捧げ物 | ナノ


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「総司、そぉーじ!」

「………なに?平助」

「さっきから何見てんの?」

「え?…………ホモサイト」

「!!?!?!!?!!」



土方先生は綺麗な字で板書中。

一君は一心不乱に授業中。

平助は、僕の隣で絶句中。

そして僕は、一生懸命ホモのお勉強中。


「は?は?え、なに?え、冗談?」

「いや。平助も見る?」


そう言って、机の下でこっそり弄っていた携帯を差し出すと、平助は慌ててブンブンと顔を振った後で、真っ赤な顔をしてごくりと唾を飲み込んだ。


「……へぇー、興味あるんだ」


にやっと笑いながら、ずいずいと携帯を突き出すと、平助は可哀想なくらい狼狽えて、シャーペンだの消しゴムだのをバラバラと落としてしまった。

それから意を決したのか、僕から掠め取るように携帯を奪い、熱心ににらめっこを始めた。

赤くなったり青くなったりしながら、画面をスクロールして、いわゆるガン見を続けている。


「な、な、な………」

「面白いでしょ、男同士って」

「そ、総司、何見てんだよ、こ、こんなの、」

「んー?………いや、僕もさ、色々悩んでるんだ」

「え?!悩む?!拡張方法、浣腸の仕方、痛みってどのくらい?って、こんな悩み!?総司が!?…いやいや、いくら何でも……!」

「あ…………」

バシッ

「うぎゃっ!!」


あーあ。

土方先生さまさまが、ギャーギャーうるさい平助に、出席簿をクリティカルヒット。

ついでに携帯を取り上げて、開いていたページを見て、思い切り顔をしかめなさった。


「こら!授業中に携帯を出すなんて論外だろうが!」

「うぅ……いってぇ!体罰!体罰反対!」

「二人とも後で古典準備室に来やがれ!みっちり説教してやる!」

「えぇ!何で僕まで!」

「こりゃあお前の携帯だろうが!こんなサイト見てんじゃねぇ!こいつはしばらく没収だ!」


ひええ、先生それはマズいよ、何で先生が沖田の携帯知ってるの、ってことになっちゃうよ?

しかも聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど。


「ま、待って!没収って!マジ勘弁!」

「当たり前だろうが!エロサイトなんか見やがって!」


土方先生の言葉に、女子はざわざわ、男子はゲラゲラ。

あーあ、爆弾落としてくれちゃって。

……まぁ、ホモサイトって言わなかったのは、……まさか先生の保身のため?!


結局携帯は取り上げられちゃったし、平助には総司の所為だーって理不尽な怒り方をされたし、休み時間になった途端、一君にはじとっと睨まれるし、男子には、わらわらと取り囲まれる羽目になった。


