「総司、……………いいか?」
「やです」
「…………………」
思わず溜め息が出るのも仕方ないことだと思う。
もう、何度目だろう。
俺の夜這いが失敗に終わるのは。
今日も今日とて、俺は仕事を終えてから総司の部屋に忍び込み、いわゆる夜這いというものを仕掛けていた。
俺たちが恋人になったのは、つい最近のこと。
些か気が早いと思わないこともないが、生憎俺は"大切にしたいから手を出さない"なんていう騎士道精神は持ち合わせていない。
誰よりも大切だからこそ、きちんと愛情を注いでやるべきだと思っている。
が、総司はそうは思わないらしい。
「嫌です。無理です。分かったらさっさと帰ってください」
最初にいいか?と聞いた時からこの一点張りだ。
そもそも、先に告白してきたのは総司の方だというのに、こうも身も蓋もない振られ方をされ続けていては、総司の想い自体が疑わしくなってくる。
俺だって、総司に先を越されはしたが、総司に対する積年の想いは相当なものだと自負している。
だからこんな状態が続いていては、せっかく両想いになれたというその喜びまでが、嘘だったのではないかと思えてきてしまうのだ。
「俺のどこがそんなに嫌なんだ」
打診してみるのも毎度のことだが、総司がまともな返事を返したことなど一度たりともない。
「それは………言いたくありません」
「何だよ。はっきり言えばこっちだって対応できんだろうが。言ってみろよ」
「嫌です」
「………俺が、年食ってるからか?それでもまだ一回りは違わねえよな?それとも、俺が男だから嫌なのか?」
「もう、しつこいな。全部違います。見当違いもいいとこですよ」
「なら、初めてで、怖いのか?」
「ちょっと!馬鹿にしないでくれます?」
「じゃあ分かった。お前は、突っ込みてぇ方なんだろう」
「……そりゃあ、好き好んで掘られたい人は少ないんじゃないですか?相当痛いっていうし」
「そうか、分かった。お前は、痛いのが嫌だったんだな。それなら大丈夫だ、この俺が痛い思いをさせるわけ……」
「だから!もう全部違いますから!!この鈍感色魔!」
「な……………」
いつだってそうだ。
あの手この手で不安を取り除き、総司が嫌だと思っている理由を見極めようとするのに、総司は何故か突然キレ始める。
鈍感だの朴念仁だの散々な言い方をした後で、俺を部屋の外に閉め出してしまう。
おい、俺は仮にも新選組の副長だぞ。
副長相手に何たる無礼を働きやがる。
……とまぁそうやって職権を乱用し、年上に従えと総司の体を無理やり奪うことは朝飯前だ。
が、それではなんの意味もない。
総司の心が伴わないでは、こちらが虚しくなるばかりだ。
とはいえ、俺もいい加減に我慢の限界を迎えていた。
そこは男の性というか、溜まるものは溜まるし、抱きたいものは抱きたい。
欲求不満では仕事も思うようにはかどらない。
(ったく……俺の何がいけねぇんだよ)
このままでは関係が危うくなりそうだが、かといって無理やり組み敷くこともできず、情けない立場のまま、俺はいつもトボトボと副長室へ戻るのだ。
しかし、その日の俺はいつもとは違った。
いくら鬼と言われていようが、俺だって一人の男なのだ。
このままでは、体が保たない。心も折れそうだ。
腹をくくって、ここまでなら強姦にはならないだろうと、布団に横たわる総司の上に覆い被さる。
それから、慌てたように逃げを打つ総司の両手を顔の横に縫い付けて、暴れる足も体重をかけて制圧した。
完全に逃げ道を塞がれて、それでも総司は気丈に振る舞おうとしていたが、目には怯えきった色が広がり、薄く開いた唇は微かに震えている。
結局実力行使しかできないことを大変申し訳なく思いながら、俺は宥めるように総司の顔に口付けを落とした。
頬、額、目蓋、と唇が触れた場所から総司の体温が上がっていく。
やがて、抵抗する気が失せたのか、体から力を抜いた総司は、涙声でこう言った。
「……僕を、抱くんですか」
「………………」
その声を聞いて、ただ組み敷くだけでも十分に失格だったかと、俺は激しく後悔した。
「…抱かねえから、安心しろ。俺はただ、嫌がる理由が知りたかっただけだ」
そう言って上から退こうとすると、自由になった総司の手が、俺の顔を挟み込んだ。
「……なら、聞いてください。ちゃんと言うから」
思わず喉が鳴った。
今までこんなにも心臓がばくばくしたことがあっただろうか。
いや、あった。思えば総司に告白された時も、こんな気持ちだった。
「僕…………土方さんが好きです。不本意ながら、すごく」
「………不本意ながら、は余計だ」
「だから、こんなこと思う自分にムカつくけど、嫌われたくないって思います」
「……………」
こいつは、俺を喜ばせたいのか、どん底に突き落としたいのか。
告白された時もこんな調子だったから、不器用な奴だと可愛く思ったものだ。
「……で、俺に嫌われたくねぇから、抱かれたくねぇって言うのか?」
「だって…………土方さん、僕の体じゃ萎えちゃうと思って」
「は?」
「だ、だから!……僕の体は柔らかくもないですし、女の人みたいに滑らかでもないし、白くもないし、胸だってないし、……」
段々と尻すぼみになっていく総司の言葉。
それを遮るように、俺は総司に口付けた。
「そんなことを気にしてやがったのか」
「だって……僕知ってるんですからね。昔土方さんが散々遊んでたの」
「…………」
それを言われると、確かに何も言い返せない。
総司がちょくちょく俺の昔話を掘り返してきては気にしているのを知らないわけではなかったが、まさかその所為で拒絶されていたとは思ってもいなかった。
「じゃあ、そんなこと二度と考えられねぇように、気持ちよくしてやる」
「…………」
「だから、いいだろ?」
総司が不信感を剥き出しにして見上げてくる。
「……そんなに俺が信用ならねぇのか?」
元々短気な俺は、いい加減に苛ついてきた。
「そうじゃないです………でも………悔しくて」
顔を赤くしながら、そんな自分が嫌だとでもいうようにそっぽを向いて、それでもはっきりとそう言った総司に、俺は固まった。
悔しいだと?
