捧げ物 | ナノ


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プレゼントを渡したい人がいる、と思い切って姉のミツに打ち明けた。

ミツは最初驚いて何も言えない様子だったが、「どうじょうのお兄さんたちがね、今日はひじかたさんのおたんじょお日だってはなしてたから」と説明すると、ギョッとした顔をしながらも、事情は察してくれた。

それから散々からかわれながらも、教えてもらって、頑張ってクッキーを作りあげた。

お小遣いでは駄菓子を買うのが関の山、ならば手作り勝負をしたら?というのはミツの提案だった。


「味は保証するんだけどね」


と、姉は不格好なそれを見て、曖昧な笑みを浮かべた。


「よろこんでもらえない……?」

「大丈夫。もらって嬉しくない男なんていないわよ」

「そう?」

「んー、でも、あんまりモテすぎるお方だと、ウザったく思ったりするのかもね」

「モテすぎる…?」

「そうよ。どうせ学校で山ほどプレゼントをもらってくるのよ、ああいう奴は」


ミツは心底憎たらしそうに吐き捨てる。


「そっかぁ………」


うなだれずにはいられなかった。


「やだぁ!総ちゃんがガッカリすることないって!」

「だって………」


近藤先生の道場に時々顔を出す、ミツと同級生の土方歳三。

その彼に、総司は幼い恋心を抱いていた。

格別優しくしてくれる訳でもないのにどうして!とミツは怒り心頭な様子であるが、総司には十分優しく思えるのだ。

もじもじと手を握り締めて俯くと、ミツは額に手を当て大袈裟な溜め息を吐いた。


「……総ちゃんって、案外見る目ないのね」

「そんなことないもん…」

「それか面食いなの?ていうかそもそも、バカかアホしかいない高校男児に惹かれるってどういうことなの?総ちゃんまだ小学生でしょ?今から外道に走ってどうするのよ」


総司には難解なことばかりを、ミツは実に流暢に語ってみせた。

それから、溜め息をもう一つ。


「まぁ、仕方ないわ。可愛い総ちゃんがあんな奴を好きだなんて想像するのも嫌だけど、姉としては、総ちゃんのことを応援しなきゃね」

「おーえんしてくれるの?」

「もちろんよ。あの野郎、総ちゃんのことフったらただじゃ済まさないんだから」

「ありがと。ぼく、よろこんでもらえるよーにがんばる」


総司は姉の不穏な心境など知る由もなく、不格好なクッキーが少しでも見栄えするようにと、あれこれ手を加えてみるのだった。



***



誕生日当日、総司は道場までやって来ていた。

今日は土方も稽古に来ると言っていたし、渡すには絶好のチャンスである。

総司たち小学生が所属するジュニアクラスが終わると、間に入れ替えの時間があってから、土方たちの高校生クラスの稽古が始まる。

狙い目は、入れ替えの時間だった。

いつもは友達とお菓子を交換したり、だらだら着替えたりするところだが、この日ばかりは早々に支度を終え、総司は道場の門のところで土方が現れるのをじっと待っていた。

道場の中で渡したら、きっと周りにからかわれる。

総司はできるだけひっそりと、迅速に済ませてしまいたかった。

フられたくもないから、渡したらすぐに逃げてしまうつもりである。

そのためにも、土方の姿が見えたら駆け寄って、パッと渡してパッと走り去る必要があった。


「こない………」


しかし、土方はいつもの時間になってもやってこなかった。

姉が綺麗にラッピングしてくれた包みをキュッと握り締めて、総司は落ち着かずに門の前を行ったり来たりする。

もしかして、風邪を引いて今日は来られなくなったとか。

様々な事態を想像しては不安に駆られ、道場の前通りを見回す。

友達は何かを待つ総司を不思議そうに眺めながらとっくに帰ってしまったし、時計はないが、恐らく土方のクラスの稽古ももうすぐ始まる頃だろう。

どうしようとウロウロしていると、そこへようやく土方が現れた。

道の向こうから段々と近付いてくる土方は、何やら両手に大きな紙袋を数個下げている。


「ひじかたさん!」


総司はホッとして駆け寄っていった。


「あん?…おぉ、総司じゃねぇか。お前、もう稽古は済んだんじゃねぇのか?」

「おわりました、でもね、ぼく、ひじかたさんにご用があって、」

「俺に?」


土方は驚きながらも、手に持っていた紙袋を地面に置いた。

それからしゃがみこんで、総司と目線の高さを揃えてやる。


「何だ?何でも聞いてやるぞ?」

「うん、あのね………」


総司はもじもじしながら、後ろ手に隠し持っていたクッキーの包みを握り締めた。

