それきり、先ほどの話が蒸し返される事もなく。
いつものように土方先生のうちに来てからは至って穏和な空気が流れ、別々にお風呂を終えると、後はもう寝るだけとなってしまった。
「総司、いい加減に寝ろ。もう日付変わってるだろ」
取り立てて何をするわけでもなく、二人でソファーに座ってテレビを見ていたら、唐突にそう言われた。
いつもならここで渋々布団に入って、土方先生が頃合いを見計らって来るのを狸寝入りで感じ取るところだけど、でもダメ。今日は引き下がれない。
「…………何でですか?」
「あぁ?子供が起きてていい時間じゃねぇだろうが」
「またそうやって僕のこと子供扱いする………」
やけに食い下がる僕を、土方先生もようやく変だと思ったらしい。
怪訝な顔をして、熱でもあんのか?と額に手を翳してきた。
「………別にどこも悪くないです」
「じゃあ何で…」
「強いて言うなら、下半身がじくじくします」
「……………」
土方先生は、困ったように口を噤んでしまった。
「何で黙るんですか?」
「いや………」
「そんなに、僕が嫌いですか…?」
「な……!んなわけねぇだろうが」
「じゃあ何で?やっぱり僕のこと嫌いだから抱けないんじゃないんですか?」
「それは……………」
「学校でだって、僕がシたいって言ってるのに無視するし。ねぇ、何で?」
先生に縋りつくように膝の上に乗り上げて、顔をずいっと覗き込む。
すると先生は、すぐに顔を背けてしまった。
それを見て、もう見込みはないのだと、絶望に襲われる。
「……………分かりました、もういいです。僕帰ります」
「っ…おい、総司待てよ!!」
土方先生から降りて、玄関に向かおうとしたところで手を引かれる。
「総司!話を聞け!」
「聞く話なんかない!僕のことなんか嫌いなくせに!」
「違ぇんだよ!いいから座れって!」
土方先生の勢いに圧されて、僕は渋々ソファーに座り直した。
「あのな、俺はな、お前が卒業するまでは待とうと思ってたんだ」
「卒業って………何年あると思ってるんですか」
「知らん。どちらにしろ、こっちはいくらでも待つつもりで禁欲に勤しんでたんだよ。それをお前って奴は…散々かき乱しやがって」
「僕は悪くないです。勝手に禁欲してる先生が悪いんじゃないですか」
「分かったよ、じゃあ俺が悪いことにしておいてやるから、卒業するまで待て」
「嫌です!僕待てない!今すぐ僕のこと抱いて!」
「だ、抱けって……」
「先生が抱いてくれないなら、僕浮気する!」
「う、わ………」
最後通告とばかりに睨み付けると、先生は深々と溜め息をついて、髪をかきあげた。
それから、多分逡巡してたんだと思う、しばしの間があってから、徐に立ち上がった。
「ったく………どうなっても俺は知らねえからな」
「どうにでもしてくださいよ。先生なら、全然いいですから」
「…………くそ餓鬼が。その言葉、後悔するなよ」
言い終わるより早く、僕の体をひょいっと持ち上げる。
「ぎゃっ、ちょっと!何これ!下ろして!」
「どうにでもしろっつったばかりだろ」
「……………」
びっくりするくらい意地悪な顔で言い放った土方先生に、僕は早速ちょっとだけ後悔した。
*
ドサッとベッドに下ろされて、体勢を整える間もなく覆い被さられる。
「総司、俺は途中で止められる自信はねぇからな。やっぱり嫌だと思ったら、ぶっ叩いてでも逃げろよ」
「………そんなこと、有り得ないもん」
「……はぁ」
強がりがバレただろうか。
こんなに雄全開の土方先生は見たことがなくて、ちょっぴり怖くなったというのが本音だ。
ずっと土方先生一筋だった所為で、恥ずかしながら実はチェリーボーイだったりするし、知識だけ詰め込んであるくせに、実際の経験なんて皆無なんだから、そりゃあ緊張もするよね。
だって、先生がこんなにも近い…。
「ん……」
手始めに、今までも何回かしたことのある、ベロを差し込むキスをされる。
ここまでは調べた通りだから、何とか心が遅れずについて行ってる。
「は、…む、ん、っん、」
だけど、時間が経つに連れて、段々余裕がなくなっていく。
