捧げ物 | ナノ


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翌朝。

今日も今日とて仕事だというのに、いくら電話を鳴らしても起きない沖田に焦れた土方は、件の合い鍵を使って沖田の部屋へと上がり込んだ。


「おい総司!いつまで寝てんだ!」


大声で怒鳴り散らしながら寝室に入ると、沖田はうるさそうに布団を被ってしまう。


「総司!」


それを無理やり引き剥がし、昨日の格好のまま寝ている沖田の身体を揺さぶると、沖田は「行きたくない」とのたまった。


「ふざけんな!早く支度しやがれ!」


土方は沖田の頬をぺちぺちと叩く。

すると、沖田の目がうっすらと開いて、その瞳に土方を映し出した。


「な……お前、泣いたのか…?」

「…悪いですか」


沖田の腫れ上がった目に驚いて、土方はその目蓋に触れる。


「何で泣くんだよ……あー、もう、時間ねぇっつーのに…」


土方の言葉に、沖田の瞳が再びうるうると揺れ出した。


「お、おい!何でまた泣きそうになってんだよ!」

「土方さんが、僕のこと嫌いになるから!」

「はぁ?」


沖田の突拍子もない言葉に、土方は眉間に皺を寄せる。


「昨日怒ったまま出て行っちゃったし、僕のこと、迷惑だと思って、もうウンザリだって思って、嫌いになったんでしょ!」


最早泣きそうなのを通り越して喧嘩腰になっている沖田の滅茶苦茶な理論に、土方は酷く狼狽えた。

沖田は、自分が嫌がらせを受けていたことに土方が腹を立てていると勘違いし、それで見捨てられるとでも思い込んだらしい。


「ったく、お前な、馬鹿も休み休み言えよ。俺がいつ、お前を嫌いになった。いつ、お前に怒ってるって言ったんだよ」

「だって………」

「俺はな、お前じゃなくて、お前にこんなことをした連中に腹を立ててたんだ」

「……」


土方はため息を吐いて髪をかき上げると、取り敢えずタオルを濡らしに洗面所へ行った。

勝手知ったる何たらで、一枚を氷水で冷やし、もう一枚を電子レンジで温める。

一人寝室に取り残され、またむくれ返っていた沖田に温めたタオルを持たせると、自分は冷たい方のタオルを持って、沖田の目蓋を覆い隠した。


「ひゃっ!冷たい!!」

「大人しくしろ。こんなに腫れてちゃ、ザマぁねぇだろうが」

「い、いきなり何するんですか!」

「これを交互に当てて、腫れを抑えるんだ。自分で出来るか?」

「う、はい……」


タオルを沖田に渡すと、土方はクローゼットを開け、適当な服を見繕う。


「ほら、早く着替えろ。流石にシャワー浴びてる時間はねぇから我慢するんだぞ。それとも俺が着替えさせてやった方がいいか?」

「や、やだ!自分でできます!」


早速ズボンに手をかけた土方を、沖田は全力で阻止する。

その拍子に放り出されたタオルを手に取り、土方は沖田の顔を覗き込んだ。


「よし、だいぶ腫れが引いてきたな」


あまりの顔の近さに、沖田は思わず目を逸らす。


「も、もう、着替えるんで、あっち行っててください」

「お、行く気になったのか」

「え?…あ、だ、だって………」

「よかった。俺の昨日の努力が無駄になるところだった」

「へ?昨日の努力?」

「あぁ」


起き上がった沖田に、土方があるものを差し出す。

それは、今朝のスポーツ新聞だった。


「なにこれ……」

「まぁ、いいから読んでみろ」


促されるまま紙面に目を走らせると、とある記事が目に飛び込んできた。


「え?某芸能事務所社長の伊東甲子太郎、若手タレントに虐めを唆したとして出頭命令?!被害者は沖田総司を始めとする他社の売れっ子……って、え?え?なにこれ?」

「だーから、俺が嫌がらせの首謀者をとっちめてやったんだよ。急すぎて、まだ詳しいことも分かってねぇが、伊東の野郎、叩いたらすぐに吐きやがったぜ。お前の人気に嫉妬したんだとよ。こりゃあ芹沢さんが黙っちゃいないぜ。そのうちスキャンダルになるだろうな」

