!」

「誕生日………?」


言われて初めて気付いた。

そうだ、今日は俺の誕生日だ。


「だからこうして皆で宴会にきたんじゃねえか」

「そーだそーだ!土方さんのことだから、普通に祝おうとしたって、そんなのくだらねぇとか、経費削減だとか、んなことに現を抜かしてるんじゃねぇ、とかやかましく言いそうだったから、こうやって騙して連れ出すしかなかったんだぞ?」

「…………それでおめえら朝から…」


やっと納得がいった。

あの朝から続いていた妙に素っ気ない態度は、これを隠していたからだったのか…


「いやでも…おめえら演技下手すぎだろ」


あれじゃあ何かあることがばればれだ。


「いやあ、一応は誰がこう言って、そしたら俺がこう言って、と決めてあったんだけどよ、新八っつぁんが台詞抜かしたり、間違えないようにしようと焦ったりしたあまり…どうも上手く言えなかったぜ」

「まあ仕方ねえよ。俺ら役者じゃあるめえし!」

「一応私が多少指示を出したのですがね、皆さん演技などというものにはなかなか慣れていないようで……」


そういうあんたもな、と山南さんに心の中で突っ込んで、俺は盛大なため息をついた。


「なんだよ、土方さん嬉しくないのかよ!」

「あ、いや…そういうわけじゃ……」

「違うよ平助。土方さんは照れてるだけだから。嬉しければ嬉しいほど、眉間に皺がよっちゃう病なんですよねー?」

「いや、そんなわけ…」

「まあいいからいいから!みなさん早く中に入って!さっさと宴会始めましょー」


総司が呑気に言って、平隊士らを中に招き入れている。


「皆さん今日だけは無礼講ですからねっ!じゃんじゃん呑んで土方さんに甘えちゃっていいですよー?」

「「「はーい!!」」」


いや、俺は一度も許した覚えはないのだが。


「土方様、本日はおめでとうございます」

「あ?…あ、ああ…」


最後にのこのこと現れた店の主人を見て、お前もぐるか!と激しく突っ込んだ。


それにしても、見事にしてやられたわけだ。

この鬼の副長との悪名高い俺を騙すなんざ、誰が言い始めたかは想像に難くないが、ほんっといい度胸してやがるぜ。


「…覚えてろよ、総司」

「は?」


最奥の上座に座した(無理やり座らされた)俺の横に陣取っている総司が、徳利を片手にきょとんと俺の方を見た。


「今夜、死ぬほど後悔させてやるから」

「はあ………?」


次第に盛り上がっていく宴席を横目で見ながら、俺は総司にこっそり呟いた。


「ま、でも、ありがとな。嬉しいことをしてくれたから、それに免じて情状酌量くらいはしてやるよ」

「はぁ……わけがわからない……土方さん何か変ですよ?」

「いいんだよ、変で」


飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎは、日頃の憂いや心労を、一時なれども忘れさせてくれた。

俺の誕生日祝いという名目で、隊士らの気分転換になったのなら、副長としては願ったり叶ったりだ。


ま、今日の主役の俺と総司が途中からいなくなっていたことには、誰も気付いてなかったみたいだけどな。


そういうわけで、俺はまた一つ年をとった。



2011.05.05




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