だって、先生が、息継ぎをさせてくれない。
鼻から空気を吸い込もうとしても、顔が近すぎて緊張のあまり何もできなくなってしまう。
気付いた時には身ぐるみはがされて、パンツ一丁というとんでもなく恥ずかしい格好にされていた。
「ぷはっ…やだ、何で、……っ」
パジャマを脱がされたことに気付けもしなかった自分に腹が立って、土方先生に八つ当たる。
「何でって…脱がなきゃ何もできねぇだろうが」
「う〜………先生のバカ」
「おい、こんな時まで先生はやめろよ」
「土方先生、土方歳三先生、教頭先生、」
「んの野郎っ」
余裕がないのを隠すように畳みかけたら、ヤバい、先生の目の色が変わった。
ガバッと再び口付けされて、酸素やら余裕やら減らず口やらを全部剥ぎ取られる。
ちゅぱちゅぱと舌を吸われて、じーんと脳髄に響くような甘い痺れに、体までぶるっと震える。
飲んでも飲んでも注がれる土方先生の唾液が、口の端から零れ落ちる。
自由だった手で拭おうとすると、手首を掴まれ、土方先生の舌で汚れた口の端を舐め取られた。
どうしよう、僕、あの堅物教師の土方先生がこんなにエロいなんて知らなかった。
もうダメだ、思考回路まで霧散していく。
「ほら、名前呼んでみろよ」
「……ひじかた、さん」
「何だ、総司?」
「うう……何でもないです……」
ちゅっちゅと音を立てながら、土方"さん"の唇が首筋を降りていく。
くすぐったさに身を竦めると、剥き出しになった背中をつーっと撫で下ろされる。
「ひぅっ……」
知らない、こんな愛撫はどこにも書いてなかった。
せいぜい前と、特に後ろを丹念に、くらいだと思ってたのに……
「やっ!わ、わ、なんでっ!」
「お前が違うこと考えるのがいけねぇ」
土方さんは、何故か僕の胸を舐めだした。
やめてよ!そんなとこ何にもないのに!
柔らかくもないし、女じゃないんだから感じるわけ…
「や、ウソ、ぁ、ぁあっ、んっ」
何で!?何で気持ちいいの!?
「は………感度がいいな」
土方さんが、何もないはずのそこをペロペロとしゃぶる。
輪を描くように周りをなぞり、存分に焦らしてから舌を尖らせて突起をつつく。
唾液で濡らして、押し潰して、吸い付いて。
ジュッと音がする度に、悲鳴をあげて逃げたくなる。
腰を浮かせてベッドの上にずり上がれば、力強い腕に腰を引き戻され、ガリッと歯を立てられた。
「やっ!何で!何でっ…!」
何で下が反応するわけ?!
ずくんと下半身に熱が集まって、履かされたままの下着の中で、窮屈そうに頭をもたげたのが分かった。
もう、恥ずかしくて死にそう。
「おー、すげぇ真っ赤になった」
「っ……言わない、で!」
散々いじられた所為で真っ赤に腫れ上がった胸を、土方さんがおもしろ半分に指でつつく。
「ぃっ…やぁ、だ、っ!」
先端をくりくりと撫で回されると、それだけで腰がビクビクと跳ねる。
「うまそうだな……」
「ひゃ、あ、ぁ、もういいからっ!」
もう一度胸に舌を這わせ出した土方さんの頭を無理やり押すが、びくともしない。
それどころか、あいている手で下着を下ろされて、すっかり反応しきった自身まで弄られる羽目になった。
「ん、あぁ、っ!…お、おかしくなる、…っ」
「あぁ、なっちまえ」
下をにちょにちょと扱かれ、上にも吸い付かれ。
いきなりこんなのって、想像もしてなかった。
甘ったるい自分の声が嫌で、必死に唇を噛みしめる。
「総司、声が聞こえねぇだろ?」
そう言って、土方さんに耳朶を甘噛みされた瞬間、あまりの快感に目の前がチカチカして、あぁ、もうイっちゃう、とそう思った。
「んーっ、ぁ、や、待っ…あぁっ!!」
「おーおー、いっぱい出したな」
白濁がびゅくびゅくと跳ねて、土方さんの手やシーツを濡らす。
「ぅぅ……も、恥ずかしい、のに…!」
イくところを見られて、あまりの羞恥に両手で顔を覆うと、土方さんにやんわりとはずされた。
「嫌なら止めるか?」
「……………………やだ」
試すような聞き方をする土方さんは、本当に意地悪だ。
▲ *mae|top|tsugi#