とにかく、夕飯の時間になった時には心底ホッとした。
あのまま俺の部屋に缶詰めになっていたら、どんな羞恥プレイが待ち受けていたか分からない。
「ん〜美味しい!お姉さんのハンバーグ最高!」
口をハンバーグでいっぱいにしながらそんなことを言う総司を肴に、俺はちびちびとチューハイを流し込む。
「……ったく、歳三ったら何でそういうみみっちい飲み方しかできないのよ」
そんなことにまでいちゃもんをつけながら、缶ビールのプルトップをカコンと開けて、豪快にぐびぐびと飲んでいる姉貴に目を覆いたくなった。
「そういや、義兄さんは?」
「あの人はまだ仕事よ」
「じゃあ総司、今日一緒に風呂入るか」
何の気なしにそんなことを言ったら、姉貴にぺしんと頭を叩かれた。
「いい年した大人が何言ってんのよ!」
「トシさんのへんたーい」
「な、別に初めてでもないだろうが……」
「え、そうなの?」
「いや、そ、その……昔の話だ」
「うわ、もう、ほんといつからそんな変態になったの?」
「俺は前からこうだ!」
窮地に追い込まれている俺を見て、総司はにやにやと良からぬ笑みを浮かべている。
「歳三、あんた総司くんのことなんだと思ってんのよ。総司くんだってもう高校生なのよ?」
「んなこたぁ分かってる」
まさか総司と俺がそういう関係だとは露にも思っていない姉貴が、素で心配してくるのが少し面白くて、面倒臭い。
「まぁ、僕一緒に入ってあげてもいいですよ」
終わりの見えない押し問答を始めた俺たちに、とうとう総司が割って入ってきた。
「いつも仕事で疲れてるだろうから、お背中でも流してさしあげましょうか?ト・シ・さん」
「な、……」
「まぁ………総司くんってほんとにいい子なのね!」
頭が痛くなってきた。
俺はすっかり不貞腐れて、わいわいと盛り上がっている総司と姉貴を余所に、暫く一人でテレビを見ていることにした。
それから数十分後、ようやく総司が飯を食い終わった。
片付けを手伝うなんて言う総司を半ば無理やり風呂に押し込み、斯くして今俺は、総司に背中を洗ってもらっている。
「ねー、ここ押すと気持ちいでしょ?」
「あぁ、まぁ………」
ついでにマッサージまでしてくれる総司に瞼が落ちそうだ。
「……ですよねぇ、やっぱり。ここ生殖器のツボです」
「っな……!!」
「あははぁそんな狼狽えちゃって。うそうそ、冗談……」
「ってめぇ!黙ってりゃ調子に乗りやがって!」
「ぎゃー!けだものー!」
俺は泡もついたまま総司を浴槽に押し込んだ。
大人の男が二人して入るには少々キツいバスタブの中、密着して後ろから羽交い締めにする。
それから、くすぐったそうに身を捩りつつきゃあきゃあはしゃぐ総司の首に、ガブッと噛みついた。
「ぎゃ、ちょっと!何するんですか!」
「いいじゃねぇか、求愛行動だ」
しっかりついた歯形をそっと指でなぞりながら、すっかり泡だらけになってしまった湯船に浸かる。
総司は窮屈そうに身体を反転させると、しっかりと俺にしがみついてきた。
「なんだよ」
「………」
「腹に何か当たってんだけどな」
「そ、それを言うなら土方さんもでしょ!」
「まぁな……今ここでするか?何ならボディーソープ使ってヌルヌル泡だらけプレイでも……」
そこまで言ったところで、総司に思い切り水をかけられた。
「……変態!」
「悪かったな変態で。けど人のリコーダーを舐めようとしてたお前も相当変態だぞ」
「………お風呂上がったら」
「あぁ?」
「上がったら、こっそり一回くらいシませんか」
まじまじと総司の顔を覗き込むと、総司は言ってから恥ずかしくなったのか、ぷいと顔を背けてしまった。
逃げられてはたまらないと、総司の背中に腕を回し、離れそうになった身体を引き戻す。
流石に姉貴と一つ屋根の下で事に及ぶのはまずいかと思っていたが、可愛い恋人たっての願いなんだから仕方ないだろう。
「………まぁ、一回と言わず何回でもいいぜ」
「……………うん」
