御上からの報奨金が入ったので、久しぶりに幹部総出で島原へと繰り出すことになった。
「今日は無礼講だ。みんな、どんどん飲め!」
気前よく、嬉しそうに杯を酌み交わす近藤や、いつも通り五月蠅い三人組。
そのそれぞれに酌をする遊女がついて、なかなか華やかな祝宴となっている。
もちろん土方も例外ではなく、その横には別嬪の遊女がついているのだが、本人は不貞不貞しい顔のまま、にこりともしない。
当然遊女の方も面白くないようで、なんとかご機嫌を取ろうとあれこれ頑張っている。
それを眺めながら、沖田も楽しめずにちびちびと酒を口にしていると、自分についている遊女が、不意にすりすりと体を近付けてきた。
「沖田はん、どこ見てはるんどすか?」
ワザと気を引くような言い方をして、沖田の視線の先を追いかける遊女に、そんなに擦り寄るなと言ってしまいたくなる。
しかし仕事をしているだけの相手に、極端に無礼なこともできないので、苛立ちだけがどんどん募り、沖田はどうしたものかと困り果てていた。
すると、土方と目があった。
彼も同じように困った顔をし、苦い表情でこちらを見ている。
お互いに気がつくと、人知れずこっそり笑いあった。
それから目で合図されるがままに、沖田は立ち上がる。
「沖田はん………?」
不思議そうに見上げてくる遊女に厠だと嘘を吐き、沖田は土方について宴会場を後にした。
「……土方さん」
部屋を出てすぐのところで、土方は腕組みをして待っていた。
「部屋を借りてある。行くぞ」
そう言って足早に歩いていってしまう土方を、沖田は慌てて追いかける。
「借りてあるって………ずいぶんと用意周到なんですね」
「まぁ、どうせこうなると思ったからな。先に屯所に帰って後であいつらにネチネチ言われるのも嫌だしよ」
「まぁ、そうですけど…」
「ここの番頭も、何か秘密の会合でもやるのかと思ったらしくてな。すんなり貸してくれたぜ」
ここだ、と上機嫌で一室に入っていく土方の後から部屋に入り、誰かに見られていないことを確認してから襖を閉める。
途端に、後ろから肩を掴まれ、振り返るなり唇を塞がれた。
「っ…ぅん…っは……」
土方の性急な口付けに必死でついていきながら、手を土方の背中に回し、ぎゅうとしがみつく。
やがてくちゅりと音を立てて離れた唇を目で追いかけていると、土方は、しっとりと濡れた唇を額に押し当ててから、呆気なく離れて行灯に火を入れに行ってしまった。
「え……………続き、しないんですか?」
「するに決まってんだろ。けどよ、布団も敷かねぇうちからがっついてたら、獣みてぇじゃねぇか」
(いつも獣みたいに抱くくせに………)
むぅと頬を膨らませながら、それでも沖田は大人しく布団を敷く。
敷き終わって、さぁいよいよ…と沖田が掛け布団の中に潜り込むと、「掛け布団なんざ無駄だろう」と土方が蹴り飛ばしてしまった。
布団の用意をしろと言ったのは土方さんなのに!と沖田がいきり立つのにも構わず、土方は薄く笑ってのし掛かってくる。
「……総司」
機嫌を取るように名を呼ばれ、啄むように口付けられる。
その優しい動作に絆されて、沖田は一瞬にして何もかもどうでもよくなってしまった。
唇を合わせたまま着物をはだけられ、沖田も土方の着物に手をかける。
「はぁ…ぁ……土方さん…」
大きくはだけた着物の隙間から差し入れられ、忙しなく体中を這い回る土方の手に、沖田の体がどんどん熱く火照っていく。
たまらずに沖田が土方の髪を解こうと、手を伸ばした、ちょうどその時。
『あ……ぁっ…あんっ』
薄い襖越しに、いかにも、という声が聞こえてきた。
「………………」
「………………」
お互いに顔を見合わせて、暫し身動き一つせずに固まる。
『ぁっ…あぁっ!そこっ!』
沖田は居たたまれなくなって、土方の着物を握り締めたまま、もじもじと体を動かした。
「ねぇ……土方さん。やっぱりやめません?」
