捧げ物 | ナノ


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※グロいです













夜が明けた。

白み始めた東の空からの光がうっすらと室内を照らす中、山崎は船を漕いではハッと我に返るという行為を繰り返していた。

静まり返った屯所に一晩中響いている土方の怒鳴り声や派手な物音が、今にも眠りそうな山崎の意識を何とか繋ぎ止めている状態だ。

いくら隊務明けだったとはいえ、一晩夜明かしするだけでもこんなに辛い。

これをもう何日も続けている土方の気丈さが信じられない。


(これもまた…愛故、か………)


山崎は目の前の青年を見つめて思う。

普段あんなに反抗的なのに、土方の寵愛を一身に受けている沖田が羨ましい。

それだけ沖田が土方に与えるものが大きいということなのだろう。

いつも一番強かった沖田が、こうして頬を痩けさせて窶れ(やつれ)きっているのを見るのは山崎でも辛いというのに、土方はどんな思いで沖田を見守っていたのか。

それを考えると、山崎は深く落ち込んだ。

幸いにも、山崎が沖田の部屋に来てから今まで、沖田は魘されることもなく寝入っている。

恐らく、だいぶ松本の処方薬が効いてきているのだろう。

この状態が、副長が帰ってくるまで続けばいいが、と山崎は少し思った。

暴れる沖田を抑える術など、土方でなければ分からない。


…が、その矢先、不意に沖田が魘され始めた。

山崎はギョッとして身構える。


「…っ…ぅ…う……」

「沖田さん、大丈夫ですか?」


意識はないらしく、山崎が問い掛けても答えない。


「…うぅ……ひじ…か………さ…」


土方を呼ぶ沖田の閉じた目から、つーと涙が零れ落ちた。

先ほど土方は沖田に恨まれているようだと言っていたが、万に一つもそんなことはないと山崎は思う。

沖田が依存しているのは、薬ではなく本当は土方なのではないかとさえ思っていた。

新選組が好きで、近藤が好きで、しかし土方には依存している。

麻薬の毒よりも、麻薬を飲むことで土方に嫌われることを恐れている。

看病させて、迷惑をかけることを嫌がっているのだ。

それは当人たちには気付けない、第三者だからこそ分かるような類のものだった。


「ひ…かた、さ……許し、て………」


静かに泣きながら夢の中でも許しを請うている沖田に、一番組組長としての姿は微塵もない。

ただ子供に還ったようにめそめそと泣くだけだ。

土方も、このような沖田の譫言(うわごと)をたくさん耳にしたのだろうか。

涙をたくさん見たのだろうか。

それをどんな気持ちで受け止めてきたのだろう。

鬼と言われてはいるが、その実人一倍優しい土方が何を思ったのか、考えるだけで山崎の胸は痛んだ。


「……っ……ひじかた、さん……」


布団の端を震えるほど強い力で握り締める沖田を見て、山崎は酷く狼狽えた。

土方なら、どうするのだろうか。

きっと、優しく手を握ってあげるのだろう。

だが、山崎には出来なかった。

沖田に触れることは、どこか恐ろしいことに思えたのだ。


「沖田さん……すみません…」


うなだれた山崎の耳に、その時一際大きな浪士の絶叫が聞こえてきて、山崎は一人身体を震わせた。











「このくそったれが!!」

「ぁ…ぐあぁっぁあっ…!!」


土方は一向に収まる気配のない怒りを持て余して、感情のままに浪士の手の指の付け根に小柄を振り下ろした。


「あ゛がぁぁ…あああっ!!」


裂けた肉から鮮血が溢れ出し、浪士がじたばたと暴れ回る。

既に傷だらけの両手は、血で真っ赤に染まっていた。

その浪士の傍には、もう意識の殆どない他の浪士たちが転がっている。

指が欠けていたり、髪の毛が抜けきっていたり、歯が抜け落ちていたり、血反吐を吐いていたりと様相は様々だ。

土方が一晩じっくりかけて、一人一人嬲り倒したのだ。

初めのうちは様子を見守っていた隊士たちも、まさしく鬼のような土方に怯えていなくなってしまった。

が、土方にはそれを咎める余裕すらない。


「てめぇらは総司に何をした!!!」

「もう殺してくれぇ……!」

