捧げ物 | ナノ


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夜の帳が下りた、静かな屯所の中。


「…………もう、いいか」

「う、ん………いい、ですよ…」


副長室から、些か場違いな声が漏れ出していた。


「………っ……い、」

「痛いか……?」

「ハ、ァ…ぁ…うん、ちょっと」

「く……きっついな…少し緩め、ろ……」

「う、ぅ…は、ぅ…」

「こら、息吐けって」

「ん、分かってま、す……」


総司の力が抜けるように、土方は優しく額に張り付いた前髪を拭ってやる。

ようやく全てを中に埋め込むと、土方は一回深々と息を吐き出した。

それに合わせて、総司も詰めていた息を吐き出す。


「………動くぞ」

「も…いちいち言わなくていいから…早く、して、よ……」


総司は焦れたように腰を揺すった。


「馬鹿、煽るんじゃねぇ」

「土方さんが、焦らすから、でしょ……」


掠れてはいるが艶のある声で、総司は小さく囁いた。


「あ、ッ…」


ズッと土方が抜き差しを始めると、総司は耐えるようにギュッと土方の着物を握り締めた。


「気持ちいい……か?」

「……も、っと、激しく、して、…」

「は……淫乱なやつだな」

「ち、違っ……淫乱じゃ、な…」

「こんなにぐちゃぐちゃに涎垂らしまくってる奴が、何言ってんだよ」


土方は意地悪な言葉を吐くと、先走りを溢れさせる総司自身を強くしごいた。


「やっ…それ、やぁ、ぁっ」


総司は土方の背中に爪を立ててしがみつく。


「はァ……つら、……」

「辛い?気持ち良すぎてか?」

「ん……気持ち、いい」


今にも溶けそうな表情を浮かべる総司に恍惚としながら、土方はあやすように揺らしていた腰の動きを、激しい律動に変えた。

総司が感じる場所を突き上げ、しとどに濡れた前を弄ってやる。


「ぅ、あ、ぁっ、」


耐え切れないと言うように、総司が濡れた声をあげる。

土方は総司の名前を呼びながら、最後の追い込みとばかりに総司の腰を掴んで、がつがつと身体を打ち付けた。


「ひ、じか、たさ…っ、」

「…もうイくか?」

「ぅ、…もっ…でる……」

「ほら……触ってやるからイけ」

「っ、う、ぅ…あぁ――!」


土方が奥をかき混ぜるようにして総司を追い詰めると、総司はびくびくと痙攣しながら欲を吐き出した。

その衝撃に、総司の中が土方の欲望をも搾り取ろうとうねる。


「はぁ、っ…出すぞ………」

「いい、ですよ…いっぱい…くださ、っ……!」


間髪入れずに土方の熱が腹の内部で弾け、どくどくと流れ込む。

その満たされるような感覚に、総司は甘い吐息を吐きながら、爪先まで強張っていた身体から力を抜いた。

それを見計らったように、土方が自身を抜き取る。


「ぁ………」


総司の名残惜しそうな声と表情に困って目を泳がせれば、中からどろりと溢れ出す白濁液が目に入って、その余りの艶めかしさに、土方はごくりと喉を鳴らした。


「総司……そんな顔はするんじゃねぇよ」


土方は総司の横に倒れ込みながら言った。


「ぅ……だって………これじゃ足りな…」

「馬鹿。もう終いだ」


土方がふぅ、と息を吐き出しながら断言すると、総司は恨めしげな顔で土方を見た。


「土方さん………お願い」

「駄目だ。明日の隊務に影響するだろうが」

「ちゃんとするから…っ……ね、も一度だけ、いいでしょ…?」


これ以上ないというくらいにしなを作って、上目遣いを意識して総司は土方に詰め寄る。


「土方さん…」


そんな総司を一瞥してから、土方は片手で目を覆った。


「くそ………駄目ったら駄目なんだよ。聞き分けろ」

「うぅ〜……相手してくれるって言ったのは、土方さんの方じゃないですか」


総司は自分は悪くない、と主張する。


「土方さんが僕を放置するなら、僕他の人のところに行って慰めて貰いますからね」


そう言って布団から這い出ようとする総司の手を、土方は慌てて掴み取った。


「分かった、分かったから。誰彼構わず股開くのはやめてくれ」

「やだなぁ。別に、僕が上って可能性だってあるじゃないですか」

「…あるのか?」

「…………………ない、ですけど。今のところは」


途端にどす黒い気を醸し始めた土方に、総司は焦って言った。


「…ったく、何度も言っただろうが。俺以外の奴に抱かれるんじゃねぇ、って」


土方が溜め息混じりに呟く。

が、総司はその意味をイマイチ計りかねて暫し押し黙った。


「あの、土方さん……」


鈍い痛みの走る腰をさすりながら、総司が起き上がる。

障子越しに仄かに照らす月明かりが影を作り、総司の動きと共に揺れる。


「何だよ」


土方は心なしか不機嫌そうな声色になって言った。


「ん……あの、質問なんですけど」

「だから、何だよ。焦らされるのは好きじゃねぇ」