それから落ち着かずに目を泳がせていると、ふと、地面に置かれた紙袋の中身に目が止まった。


「あ………」


中身は、恐らく土方が学校でもらったプレゼントなのだろう、可愛らしくラッピングされた包みが所狭しと詰め込まれていた。

きっとこれを貰っていたから、今日は現れるのが遅かったんだ…と総司はすぐに理解した。

すると、ついさっきまで、それなりに自信もあってキラキラ輝いて見えていた自分のプレゼントが、急にちゃちくてつまらないものに思えてくる。


「どうした?もじもじして、珍しいじゃねぇか」


いつもは突進してきてじゃれつきながら可愛くないことを言いまくってくるくせに。

土方が気長に見守っていると、総司は突然クルッと踵を返して駆け出した。


「あっおい!気を付け……!!!」


まだ胴着に着られているような子供の体格では、袴で走るのは危ないと慌てた矢先に、総司がグシャッと地面に潰れた。


「総司!!」


土方が血相を変えて駆けつけると、総司は大きな猫目をうるうるにさせながら、土方を睨むように見上げてきた。


「ったく言わんこっちゃねぇ……」


見せてみろ、と土方は総司の手の平や膝小僧などを点検して回る。

どうやら怪我は、手の平の小さな掠り傷で済んだようだ。


「こりゃあ消毒した方がいいな。近藤さんのところまで一緒に行けるか?」

「いたくないもん…」

「痛くなくてもばい菌が入っちまってたら困るだろ?」

「バイキンなんてはいってない」

「総司……」


用があると言ったくせに不機嫌になってベソをかいている総司に、土方は困り果てて溜め息を吐く。

と、その時、総司のお尻の下で潰れている小包に気がついた。


「総司、それ何だ?」

「えっ?」


土方の指しているものに気付いた瞬間、総司はハッとしてそれを隠す。


「まさか、それ、俺にくれようとしたのか?」


うんともううんとも言えずに黙り込む。


「違うのか…?」

「…………」

「見てもいいか?」

「だめ」

「何でだよ」

「だって………こんなの……」


総司はチラリと土方の紙袋を見た。

それに目敏く気がついて、土方は何となく総司の心境を察する。


「なぁ、ちょっとだけ見せてくれよ」

「だめ」

「だめなのかよ………」


土方はガックリとうなだれてみせた。

総司が心配そうに身じろいだ瞬間、素早く小包を取り上げて立ち上がる。


「あっ!ひどい!いじわる!」

「これ、開けてもいいか?」

「かえして!!」


ピョンピョン飛び跳ねて取り返そうとする総司を交わしつつ、土方は巧みにラッピングを解いて中身を取り出した。


「お、クッキーじゃねぇか。美味そうだな」


残念ながら、クッキーは殆どが割れてしまっていた。

完全にしょげてしまった総司を見ながら、土方は割れていないものを選んで口に運ぶ。


「ん、うめぇ」

「ウソだ」

「嘘なもんかよ」

「われちゃったのに……」

「総司の心がこもってることに変わりはねぇよ」


ほら、と土方は総司にもクッキーを食べさせた。


「うめぇだろ?」

「……わからないです」

「ありがとな」

「………」

「総司からのプレゼントなら、俺は何だって嬉しいよ」

「ほんと…?」

「あぁ、一番嬉しい」


そこでようやく、総司は子供らしい無邪気な笑顔を見せた。


「おたんじょお日、おめでとおございます」

「はは、ありがとう」


土方は総司の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。





稽古の開始時間をとっくに過ぎていたため、道場に入ると土方は近藤に心配した云々でかなりお叱りを受けた。

が、幸いにも、総司が転んだからと言うことで長い説教は免れられ、稽古が終わったら一緒に土方の誕生日祝いをしようという流れになたので、総司は手当てついでに稽古を見学していくことになった。

おかげで土方は何とも楽しく和やかな誕生日を過ごすことができたのだが、後日、総司から事情を聞いたミツに「うちの総司を傷物にして!!」とそれはそれは酷く怒鳴り散らされたことだけは、かなり手痛かった。




森巣さんのお誕生日に勝手に捧げさせていただきます!

お誕生日お誕生日…と悩んだ結果、何故かこの時期に土方バースデーのお話になってしまいました。
子総司もショタ方さんもミツさんも捏造すぎてごめんなさい……

森巣さん、お誕生日おめでとうございます!!!


20130702




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