「っざけんじゃねぇ!!!」


土方は浪士の鬢を鷲掴むと、乱暴に床に叩きつけた。


「総司だって死んだ方がマシな苦しみを味わったんだ!!こんなもんで死んじまわれたら困るんだよ!!!」


そのまま頭を踏みつけて、梁にかけて両足を吊している縄をぐいっと引く。

浪士の身体は蝦のように反り返り、喉からは苦しそうな呻き声が漏れ出でた。


「総司の苦しみはこんなもんじゃねぇ!!こんなもんじゃねぇんだよ!!!」

「ゆ、許してくだせぇ……!」

「許せだと……?」


土方は恐ろしく冷たい声で言った。


「……総司がそう言った時、てめぇらは許してやったか?」

「…っあ、あぁ…許した、許したぜ…」


土方の口元に冷酷な笑みが浮かぶ。


「どうも俺の見聞とは違うみてぇだがな」

「……そんなこたぁねぇ!」

「そうかよ。……けどお生憎様だな。俺は許せと言われて許せるような優しい男じゃねぇんだよ……っ!」

「……あ…ぐぁあ゛ああああ…!!!!」


土方は躊躇なく浪士の足の指を一本切り落とした。


「あ゛ぁぁっ痛ぇぇぇ!!痛ぇよぉぉ!!死ぬ!死んじまう!!」

「あーあ……そのうち切り落とせる指がなくなっちまうかもなぁ……その前に爪でも引っこ抜いてやろうか?」

「やめてくれぇぇ!!頼むからもう殺してくれぇぇぇ!!」

「てめぇの願いなんざ誰が聞くかってんだよ!!!!」


土方は容赦なく浪士の縛られた足首を掴むと、剪刀を持ってきて足の爪を一枚ずつ乱暴に抜いていった。

ぶちぶちと肉の切れる音がして、浪士が断末魔の叫び声をあげる。


「あ゛ぁぐっ…ぁっ…が……!!」

「……なぁ、てめぇらが総司を攫ってあんな風にしたんだろ?」

「す、すまなかった…う゛ぁぁあ!!」


絶叫する浪士の爪を、一つ答える度に抜いていく。

浪士が痙攣し、床にはどす黒い血だまりができる。


「殴って蹴って、それから?それから何をした」

「もう二度としねぇから!だから許してくれぇ!!」

「俺は何をしたのかって聞いてんだよ!!」

「う゛わぁ゛ぁぁぁっ!!」


そのうちに浪士が流す血で手がぬめって上手く抜けなくなってきた。

なかなか抜けないのが焦れったくなって、土方は途中で浪士の足を放り出す。


「……てめぇらは、総司のことを輪姦したそうだな」

「……ぁあ………そうだ、よ…」


浪士は、息も絶え絶えに吐き捨てた。


「それで、薬漬けにしたのか」

「……あ、ぁ………」

「…てめぇも薬漬けにしてやろうか?それとも輪姦されてぇか?あぁ?どっちがいい?」

「…っいやだ……やめてくれよぉ…!」

「それともここに腹を空かせた野良犬でも連れてきてやろうか?ん?」

「お願いだ……もう…殺してくれ………」

「そしたらてめぇの腐りきった肉でも食ってくれるかもしれねぇぜ……?」

「頼む……もう耐えられねぇ……一思いに殺してくれぇ!」


懇願する浪士に、土方は今一度氷のような視線を送ると、無言のまま立ち上がった。


「………てめぇらのことは死んでも許さねえ」


そう言い捨てて、浪士の身体を切り刻んだ小柄を放り出し、虫の息の浪士はそのままに拷問部屋を出る。

部屋の外に出て初めて、うっすらと明るくなった廊下から夜が開けたことに気が付いた。

拷問部屋には障子も何もないから、今まで分からなかったのだ。

もうそんなに時間が経ったのかと、土方は髪をかき上げてひと息吐いた。

扉に鍵をかけて寄りかかると、中から浪士の苦悶に満ちた呻き声が聞こえてくる。

血に染まった己の手を見下ろし、土方は自嘲の笑みを浮かべた。


「俺は………こんな方法でしかお前を守ってやれねぇよ………いや……守ってもやれねぇか…」


一人呟いた言葉が、薄暗い廊下に吸い込まれていく。


「すまねぇな、総司……」


沖田を苦しめたあの麻薬が、今や土方の心をも侵蝕し始めていた。


「くそったれが…………!」


土方は何とか気を奮い立たせると、汚れた手もそのままに、ずんずんと廊下を歩いて行った。




*maetoptsugi#




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