「沖田、何のサイト見てたんだよ」

「さぁねー」

「沖田まさか、授業中に抜こうとしてたのか?」

「はぁぁ?そんな羞恥プレイ、するわけないでしょ」


まったく、人の気も知らないで。


「でもさー、沖田ってほんと勇者だよな!土方の授業でそんなことできるなんてさ!」

「おっかなくて、俺ぜってぇ無理!怖ぇよ!」

「あんなの、全然怖くないよ」


だって、土方先生は、僕の恋人だもんね。

そう言いたいのを我慢して、男子の群れをシッシッと追い払う。

そう、土方先生は、二カ月くらい前に僕の恋人になってくれた、大好きな人だ。

大好きだなんて、告白した日以来言ったこともないけどね。

僕から告白して、びっくりするくらい簡単にオーケイをもらった。

教師と生徒、男同士、なんていうしがらみをぴょーんと飛び越えちゃった感じ。

僕は未だに浮かれて、半分夢の中にいるような気分でいる。

誰にも……それこそ平助や一君にも言えない秘密だけど、毎週末には先生の家にお泊まりすることも許されてるし、何もかも順風満帆!………と言いたいところなんだけど。

実は、もう何回もお泊まりしてるし、だいぶ時間も経過したというのに、未だにCまで行っていなかったりする。

いや……Bもかな。

キスはとっくにした。

とっくにと言うより、付き合うことになったその日に向こうからしてくれたし、その後も何回もしている。エッチなやつも何回か。

だから、僕の告白を恋愛として受け止めてくれていないとか、一応生徒だから無碍にでかなくてオーケイしたとか、そういう訳ではないことは分かっている。

でも、その先に進んでくれない。

一緒にお風呂すら入ってくれない。

家で手を繋いだことはあるけど、そこからいい雰囲気には発展しなかった。

よく頭も撫でてくれるけど、それだって大人が子供にするようなやつで、気持ちいいだけで甘さとは程遠い。

だから僕は、大変に焦れている。

そして多大なる不安を感じている。

僕がお子様だとしか思えなくて、やっぱりプラトニックな愛しか育めないのか。

それとも、男同士が嫌なのか。

理由は分かんないけど、僕から迫ったってのらりくらりとかわされてしまうんだから相当だと思う。

どうしても求めて欲しくて、一カ月を過ぎた頃から、僕はあらゆる努力を積み重ねてきた。

まず、セックスレスの恋人たちに足りないものは何なのか、から調べ上げて。

ムードとか、色っぽさとか、可愛らしさとか、精力とか、色々試したけどダメだった。

それから最近では、男同士についても調べるようになった。

最初はどっちが女役なのかでものすごく悩んで、でもここは年功序列ということで、僕が引き受けることにしてあげた。

土方先生に僕が挿れてるところとか、あんまり想像つかなかったし、何か怒られそうだし。

それで、気持ちよくなれる方法とか、知識を散々頭に叩き込んで、学校帰りに大型量販店に行って、人生初のバイブと無花果浣腸を買って、穴を広げる努力までした。

なのに。

土方先生は見向きもしてくれなかった。

もう、大大大ショックだ。

僕ってそんなに魅力ない?…って誰かに聞きたかったけど、聞ける相手もいないし。

男なんてさ、挿れられる穴さえあれば何でもいいんじゃないの?

それともやっぱり、僕なんかには突っ込みたくもないとか…。

だったら別に、触りっこするだけだっていいじゃないか。

僕、頑張ってご奉仕だってしてあげるのに。

土方先生が望むなら、メイド服だって何だって着るし、恥ずかしい言葉だって言う。

じゃないと、このままじゃ僕、欲求不満で爆発しそうだ。





「あーあ。かったるー」

「総司は半分自業自得だろー?」

「平助が見つからなければ万事休すだったんだよ」

「なっ!俺の所為だってのか!?」

「でしょ」


放課後、平助と一緒に古典準備室に向かいながら、頭の中で誘い文句を羅列してみる。

だって、今日は金曜日なんだ。

毎週金曜日は、土方先生の仕事が終わるのを待って、車で先生の自宅に行くことになっている。

今日こそは、成功させたい。


「こんこん失礼しまーす」


声でノックしてから中に入る。

土方先生は、腕組みをして、険しい顔で僕たちを待ち構えていた。

先生の前の椅子に並んで座らされて、早速説教が始まる。

授業態度が云々、見ていたサイトの卑猥さが云々。

そういう年頃なんだから仕方ないじゃないかと平助が反論する。

いいぞ平助、もっと言っちゃえ。


「だってさー、元はと言えば総司が見てたサイトなんだしさー、興味持ったって仕方ねぇじゃん」


平助の言い分を、土方先生は真摯な態度で聞いていた。

……ほんと、こういう時だけ良い教師になっちゃうから、嫌になる。


「……まぁ、一週間のトイレ掃除だな。それで許してやる」

「げ……」

「うげぇぇ!?トイレ掃除ぃぃ?!!」

「何だ、停学処分の方が良かったか?」

「ひ………いや、とんでもないです」

「よし、じゃあ平助はもう行っていいぞ」

「えっ、総司は?」

「こいつは主犯だ。何であんなサイトを見てたのか、吐くまで帰さねえからな」

「げー」

「うわ…総司、お達者で………」


僕は慌てて平助が出て行くのを見送った。

ドアが閉まってから、嬉々として土方先生に向き直る。


「ね、せんせ、早くかーえろ」

「……お前、何であんなサイト見てやがった」


僕はもうスイッチが切り替わったのに、土方先生はまだ教師のまま。

心底呆れたように、型通りの質問を続ける。


「やだなぁ、もう。早く教師じゃなくなってくださいよ」

「俺は教師じゃなくて、恋人として聞いてるんだ」

「え………………」


真剣な表情の土方先生に、思わず固まる。


「……………そんなの、決まってるじゃないですか」


やがてたどたどしく口を開くと、僕は意を決してこう言った。


「僕、土方先生とシたいんですもん」

「……………」


すると、土方先生は眉をつり上げて、それから深々と溜め息を吐いた。

なに、ちょっと失礼じゃない?


「…………もう帰るぞ」

「え、ちょっと!」


無視?また無視する気?

…ふざけないでよ。


さっさと立ち上がり、歩いていってしまう土方先生に、僕は慌ててついて行った。

抱きたくはないくせに、お泊まりは許可するわけ?

なにそれ、もう意味分かんない。

でも、お泊まりなしは嫌だから、僕は土方先生について行くしかなかった。




―|toptsugi#




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