「…そんなこと言って、土方さんは僕のことしょっちゅう焦らすじゃないですか……」

「……焦らすのは好きだ…」

「…………変態」

「で、何だよ。結局何が言いてえんだ」

「いえ、………」


それきり黙り込んでしまった総司が口を開くのを、土方はじっと待つ。


「あの………土方さんは、どうしてそういうことを言うんですか?」

「あぁ?」

「だから、どうして、他の人には抱かれるな、とか言うんですか?」


からかわれているのかと、土方は暗闇に目を凝らして総司の表情を伺った。

が、思いもかけず真摯な総司の視線にたじろぐ。


「お前…………」


土方は二の句が告げずに黙り込んだ。


「ね、どうしてですか?別に恋人同士でもないのに、どうしてそんな…変なこと」


総司に他意はなかった。

ただ純粋に、土方の意図が読めなくて。

それで、聞いただけだ。


「あのなぁ…総司、今更そんなこと言うんじゃねぇよ」

「今更って、僕には今更も何もないです。土方さんは、僕が放蕩するのを防ぐために、抱いてくれてるだけなはずじゃないですか」


総司は身じろぎもせずに土方を見つめたまま、小さな声で淡々と喋った。

土方はその言葉をどう受け止めればいいか分からずに、微かに眉間に皺を作る。


確かに土方は、人を斬る度に平隊士相手に性欲を発散しているらしい総司にいち早く気付き、その熱を解放してやるために幾度も身体を重ねていた。

二人の間に、好きだとか、愛しているだとか、そういう類の感情は一切ない。

互いに欲を吐き出すのに便利だからという、ただそれだけの関係だ。

物事には順序があることぐらい、年長者である土方はもちろんのこと、総司ですら分かってはいたが、二人とも今の割り切った関係に不満を持ったことはなかった…はずだ。


「なんか…分からないんですよね。いくら何でも、土方さんだけじゃ飽きるじゃないですか」


そこまで言うと、総司はまたごろりと横になった。


「お前、それ本気で言ってんのか」

「本気ですよ?だって、土方さんも僕だけじゃあ飽きるでしょ?…僕、そんなに上手くないし」


あっけらかんとして言う総司に、土方は絶句した。


別に、甘い関係を期待している訳ではない。

好きだとかそういうことを言ってもらいたい訳でもないが、だからと言って、ここまでぞんざいな扱いを受けたい訳でもない。


「…じゃあ、お前はいいのかよ。俺が、他の奴を抱いても」

「別に、いいですよ?そんなの土方さんの勝手じゃないですか。何で一々僕に許可をとらなきゃいけないんですか?」


総司は半ば苛々して言った。

土方の、信じられないとでもいうような視線が理解できない。

別に間違ったことは言っていないはずだ。


「はぁ………………もうお前帰れ」


やがて溜め息混じりに吐き出した土方に、総司は今度こそ吃驚して声を荒げた。


「っ…何でですか?僕まだ足りないって言いましたよね?」

「やる気が失せたんだよ。…おら、さっさと帰れ」

「な………」


総司は驚いたような、悲しいような、欲求不満を全て詰め込んだような顔で暫く押し黙っていた。

自分の発言の何がいけなかったのだろう。

総司にはまるっきり分からなかった。


「…後処理は?後処理もしてくれないんですか?」

「そうだな、それこそ誰か他の奴にやってもらえばいいだろ」

「ひっど………そんな、他人の精を好き好んで掻き出してくれる人なんているわけないじゃないですか」

「じゃあ自分でやればいいだろ」


どこまでも冷たい土方の言葉に総司はムッとして、強硬手段に出ることにした。


「なら、ここで自分でやります」

「あ?」

「それで、土方さんのお布団から何から何まで、ぐちゃぐちゃに汚してあげますから」


そう言って後孔に持って行こうとした指を、土方に強い力で止められた。


「っ…何で止めるんですか」

「やるなら自分の部屋でやれ」

「嫌です。帰るまでに零れたらどうするつもりですか」

「少しくらい大丈夫だろ」


双方一歩も引かず、半ば殺伐とした雰囲気が漂う中で、先に折れたのは総司の方だった。


「はぁ……分かりましたよ。僕、もう行きますね……」


自らの手を握っている土方を振り解き、素早い動きで立ち上がる。

瞬間どろりと溢れ出しそうになるものを、力を入れてぐっと堪えると、黙ったまま何も言わない土方を一睨みしてから踵を返した。


元来、そりの合わない者同士なのだ。

甘い雰囲気は似合わないし、互いを束縛するのも止めるべきだろう。

それに、恋人でもないのに束縛するなんて馬鹿げている――。


総司はまだ、土方の言葉の意味が分からずに、ただもやもやとしたものを胸の中に秘めたまま、静かに副長室を立ち去ったのだった。




―|toptsugi#




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