捧げ物 | ナノ


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クソ生意気な餓鬼の可愛がり方の設定(若い土方とショタ総司)










『トシィィ……!トシィィ……!このメッセージを聞いたらすぐに連絡してくれ!』


バイト上がりに携帯を開くと、近藤さんから情けない留守電が入っていた。

大の男が何を慌ててるんだ?と思いつつ、言われた通り電話をかけ直す。

電話は恐ろしいことに一コールで繋がった。


「………もしもし、近藤さん?」

「トシィィ!!連絡をずっっと待っていたんだ!!頼む!今すぐ来てくれないか!」

「はぁ?何でだよ」

「総司が熱を出して寝込んでしまっているんだぁぁ!」


大声で泣き叫んでいる近藤さんに、俺は眉をつり上げる。


「だから何だってんだよ。熱なんざ寝てりゃ治るだろ」


あの生意気な餓鬼の顔が脳裏にぶわっと浮かんで、散々俺をからかってから消えていく。

それだけでムカついてきて、俺はふんと鼻を鳴らした。


「トシィィ!頼む!この通りだ!」

「いやいや、この通りって言われても……」


電話を片手に土下座している近藤さんが何となく想像できて、俺はぽりぽりと頭を掻く。


「あのな、病院には連れて行ったんだろ?なら薬飲ませて、冷えピタ貼って、脇の下冷やして、脱水にならねぇように水をがぶ飲みさせて、あとは安静にして寝てりゃあ大丈夫だろ」

「び、病院?冷え、ピタ、脇に?」

「…………近藤さん。あんたまさか病院にも連れて行ってねぇのか?」


俺は絶句して、思わず帰宅中の足を止めた。


「い、いや……ほら、な。お、俺は元気だけがとりえだったからな、看病の仕方などまるで分からんのだ…」

「………………」


まずい。物凄く不安になってきた。

このままでは、総司は近藤さんに殺されるのではないだろうか。


「…………今すぐ行く」


俺は行き先を近藤宅へと変更した。











家についた途端、近藤さんがトシィィと泣きついてくるのを振り払って、まっすぐ総司の部屋へと向かう。

そこで俺は再び絶句した。


「総司……………」


総司は半べそをかいて苦しそうに横たわっていた。

首にはぎゅうぎゅうに巻かれた長ネギ、サイドテーブルには、卵酒とおかゆらしきものが乗っている。

時代錯誤もいいところだ。


「ふぇぇ……ひぃかたさ……」


総司は辛うじて俺を識別すると、助けてくれと言わんばかりに両手を伸ばしてきた。

思わずきゅんとした自分を叱り飛ばしながら、慌てて首に巻かれたネギを外してやる。


「近藤さんよ………いくらなんでもこりゃあねぇだろう」


呆れ果てて、脇から覗き込んでいる友人に言えば、彼は叱られた子供のようにしゅんとしょげ返ってしまった。


「しかし、だな……知らんものは知らんのだ……こ、これでも、知っている限りの知識を総動員してみたのだよ。ほ、ほら!ネギというのは首に巻くといいのだろう?」

「だからってこんなにキツく巻いたら窒息しちまうだろうが!それに総司はネギが嫌いだし、やり方が古すぎる!」

「う………」

「それから卵酒は酒だ!小学生に飲ませんじゃねぇ!」

「うぅ……すまん…」


近藤に引き取られてから、総司が体調を崩すのは初めてなのだろうか?