そうと決まれば話は早い。
俺たちは洗うところをさっさと洗って先を争うように風呂から出た。
そして姉貴におやすみなさいと形だけの挨拶を済ませ、もつれるように布団に潜り込む。
姉貴が来るかもしれないというスリルが、いつもより俺たちを興奮させた。
ただ、総司の声が聞けないのは残念だった。
だからやっぱり、自宅で思う存分あんあん喘がせまくるのがいい。
よし、帰ったら早速そうしてやろう。
三回戦……とまではいかなかったが、それなりに激しくまぐわった所為でバテた身体を休めながら、天井を睨んでそんなことを考える。
するとまだ寝ていなかったのか、不意に総司が擦り寄ってきた。
頭の下で腕を組んだまま好きにさせていると、調子に乗った総司が俺の乳首を弄り始める。
「っ……や、めろ…」
俺は慌てて総司を引き剥がした。
「えー、自分は僕に散々するくせに」
「それはお前が喜ぶからだ。俺は嬉しくもなんともねぇ」
「何だかなぁ……」
それでも総司は潔く諦めたようで、大人しくすりすりと俺の胸に頭を擦り付けている。
「ねートシさん」
「ん?何だ?」
「トシさんは、僕が産まれるまでなにしてたの」
少し拗ねたような口調で、総司はぽつりと言った。
やっぱりこいつは、いくら頑張っても埋まらない年の差とやらを気にしているのか。
だが、ずいぶん可愛い質問だ。
不覚にもキュンとした。
「………何て答えて欲しいんだよ。お前が生まれてくるのを待ってた、とでも言えばいいのか?」
「………僕は、トシさんのために生まれてきたのにな」
「お前………」
ふざけている訳でもなく、たまに出る真面目モードでそんなことを言う総司に、俺はどれだけ夢中にさせられていることか。
総司に上手く伝えられないのがもどかしい。
ちきしょう、俺ばっかりドキドキさせられて不公平じゃねぇか。
「……僕ね、ここに来るとね、子供みたいなトシさんが見られるから好きなんです」
子供みたい、と言われて少しムッとした。
総司もいつもこんな気持ちでいるのかもしれない。
「お前はまたそんな理由でここに来たがったのか」
「それだけじゃないけど……でも、トシさんは僕のこと全部知ってるのに、トシさんには僕の知らないことがいっぱいあるって、何だか悔しいです」
何なんだよ、その殺し文句の羅列はよ。
「心配すんな。俺のことは、総司が一番よく知ってんだろ」
「でも僕……土方さんがハンバーグ好きだって知らなかった」
「そりゃあ……誰だって好きなんじゃねぇのか?」
俺の心を鷲掴みにして離してはくれない総司に、いい加減自信を持てと言いたいのだが、総司はどこまでも不安らしい。
「大丈夫だ。焦るこたぁねぇだろ。これから先の方が長ぇんだし、ゆっくりお互いのことを知っていけばいいんだ」
今更これ以上何を知る必要があるのかと思わないこともなかったが。
そう言うことで総司が満足するならいくらでも言おうと思う。
「ゆっくり、か…ゆっくり、ね……うん」
ちらりと見やれば、どこか嬉しそうに総司がぶつぶつ言っている。
俺は今一度総司を抱き締めて、額にキスをお見舞いしてやった。
――そのままいつものようにひっついて眠っちまって、翌朝起こしに来た姉貴に白い目で見られたのは言うまでもない。
2012.06.23
現代設定で、大人な土方さんが、可愛すぎてしょうがない総司くん甘やかしまくるお話、というリクエストをいただいたのですが……。
あまり甘やかせてませんね。ごめんなさい!むしろ土方さんが甘えてるような…
オリジナルおのぶさんもかなりでしゃばってますし。イメージ崩れた、なんて方ごめんなさい。
もうちょっと土方さんに総司を甘やかさせたかったです……
良かったら受け取っていただけると嬉しいです。
りん様キーホルダーありがとうございました!土沖でいちゃいちゃさせます!
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