「あぁごめん、間違えちゃった…僕と、シたいの?」
「話が分かるみたいね」
「僕は払わないよ?」
「いい。あなたなら、あたしが払ってもいい」
「分かった。じゃ、シよっか」
僕はその子の手を取った。
そのまま通い慣れたホテルに入る。
「ここでいい?」
「うん」
適当に部屋を選んで、中に入るなり早速舌を絡め合った。
唇を吸ってやりながら胸の膨らみを揉みしだいてあげると、その子の口からは甘い吐息が漏れた。
うん、なかなかいい感じ。
興奮してきたかも。
僕はその子をベッドに押し倒すと、足の間に身体を差し込んで、服を脱がせて夢中で裸体を貪った。
あられもない嬌声を上げているところからして、きっとかなり気持ちいいんだろう。
こんなによがってくれるなんて、僕、嬉しいな。
「…どう?きもちい?」
胸の突起に舌を這わせながら、態と聞いてみた。
「っハァん!…イイっ、あぁっん」
はぁ。
なんて浅ましい。
「スゴい…上手い、ね…えっと……」
「総司だよ」
「そう、じ…?ぃっ、あぁっん!」
股座に顔を埋めて、濡れそぼっているそこに舌を差し入れると、一際甲高い鳴き声が上がった。
その声に、僕の熱も高まる。
態とぴちゃぴちゃと音を立てて舐め、堪らなくなって指を突き刺す。
「っんぁぁ!あっん、そぉじ、待ってぇ」
「だめ。待ってなんかあげない」
ぐちゃぐちゃと中を掻き回してから、すっかり溶けたそこに自身をあてがう。
一気に貫けば、相手は鼻にかかった甘い声を上げた。
気持ちいい。
でも、満たされない。
何か違う。
熱を解放してお互いに上り詰めた後、気怠い身体をベッドに並べた。
「総司君って、いくつなの?」
「もうすぐ22だよ」
「じゃ、大学生なの?」
「そうだよ」
「随分慣れてるんだね……」
「それ、良かったってこと?」
「ふふっ……こんなことばかりしてたら馬鹿になっちゃうよ?」
「そうかもね」
いい。
馬鹿になったって全然構わない。
むしろ、発狂したいくらい。
僕は身体を起こすと、脱ぎ捨てた上着のポケットから煙草を取り出した。
火をつけて、口にくわえて、ぷはっと息を吐き出す。
途端に苦い味が広がって、僕は思い切り眉間に皺を寄せた。
それを、女の子は目をまん丸にして見つめてくる。
「……なに?」
居心地が悪くなって聞くと、可笑しそうに笑われた。
「総司、そんな顔してまで煙草吸うの?」
「え?」
そんな顔って、そんなに酷い顔だったかな。
「すっごい不味そうな顔してるよ?」
「あぁ、そう」
まぁ、そりゃあそうだろう。
僕だって好きで吸ってるわけじゃないんだから。
「そんなに嫌なら、吸わなきゃいいのに」
「いいの」
ただ、この匂いが忘れられないだけだから。
忘れたくなくて、吸ってるだけだから。
美味しいかどうか、好きかどうかは関係ない。
「でも、身体にだってよくないし」
僕はちらりと女の子を見た。
身体によくない―――……
散々言ったな、その言葉。
昔のことを思い出して、僕は益々苦々しい顔になる。
「君には関係ないでしょ」
「…勃起不能になっちゃっても知らないよ?」
「…なんない。ていうかなるわけない」
僕は半分以上残っている煙草の火を消すと、勿体無いと呟く声にも構わず、その子の横にごろりと寝転んだ。
胸に顔を寄せてくるその子の髪を、ちょっと梳いてあげてみたりする。
「……ねぇ、聞かないの?」
「…何を?」
眠ろうとしていたのを覚醒させられて、少し不機嫌な声が出た。
「あたしの名前。あたしは総司って知ってるのに」
「は……そんなの聞いてどうするの?一晩だけの関係なのに」
「……あたし、総司とならまたシてもいいよ?」
「…………」
僕は眉間に皺を寄せて、相手を眺めた。
はぁ。厄介だ。
「……やめた」
「えっ?」
「僕、帰る」
言いながら、素早く身体を起こして服を着る。
「や、ちょっと、総司!」
名前を呼ばれて僕はまた顔をしかめた。
「名前とか、もう忘れて」
「ちょっと…総司!」
慌てたように縋ってくるその子を、僕は冷めた目で見つめた。
今度はそれを隠そうともせずに。
「ごめん。僕無理なんだ、そういうの」
「何が……」
「そういうの、鬱陶しいし、めんどくさい」
もう一度なんてない関係。
僕はそれを望んでるのに。
次も、と言われた瞬間に、僕ははっきりと拒絶を始める。
「そう…じ……」
「あ、お金はいらないから」
「え?」
「僕別に困ってないし。じゃあね、ありがと」
僕は、呆然としているその子に短く別れを告げると、そそくさとホテルを後にした。
あーあ。
また相手を探さなくちゃいけない。
黙っててくれればよかったのに、バカな子。
再び僕は、ネオンの眩い通りをふらふらと歩き出す。
まだ、夜は明けてくれそうになかった。
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