「えっ………」


伊東というのは、沖田に嫌がらせをしていたタレントたちの所属する事務所の社長だ。

まさかあの人が……と沖田は口をあんぐり開けた。


「ワイドショーやら何やらで取り沙汰されるだろうから、覚悟しとけ。まぁ、周りはみんなお前の味方だと思えばいい。各局にも根回ししといたし、大丈夫だろ」

「………………」


毎度のことながら、土方の行動力と人動力には、いつも驚かされてしまう。


「じゃあ、まさか昨日は……それをするために?」

「あぁ。あの後すぐに伊東の所に乗り込んで、散々脅した後で新聞社にたれ込んだ。あの時間だったからギリギリだったんだが、何とか朝刊に滑りこませてくれた」

「すご………」


土方の執念…というか復讐は、少々やりすぎというか、守ってもらっている方が怖くなってしまうほどの恐ろしさを孕んでいる。

少し背筋が寒くなったものの、自分のためにここまで東奔西走してくれた土方に、胸が温かくなったのも事実だった。

大切にされているような気がして、嬉しくなる。


「俺は誰であろうと、てめぇに手だしして、傷つける奴は許さねえ。例え相手が社長だとしても、絶対とっちめてやる」


怒りに燃えた目で言う土方に、これで伊東もおしまいかなぁ、なんて背筋に寒いものが走った。


「本当はこれでも足りねぇくらいだが、流石にこれ以上やると、あの伊東の手駒のタレントたちのファンが泣くからな」

「土方さん」

「だからこれ以上はやめておいたが、本当は、業界から追い出して、ついでに総司が衣装無くしたって決めつけたスタッフたちも締め上げて、」

「土方さんってば!」

「………何だ」


沖田が思い切り叫ぶと、初めて気付いたとども言うかのように、土方の視線が沖田を捉えた。


「あの、……色々ありがとうございました。僕、土方さんがそんなにしてくれただけで、すっごく嬉しいです」

「そ、そうか……」


土方が、満更でもなさそうにはにかんだ顔をする。


「さ、早く行きましょう。遅刻しちゃいますよ」


沖田は照れを隠すために、そそくさと土方を部屋から追い出そうとする。


「ちょっと待て、総司」

「え、まだ何かあるんですか?」


無理やり追い出されそうになった土方が、慌てて沖田の方へと振り向く。

不思議そうな顔をしている沖田の頭に手を乗せると、心配そうに翡翠の瞳を覗き込んだ。


「お前のこと、守ってやれなくて悪かったな」

「え……」

「俺がもっと早く気付いてりゃ、お前が傷つくこともなかったはずだ」

「そ、そんな!土方さんが謝ることじゃないです……」


沖田は居たたまれなくなって、思わず視線を逸らす。

それを許さずに、土方が沖田の視線を追いかける。


「……これからは、ちゃんと俺に言うんだぞ」

「………う」

「約束しろ、総司。じゃねぇと俺は心配で、夜も眠れねぇ」

「え、さ、流石にそれは大袈裟って言うか………」

「総司」


いつになく真剣な土方に諭すように名前を呼ばれ、沖田は狼狽えつつ小さく頷いた。


「よし、いい子だ。俺も、できる限りお前を守ってやるからな」

「っ……も、もう!恥ずかしいから!あっち行ってください!」

「は、そんだけ大口叩るようなら、もう大丈夫だな」

「〜〜っ!!土方さんんっ!!」

「はいはい」


顔を真っ赤にして怒鳴る沖田に苦笑しつつ、土方が今度こそ部屋を出る。

すると、今度は沖田が呼び止めた。


「あ、そうだ」

「ん?何だ?」

「僕色々頑張ったし、あのパンケーキ美味しかったんで、また連れていってください」

「………おう、任せとけ」


また最後の一枚は、押し付けられることになるんだろうなぁなんて思いつつ、土方は微笑み返したのだった。



2012.08.08


相互サイトの来夢様がリクエストしてくださいました。

大変遅くなりまして、申し訳ないです。

リクエスト内容は、"めらんこりっくシリーズで、人気すぎる総司に嫉妬した芸能人が、総司を虐めたり嫌がらせしたりして、総司は土方さんに心配かけたくなくて必死に隠して、だけど総司のちょっとした言動で解って総司を助ける土方マネージャー"でしたが、…ニュアンスは出てますかね?(汗)

ベタにタオルに画鋲入れるとか、衣装切り裂くとかしても良かったんですけど、それだと土方さんに一発でバレるので(笑)

書いててすんごく楽しかったんですけど、嫌がらせって難しいですね!モブ沖(R18)ならいけるんですが、めらんこりっくシリーズは、全年齢でギャグ風味で書きたいという訳わからんポリシーがありまして。

もうちょっと、総司くんのこといじめてあげてもよかったのですが……ブログ炎上とかね(笑)まぁ、今回はこんなものでやめておきます。

早くこの二人くっつけたいいいい

伊東さんとか芹沢さんとか、新しいキャラをたくさん出してしまいましたが、良かったら受け取ってください。

来夢様、この度はリクエストありがとうございました!




*maetop|―




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