このまま事に及んでしまったら、あちらにも同じように声が響くことになる。
しかもこの部屋を借りているのが土方であることは割れてしまっているわけだし、色々と拙くないだろうか。
一人で気まずくなりながら、沖田は土方を見上げて訴える。
が、土方は沖田の言葉を完全に無視して、また愛撫を再開させてしまった。
「なっ……ちょっと!土方さん!」
「………声を聞かれたくねぇなら、俺の肩でも噛んでろ」
そう言って、容赦なく沖田の弱いところを撫で上げる。
それだけで沖田の息は上がり、中心は熱く勃ち上がってしまうのだから、土方は実に巧みだ。
「っ…あ!!」
思わず上がった声を抑えるように、沖田は自らの指を噛んだ。
途端に土方が不服そうな表情を浮かべる。
「総司、指を噛むな。傷つくだろうが」
「ん、だって……」
それを言うなら、土方の肩を噛んだって傷がつく。
それは嫌だと沖田は首を振った。
『…あぁん!……様ぁ!』
その時また声が聞こえてくる。
「じゃあ、あんな風に喘いでみるか?土方様、もっと……って」
土方の意地の悪い言葉に、沖田は目を見張る。
「い、嫌に決まってるじゃないですか!僕は女じゃな……っひ!」
土方は容赦なく沖田を攻める。
背中に手を忍ばせ、椎骨をなぞるように撫で下ろす。
途端に粟立つ沖田の肌を、宥めるように優しく愛撫する。
……が、その手付きとは裏腹に、吐くセリフは凶暴だ。
「ほら、言ってみろよ。どこをどう触ってほしいか、可愛く強請ってみろ」
ニヤリと口元を歪め、土方が沖田の髪をかきあげる。
反対の手で、焦らすように際どいところをなぞると、沖田はビクビクと震えながら首を振った。
その口には、再び手の甲がくわえられている。
「ったく、言うことを聞け。噛んじゃダメだっつってるだろ」
そう言うなり、土方は沖田の腕を取ると、解いた帯で縛り上げてしまった。
それから余っている帯を引っ張って、自らの手首にぐるぐると巻きつけてしまう。
「これでもう噛めねぇだろう」
愉悦の笑みを漏らして、土方は囁いた。
沖田は悔しそうに唇を噛む。
それを土方が指でこじ開ける。
そのまま口の中を自由自在に動き回り、蹂躙する。
「ほら、どこを触って欲しいか言え。言ったら、触ってやる。言うまで、俺は何もしねぇ」
「うぅ………土方さん!」
責めるように沖田は尖った声を上げたが、土方に無視されてしまった。
その間も、隣室からの厭らしい声はひっきりなしに聞こえてくる。
「う、後ろ………」
「後ろ?」
「後ろ、触ってください………」
沖田は観念して、消え入るような声で呟いた。が。
「後ろって何だよ」
そんな言葉で、土方に一蹴された。
「ちゃんと言わなきゃ分からねえだろう?」
否、土方は分かっている。
その証拠に、土方の指は、緩慢な動きで沖田の後孔を撫でている。
「………土方さんが、今触ってるところです」
そう言った途端に、土方の指は離れていく。
『はぁぁん…っ……焦らさないでぇ…!』
同調するように聞こえてきた遊女の喘ぎ声に、沖田はうっと息を詰める。
「……ぼ…くの……おしり……」
矜持をかなぐり捨てて辛うじてそう言えば、土方はようやく少し満足したようで、今まで入り口を撫で回すだけだった指を、つぷりと突き入れてきた。
「っ……!…ぅ、……」
唇を噛んで、あがりそうになる声を懸命に抑える。
「総司、声」
「嫌、ですよ………」
はぁはぁと荒い息を吐き出して、快感を逃す。
すると土方は、入れたばかりの指を引き抜いて、沖田の頭に手を伸ばし、髪紐を解き取った。
何となく目的が分かって沖田は抵抗するも、縛られた手ではどうにもできない。
実に呆気なく、自身の根元を縛られてしまった。
「だったら、イくな」
土方に恐ろしいことを言われて、沖田はごくんと生唾を飲み込んだ。
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