いや、そんな筈はない。

総司は気管支が弱いからしょっちゅう病院の世話になっていたはずだ。

今まではどうしていたのかと当然の質問をすれば、近藤は、いつもは奥さんがやってくれていたのだと情けなさそうに言った。


「ツネさん?……あぁ、そういやツネさんはどうしたんだよ」

「それが………友達と旅行中なんだ…」

「……………」


俺は真っ赤な顔で苦しそうにしている総司を見ると、ため息をつきつつも決心した。


「………分かった。病院には俺が連れて行く。保険証くらいはどこにあるか分かるんだよな?」


脅すように言ってみると、近藤さんは慌てて部屋から出て行った。

その間に総司を抱きかかえると、ふにゃふにゃと柔らかい体が、弱々しく俺に抱き付いてくる。

元気な時はまかり間違ってもくっついたりしないから、相当具合が悪いということなのだろう。


「総司、お前ネギ臭ぇな」


思わず笑うと、総司は怒ったらしく、泣きそうな顔で頬を膨らませた。







小児科なんて久しぶりだ。

総司を抱っこしたまま待合室に入って、そのごった返し方に驚いた。

これは逆に病気をもらいそうだと懸念しつつ、受付で診察券と保険証を差し出し、体温計を受け取る。

子守熊の赤ん坊のように抱き付いている総司に苦戦しながら、体温を図ると九度近くあった。


「いつから具合悪かったんだ?」


相変わらずネギ臭い総司に聞くと、分かんないと首を振る。


「そうか……早く治してもらおうな」


肩にぐったりと乗せられた顔を覗き込んで言えば、総司はこくりと頷いた。

それからだんだんと総司を抱っこしているのが熱くなってきて、手扇で顔を仰いでいると、隣に座っていた若いお母さんに声をかけられた。


「お子様ですか?」

「え………」


俺は総司の父親に見えるのだろうかと、少なからずショックを受ける。


「いや、……あ、…」

「あ?」

「兄です…………」


関係を説明するのも面倒になって簡潔に答えると、そのお母さんはあら、と何故か頬を染めた。

いやいやいや、いくら俺がイケメンだからって、子供をほったらかして、そんな不埒な………………なんてあらぬことを思っていたら、不意に背中をぎゅーっと抓られた。


「イテテテ!」

「"お兄ちゃん"のへんたい」

「な、…………」


総司にお兄ちゃんと言われたら、不覚にも心臓がドキッとした。


「これ読んで、お兄ちゃん」


あからさまにお兄ちゃんを強調しながら、総司が待合室に置いてあった絵本を持ってくる。


「ここで読むのか?」

「読んで」


俺は伺うように周囲を見回してみたが、泣いている子もいれば、同じように本の読み聞かせをしている親子もいる。

どうやら静かにする必要はないようだ。

俺は渋々総司を膝の間に座らせると、渡された絵本を音読し始めた。


「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんは山へ芝刈りにおばあさんは川へ洗濯をしに出かけました。すると川上から大きな桃がどんぶらこーどんぶらこーと流れてきました。おばあさんはたいそう驚いてあれまぁなんて大きな桃だろ…………」

「ひじか………お兄ちゃん、読書下手くそだね」


総司の容赦なさすぎる言葉に、俺は思わず泣きたくなった。


「点は一秒、丸は三秒休むんだよ?もっと、おばあさんらしく読んで」

「……………」


いかにも学校の先生の受け売りな知識をひけらかしながら、総司が指図する。


「…………………あれまぁ、なんて大きな桃だろう」


羞恥に耐えながら読んでやると、総司は満足そうに続きを促した。

ページを捲ったところで、看護士に名前を呼ばれる。

俺は助かったと安堵しながら総司を抱き上げて、絵本を片付けてから診察室に入った。







「やだぁ!やだやだやだぁ!!」


"点滴してから帰ろうね"