なんてこった。可愛いじゃねぇか。
「とにかく、嫌なんですよ。僕がどこの馬の骨とも知れない女の人たちに負けるなんて許せない。土方さんの一番は、いつだって僕じゃなきゃいけないのに…………あ」
言ってしまってから、口を滑らせたと思ったらしい。
慌てて逃げ出そうとする総司の頬を両手で挟み込んで、問答無用で唇を重ねる。
「もういい………少し黙れ」
唇が触れたままそう言ってから、微かに開いた隙間に舌を差し込んだ。
逃げ回る舌を絡め取ってちゅぱちゅぱと吸い上げると、総司から苦しそうな呻き声が漏れ出でる。
「んんっ、やぁ、って……!!」
必死に離れようとする頭をぐっと押さえつけ、顔を傾けて口付けを深くする。
そのまま総司の体を弄って、帯紐の結び目を見つけると、俺は総司に気付かれないようにそっとほどいた。
大雑把に重ねられた着物の合わせから手を差し込み、胸の飾りを探り当てる。
舌を吸い上げながら突起を摘むと、総司の体が面白い程ビクビクと跳ねた。
「ん、っは!……ちょっと、いい加減にやめてください、よっ。いいなんて一言も言ってないのに!」
長々と交わされた接吻の所為で、総司の息が荒い。
その吐息すら甘いような気がして、俺は総司の唇に舌を這わせた。
「んゃっ、ひ、かたさっ…」
驚いて肩を竦める総司を宥めるようにさすり、鼻がくっつくほどの距離で、あやすように言う。
「俺はもう待たねぇぞ」
「…………」
「なぁ、いいだろう?」
「…………よくないって言ったって、どうせもう止める気なんてないんでしょ」
「は、よく分かってんじゃねぇか」
俺は総司の言葉を肯定と受け取って、胸への愛撫を再開した。
段々と固くしこってきたそこを押し潰し、更に膨らんだところで先端を擦る。
「可愛い反応するじゃねぇか、ん?」
「や、そんなとこ、…っ」
口では強がっているものの、総司の呼吸は荒いままだ。
しっかり感じてるんだなと口角を上げ、俺は真っ赤に熟れたそこに吸い付いた。
「〜〜っ!!」
咄嗟に口を手で塞いだ総司から、くぐもった鳴き声が漏れる。
「やだっ!土方さん!ふざけないでください!」
「ふざけてねぇよ……」
「僕は女じゃないから美味しくないです!」
「あぁ?んなもん女だって美味くはねぇよ。けど、お前のは美味い」
「もうやだぁ!このど変態!」
ぐいぐいと総司が頭を押してくるが、構わずに舌で刺激し続ける。
すると、ぴったりとくっついた体の下で、総司の中心が熱を持ち始めたのが分かった。
もじもじと居心地悪そうに身じろぎを始めた総司の腰を掴み、舌を徐々に滑らせていく。
腹筋をなぞるように舐め降りて、臍もべろりと一舐めしてやった。
それから下帯を熟練の技で手早く抜き取り、僅かに兆した総司の中心に鼻を擦りつけてから、パクリと口に含む。
「ひっ………」
総司が怯えたように此方を見る。
が、体は素直に反応し、総司自身は口の中で一気に質量を増す。
俺はニヤリと笑ってから、それをじゅぽじゅぽと扱き出した。
「あぁっ、はっ、ぁ、ん、!」
堪らないとでもいうように、総司が首を振る。
期待と怯えの混じったような表情が、ものすごく色っぽい。
先端をぺろぺろと刺激してから、くびれた部分までを口に含んで、全体的に舐め回す。
すっかり勃ちあがったところで一旦口を離し、裏筋を舐めあげ、横から唇で挟んでたっぷりと味わう。
それからまた喉奥まで迎え入れると、総司は背中をのけぞらせて激しく喘いだ。
嫌だと首を振りつつも、俺の口淫にあわせて揺れる腰に、笑みが漏れる。
口を窄めてじゅっと吸ってやると、総司は声にならない悲鳴をあげて達した。
「やっ、うそ、飲まないで……!!」
びゅくびゅくと吐き出される総司の精を、一旦口で受け止めてから手の平に吐き出す。
「はぁっ…はぁっ……」
「気持ちよかったか?」
「も…やだ…………上手すぎ」
「そりゃどうも」
総司の素直な感想に満足しつつ、完全にはだけきった着物をどけて、総司の足を持ち上げる。
「まさか、…土方さん、男も経験あるんですか……?」
されるがままになりながら、恐る恐る聞いてくる総司に、俺は思わず吹き出した。
「ばぁか。んなわけあるかよ」
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