「へーえ、なかなか綺麗な身体してんだな」
「なぁ、声が出せねぇってことは、何しても感づかれる心配がねぇってことなんじゃねぇの?」
敵の言葉に総司はおののいた。
それが何を意味するか、分からないほど無知ではない。
(やだ……そんな…)
総司は恐怖に目を見開いた。
そして、より一層激しく身を捩り、何とか敵の手中から逃れようと躍起になった。
そんな総司を、敵は面白そうに、舐めるような視線で値踏みしている。
「なぁ、どうするよ」
「そりゃあまぁ、据え膳食わぬは何たらで」
「そうだな…輪姦でもしてやりゃあ、こいつをいたぶるのにも丁度いいだろ」
「はは、しかも男に、な」
そう言って、男たちは高らかに笑った。
総司はいよいよ死に物狂いで暴れ出した。
(嫌だ嫌だ嫌だ…っ……こいつらの慰み物なんかになりたくないっ!)
「おい、あんまり暴れんな」
「そうだぜ、暴れると優しくしてやれなくなっちまうからな」
元からそんな気は微塵もない癖に、敵は耳につくような甘ったるい声で態と言ってくる。
「おら、諦めて大人しく足開け」
(やだぁっ…っ…!)
「大人しくしてりゃ、せいぜい気持ちよくしてやるよ」
(気持ちよくなんかなりたくない!)
総司の抵抗も虚しく、総司の肌を男の手が滑る。
(っあ…嫌………土方さん…っ…)
どうしても、土方のことばかりが心に浮かんでしまう。
もう、関係ないのに。
自分が何をされようと、土方はもう二度と守ってくれないだろうに。
(なん、で……何で忘れられないの?)
(何で僕、助けを求めてるの……?)
馬鹿みたいだ。
思い詰めた総司の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
と、その時。
「っ!!」
一人の手が、総司の足の傷を、包帯の上から掠めた。
その過度な刺激に、身体がびくりと跳ねる。
「ん?……何だぁ?この怪我」
敵は面白そうに顔を歪めて、総司の足首に触れた。
その度に電流のような痛みが足を駆け抜け、総司は身体をびくつかせる。
「……もしかしてこの足首、あん時にできた傷なのか?」
総司は黙って相手を睨み付けた。
何をされるか分かったものではない。
「ふん、面白れぇ」
次の瞬間、ぎゅう、と力を籠めて傷口を握られた。
「ぃ―――っ!!!!」
気が飛びそうなほどの壮絶な痛みに、総司はじたばたと四肢を暴れさせた。
どうやら、折角閉じかけていた傷口が開いてしまったようだ。
血が滲み出るのを感じて、総司は頭を振って悶絶した。
もし声が出ていたなら、外まで聞こえるほど大声で絶叫していたはずだ。
「おい、しっかり押さえとけ」
傷口を抉った男が言うと、総司を両脇から押さえ付けていた他の二人の男が手の力を強くした。
そして徐に、総司を組み敷いていた男が立ち上がる。
一体何をするつもりなのかと息を殺して見守っていると、その男は、ゆっくりと腰から刀を引き抜いた。
いよいよ殺されるのかと、総司は益々身を強ばらせる。
暗闇の中で冷たく光る抜き身に目が釘付けになった。
しかし、危険を感じても今の自分には何もできない。
あまりの恐怖に総司が目を堅く閉じた、次の瞬間。
「ーーっ…あ゛、っぁーーー!!!」
声にならない煩悶の呻きが、総司の喉から洩れ出た。
包帯の上から、既に開きかけていた刀傷を、深々と斬りつけられたのだ。
「〜〜〜っ!!!!!」
そのままぐりぐりと抉られ、総司は未だかつて経験したことのない激痛に激しくのたうち回った。
痛い、という言葉では体現できないほどの壮絶な激痛だった。
最早何も感じないほど、足の痛覚という痛覚が痛みを拾っている。
辺りに総司の掠れた息のような悲鳴が響きわたった。
「おーよしよし、痛いねぇ。でも死んだ仲間はもっと痛い思いをしたんだぜ」
「っ―……ぁ…ぁっ…」
次第に気が遠くなって行く。
しかし、もう少しで気を失うかというところでまた傷を抉られては、その都度意識が覚醒した。
鋭く、尾を引くような痛みは足から全身にまで広がっていき、総司は段々と、今自分がどうなっているのかが分からなくなってきた。
うつ伏せなのか、仰向けなのかも分からない。
視界が回り、足の痛みに全身が支配されている。
あぁ、僕は死ぬのかと、咄嗟にそう思った。
酷く濡れたような感覚がして、生ぬるい血溜まりが足の辺りに出来ているのが分かる。
まるで足に心臓があるかのように傷がどくどくと脈打って、そこから大量の血が流れ出ているのだ。
身体中が痺れたようになり、瞬きをすることすら億劫だった。
二人の男に拘束されたまま、総司はぐったりとその場に横たわっていた。
もう、ぴくりとも動けない。
敵は、急に動かなくなった総司が死んだと思ったのか、拘束の手を緩めてきた。
土方が飛び込んで来たのは、丁度その時だった。
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