そう医者が言った途端、総司はどこにそんな元気があったのかと言うほどに大声で喚きだした。


「絶対やだ!もうおうちかえる!!」


怒ったように叫びながら、俺に抱き付いて、お腹に顔を押し付けてくる。

いつものことなのか、医者は総司を放置してテキパキと準備を進めてしまっている。

俺は呆れて総司を引き剥がすと、無理やりベッドまで連行した。


「やだーっ!土方さんのばかーっ!点滴なんて絶対やだーっ!」


じたばたと暴れる総司を押さえつけながら、俺は総司を大人しくさせる秘策を繰り出すことにした。

総司に見せつけるようにふんと鼻で笑ってみせると、すかさず反応が返ってくる。


「むぅ……なんで笑うんですか!!」

「いや……餓鬼だなと思ってよ」

「なっ!!僕は餓鬼じゃない!!」

「なら点滴くらい、我慢できるだろ?」

「………………」


負けず嫌いな総司のことだ、案の定効果てきめんで押し黙り、医者も看護士もびっくりして固まる中、大人しく左手を差し出して見せた。


「すごいですね……近藤さんもわたしたちも、いつも手こずって大変なのに…」


看護士に尊敬の目で見られたが、別に大したことはしていない。

俺に餓鬼だと言われないためには、どこまでも意地を張るような奴なのだ。


「……いい子だ」


そう言って頭を撫でてやると、やはり点滴針が怖いのか、恨みがましく睨まれた。

ようやく点滴が入ると、一時間くらいですと言われて、治療室に二人きり取り残される。

総司は泣きはしなかったものの、点滴というその行為自体が嫌らしく、元気をなくしてベッドに沈み込んでいた。

俺はその柔らかい髪の毛を数回梳いてから、眠れるように目を覆う。


「ほら、寝ちまえ。それで早く治せ」

「……土方さん、ずっとここにいてくれますか?」

「どこにも行かねぇよ。お前を連れて帰らなきゃなんねぇしな…」

「じゃあ、寝る」

「起きるまで手ぇ繋いでてやるよ」


総司の体を横に倒し、眠りやすいように背中を叩く。

小さい頃姉貴にしてもらったかもなぁなんてうろ覚えの記憶を辿っていると、総司がウトウトし始めた。


「…後で薬も飲むんだぞ」

「えー……くすり?」

「あぁ。飲みやすいようにシロップにしてもらったから」

「シロップ?……甘いやつ?」

「いちご味って言ってたぞ」


薬が甘いと分かると、総司は安心したように眠りに落ちていった。

点滴が終わる頃にはだいぶ元気になっていればいいのだが、と思う。

そのまま俺も、総司の隣でしばし微睡んだ。







点滴が終わると、すっかり寝入ってしまった総司のことを、行きと同じように抱っこして家まで帰る。


「トシィィ!」


インターフォンを押した途端、待ち構えたように近藤さんが飛び出してきた。

とりあえず近藤さんを落ち着かせてから総司をベッドに寝かせて、薬や食事の説明をする。


「多分いっぱい汗をかくと思うから、こまめに着替えさせてやってくれ」

「うむ」

「それから冷やすなら脇の下とか、足の付け根とか、とにかく急所だ……あんたなら、剣道やってんだから分かるだろ?」

「分かる!分かるぞ、トシ!要は太い血管のところだろう?」

「おう……あとは…そうだな、本人が食欲があるなら何でも食わせていいと思う……医者もただの風邪っつってたしな」


一通り説明してから帰ろうとすると、近藤さんに腕を掴まれた。


「な、トシ、今日は泊まっていかないか?」


にこにこと罪のない顔で迫られて、俺はウッと言葉に詰まる。


「今日は俺と総司しかいないわけだし、トシがいればものすごく安心だし、総司も喜ぶと思うし、な?どうだ?」

「……………近藤さんに任せるのは心配すぎるしできればそうしてぇとこなんだが、遠慮する」

「どうしてだ!?」


途端に捨てられた子犬のような顔になる近藤さんに、俺は頭を押さえて言った。


「――――頭痛ぇんだよ。完全に染された。帰って寝る………」

「と、トシ!」

「総司に、お大事にって伝えといてくれ…」



どんどん酷くなる悪寒の所為で、それ以上近藤さんに構ってもいられず、俺はふらふらと帰宅した。


――数日後すっかり元気になった総司が、すっかりベッドの住人になった俺の元へとやってきて、散々ひっかき回されることになるとは、この時の俺は夢にも思っていなかった。



2012.09.16


66666打キリリクで奏さまに捧げます。

子総司を看病する土方さん、ということで書かせていただきました。

萌え要素がないといいますか、どこまでも土+沖でごめんなさい…

良かったら受け取っていただけると嬉しいです!この度はリクエストありがとうございました。




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