その後、総司につられるようにしてベッドから離れた俺は、再び部屋を物色し始めた総司に、危うくエロ本を見つかりそうになって大変に焦った。
随分前に新八から押し付けられたのを、まだ見ていなくて返さずにいたのだ。
朝見つけて、処分したかったのだが、借り物なだけに無碍にはできない。
絶対に総司に見せる訳にはいかないから、どこに隠そうかと散々悩んだ挙げ句、ベタにベッドの下に隠したらこのザマだ。
総司がベッドの下に潜ろうとした瞬間に、首根っこを掴んで引き戻す。
当然総司はぶうたれていたが、あそこは汚いと一蹴して、何とか事なきを得た。
「でも、近藤さんにたのまれたんですけど」
そう言われた時、俺の目ん玉は危うく飛び出すところだった。
「"いいか?総司、見つからないように、こっそり、トシの部屋のベッドの下を調べてくるんだぞ"っていわれました」
本日、近藤さんにがっくりすること実に四度目。
近藤さん、一体あんたは何がしてぇんだ。
「まぁ、探られて痛ぇ腹は何もねぇよ」
「え、土方さんおなかいたかったんですか?」
「はは、違ぇよ。ま、近藤さんに聞かれたら、標準的な男の部屋だったって言っとけ」
「わかりました。ここは、ひょーじゅんてきなおとこのへやなんですね」
「…………あぁ」
何だか、総司に言われると気まずい。
やっぱり、小一が来るような場所じゃねぇよな、ここは。
総司にどこかで吹聴されなきゃいいんだが。
「それよりお前、おもちゃも何もなくてつまんねぇだろ。テレビでも見るか?」
「あ、ぼくね、あそぶものいっぱいもってきたんです」
「マジか」
リュックの中身はこれだったのか、と思いながら、荷物を散らかす総司を眺める。
よくもまぁ、こんなに詰めたものだ。
何とかレンジャーのプラモデルに、機動何とかの船隊模型。
逐一性能やら特徴やらを説明されたのだが、残念ながら、俺には全部同じに聞こえた。
まさかこれでままごとでもさせられるのか?と身構えていたら、ただ俺に見せびらかしたかっただけらしく、総司は、近藤さんが買ってくれたのだと誇らしげに語っていた。
それから、とプラモデルたちは遠くへ押しやって、総司はリュックからまた何かを取り出した。
「これはね、がっこうでもらったスケッチブックです。ぼくね、絵がじょうずってほめられるんですよ」
「へぇ。んじゃ、何か描いてみろよ」
そう言うと、総司は色鉛筆を出して、何かをぐりぐりと描きだした。
黙って見ているうちに口が寂しくなって、ついつい最近覚えた煙草に手が伸びそうになったが、総司に悪いと慌てて止める。
「はい、土方さん」
出来上がったらしい絵を見せてもらうと、何となく、誰が見てもこれは俺だと言うんじゃないか、という似顔絵が描いてあった。
「これ、俺か?」
「そうですよ」
「何で、角が生えてるんだ?」
「だって、いっつもガミガミこわいから」
「……………」
「はい、あげる」
「……くれんのか?」
「おへやにかざってね」
絵を描いてくれたのが嬉しい反面、鬼のように描かれたことにショックを受ける。
それでもせっかく総司がくれたんだからと思って、その場ですぐに壁に貼り付けた。
「ねー土方さん」
「……………なんだ」
「おなかすいた」
「……………」
俺は、こめかみが痛むのを押さえて、ゆっくりと台所まで歩いて行った。
もともと器用貧乏な性格のため、何でもやれば様にはなる。
何か喜びそうなものを作ってやろうと、冷蔵庫に入っている食材を物色した。
「総司、何が食いてぇ?」
近くまで歩いてきた総司に言うと、総司は一緒に冷蔵庫を覗き込んできた。
「オムライスがいいです」
「オムライス?」
卵とケチャップと…総司はウィンナーが好きか?コーンも入れると喜ぶんだろうか?
「全然ねぇじゃん」
「ないですね」
冷蔵庫にあったのは、せいぜい卵くらいなもの。
「仕方ねぇ。買いに行くか」
「しかたないですね。いっしょに行ってあげてもいいですよ」
リュックを持って出ようとした総司からリュックを取り上げ、財布だけ持って家を出る。
今度は少し遠くまで足を延ばして、スーパーに行った。
俺にとっては、スーパーは天敵だ。
案の定お菓子売場から動かなくなってしまった総司を無理やり引きずった結果、強請られた何とかレンジャーの景品付きのラムネと、更にはアイスまでもを買い与える羽目に陥った。
どんどん軽くなっていく、俺の財布。
ため息が零れたものの、総司がこっそり嬉しそうな笑顔を浮かべているのを見たら、どうでもよくなってしまった。
もっともその笑顔も、俺と目があった途端どこかへ消えてしまったのだが。
家に帰り、先にアイスを食べたがる総司からそれを取り上げて、上手いとは言えないものの、手際よくオムライスを作る。
その間にお菓子を開封した総司は、どうせそんな事だろうとは思っていたが、申し訳程度に同封されていた、食べもしないラムネを俺に押し付けて、ずっと景品を弄っていた。
そうこうしているうちにオムライスが出来上がり、テーブルに運んでから上にケチャップをかけようとしたら、総司にものすごい勢いで止められた。
「なにか描いてください」
そう言って、ケチャップのボトルを渡される。
「何かって……どうせ食っちまうんだからどうでもいいじゃねぇか」
「やだ!近藤さんは、いっつもなにか描いてくれるもん!」
「………………例えば?」
「んーと、………おほしさま、みたいなの、とか。くるま、みたいなの……とか…」
総司の言葉が、段々尻すぼみになっていく。
……近藤さん、どんだけ不器用なんだよ。
星くらい、流石に描けるだろ。
「みたいなの、ってことは、やっぱり何でもいいんじゃねぇか」
「……でも」
「分かった分かった、じゃあ、猫描いてやる。な?猫好きだろ?」
「…………土方さんに、ねこなんて描けるんですかー?」
「っ大人しく見てやがれ!」
俺は、首尾よく猫を描き上げた。
我ながらなかなかの出来映えだ。
「すごい……ちゃんとねこだ…」
総司が素で驚いているので、俺は思わず吹き出してしまった。
普段どれだけ悲惨な出来映えなのかが分かるというものだ。
「まぁ、冷めねえうちに食え」
「いただきまーす」
総司は小さい声で美味しいと言いながら、全部完食してくれた。
それからアイスをあげて、この後どうするかな、なんて考えていると、総司が机に突っ伏して唸りだした。
「な、何だよ」
「あつい」
「あぁ?」
「おふろはいりたい」
「はぁー?」
どこまでもマイペースな総司に、頭を抱えつつ風呂を沸かしに行く。
このアパートの唯一と言っていい利点は、ユニットではない風呂とトイレがついていることだろう。
さっき総司に貰った(正確には自分で買っただけだが)ラムネを口に放りながら、湯加減を調節し、そこそこ広い湯船に湯が溜まるのをぼうっと眺める。
すると総司が素っ裸でやってきて、驚く間もなく、まだ溜まってもいない湯船に入ってしまった。
「お前なぁ………何やってるんだよ」
「だってまてないんだもん」
「ったく……」
ガクッとうなだれつつ、体育座りをした総司の肩からお湯をかける。
そのうち調子に乗った総司が俺に水を飛ばし始めたので、俺はTシャツの袖を肩まで捲り、ジーンズの裾をギリギリまで折り曲げて、総司に付き合ってやることにした。
シャワーを出し、上向きに噴射して総司にかけると、総司は転がるような笑い声をあげて、湯船の中で暴れ回る。
そのうちにお湯がたまったので、先ほどこっそり買ってきた入浴剤を入れて、泡風呂にしてやった。
「うわぁ!あわあわ!」
「絶対食べんなよ」
「土方さん、ぼくのことをなんだとおもってるんですか」
「餓鬼」
頭の隅では、溜まりまくっている課題のことが多少くすぶったりしていたが、まぁ、たまにはこんな風に、ゆっくり構ってやるのもいいかな、なんて思う。
自分が末っ子だから、この歳になっても、小さい弟ができたみたいで嬉しいのだ。
俺は総司に、大人しくしているようキツく言い渡してから、風呂場まで点々と脱ぎ散らかされた服をかき集めに行った。
それらをたたみ、リュックに詰め込んでから風呂場に戻る。
ちゃんと大人しくしていた総司を、逆上せないうちに湯船から引っ張り出すと、髪の毛と身体を洗ってやった。
「うえ、小せぇちんこだな」
「あ、あんまりみないでくださいっ」
「なに照れてんだよ」
もじもじと身体を動かす総司を軽くからかってから、身体を流してバスタオルでがしがし拭いてやる。
総司は擽ったそうにしながら、されるがままになっていた。
こうしてしち面倒臭く世話をしてやっていても、嫌な気はしないから不思議だ。
どこかで見たことがある怪獣の柄のパンツを履かせ、同じキャラクターの着替えを着せたところで、不意に総司が俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇねぇ、土方さん」
「んー?」
「………また来てもいい?」
「な……………」
俺は驚いて総司の髪の毛を拭こうとした手を止める。
「ぼく、すっごくたのしかったですよ。土方さんのくせに、ごはんおいしいし」
総司にしては素直な言葉に、何故か俺まで照れてしまう。
俺は気まずいのを隠すように、総司の頭をタオルごとかき回した。
「まぁ、またいつでも来いよ」
クソ生意気で、まだ尻も青い餓鬼ではあるが、嫌いではない………というより、何だかんだで可愛い。
そのうちにすっかり夢の中へ旅立ってしまった総司を、俺は負ぶって近藤さんに返却したのだった。
(本当は、少し帰したくなかったというのは、ここだけの秘密だ)
2012.07.10
奏様に、相互記念に捧げさせていただきます。
現パロで、ちび総司を過保護な土方さんが甘やかすという素敵なリクエストをいただきました!
総司の年齢は一桁なら何でも…ということだったので、勝手に7歳(もしくは6歳)にしてしまいましたが、小一がどんななのか全く分かりませんでした(笑)
可愛めを狙ったので、総司と似て非なる物であることは開き直って認めます。
ほんとちび総司好きだわぁ。
それと、無意識に過保護な土方さんがセットで好き。
歳関係としては、近藤>土方≫沖田をイメージしてます。
甘い話を書きたかったのに、結果ただのやおいですね。これでもかとわたしの趣味を詰め込ませていただきました(笑)
土方さんだって、たまには学生でもいいじゃない、という。
ワガママ放題の総司を1日お守りするショタ方さんを書けて満足です。
この後土方さんは教職を取り、SSLに発展、アダルトな土沖に成長します。
気に入っていただけると嬉しいのですが…
奏様、この度は相互リンクありがとうございました!
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