捧げ物 | ナノ


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「何か、お団子屋さんの前で喧嘩してる人たちは見ましたけど、」

「あぁ」

「今日も、取り立てて異常はありませんでしたよ」

「そうか、ご苦労だった」


総司は羽織りも脱がぬまま土方に巡察報告を終え、先ほどの気まずさも手伝って早々に副長室を立ち去ろうと腰を上げた。


「総司」


が、土方に名前を呼ばれて立ち止まる。


「………何、ですか」

「まぁ座れよ」


存外強い口調で言われ、総司は渋々元通り腰を下ろした。

気まずくてたまらない。

先ほどのことを何か言われるのだろうか。

原田と土方との一件を知らない総司は、ただそわそわして正座しているしかなかった。


そんな落ち着かない総司を見て、土方はいよいよ決心を固める。


「総司、驚かねぇで聞けよ」

「え?な、何を………」


総司は益々狼狽え、困惑しながら土方を見つめた。


「総司、」


土方は土方で、どう言うべきか決めかねて、なかなか先を続けることができない。

が、原田の言葉を思い出して、やがてただ一言、簡単に告げた。


「俺は、お前が好きだぜ」

「……………!」


耳に入ってきた言葉に驚き、総司は暫しぽかんとして土方を見つめていた。


「………………」


が、何を言われたか理解した途端、大慌てで立ち上がると、踵を返してその場から逃げ出そうとした。


「っ……おい!待てよ!」


今ここで逃げ出されては堪らない。

決死の覚悟が流されてしまっては元も子もない。

逃げる総司も必死だが、土方も必死に手を伸ばして総司を止めた。


「…やだっ……離してください!」


立ち上がって総司の着物の袖を掴んだ土方は、総司の拒絶に溜め息を吐いて、少々手荒ながらも足を引っ掛けて総司の足元を掬った。


「あっ」


総司が短く叫ぶ。

ばたん、という騒々しい音が響いて、総司がその場に仰向けに倒れた。

物凄い瞬発力ですぐに起き上がろうとする総司を、これまた一切隙を与えない土方が、すかさず上から押さえつけた。


「やっ…………」


両手を顔の横に縫い止め、足はがっちりと絡めてしまえば相手は完全に動きを封じられる。

図らずも押し倒すような形になってしまったことを、土方は心の中で小さく謝った。


「逃げんなよ」

「に、逃げるなって言われても……」


口の中でもごもごと呟いて、総司は恐る恐る土方を見上げた。

いつになく真剣な土方の視線にひたすらたじろぐ。

自然と顔に熱が集まって、総司は思わず泣きそうになった。


「だって………」


総司が存外打たれ弱いことに、土方はとっくに気付いていたが、正直ここまで萎れてしまうとは思っていなかった。

もう少し、何かしら反抗してくるだろうと予想していた土方は、顔を真っ赤にして涙目になっている総司に驚きを隠せない。


「お前………まさか、気付いてなかったわけじゃねぇだろ?お前がそんなに鈍いわけがねぇもんな。俺の気持ちに、気付いてはいたんだろ……?」


探るように土方が聞くと、総司は目を逸らして小さく頷いた。


「じゃあ、逃げることはないじゃねぇか」

「ぅ…………で、でも……」

「なぁ、総司も言ってくれよ、お前の気持ちを」


総司は困ったように土方を見上げた。

微かに震えている睫、薄く開いた唇、仄かに紅く染まった頬……

それら全てが、土方の心を高ぶらせる。


「…………怖いんです、」


やがて総司の口から漏れた言葉に、土方は大きく目を見開いた。


「怖いって…………何が」

「………これ以上…好きになっちゃうのが」


総司は余程恥ずかしいのか、目を伏せて顔を逸らしてしまった。

その拍子に首筋が無防備にさらけ出され、土方はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「………怖くねぇよ」


土方は、囁くように言った。


「怖くねぇから」

「でも!……でも、…ひ、…土方さんは副長、だし、僕たち…男同士だし、……好きなだけで、そんな…許されるのかな、って」


総司は震える声でぽつぽつと言った。


「そんな、……幸、せ……僕みたいな…人斬り、には…」


幸せになることを畏れているような総司に焦れ、土方は五月蠅い口は塞いでしまおうと、その柔らかそうな唇に口付けようとした。


「待っ…て………」


すると総司は、不自由な中でも逃げようと躍起になって、ぐいっと顔を背けてしまう。


「……あのな、総司。俺だって男なんだ。好きな奴にそんなこと言われちまったら、もう待ってなんかやれねぇよ」

「…………でも…」

「でも、じゃねぇ。…頼むから、これ以上焦らさねぇでくれ」


総司は困ったように眉尻を下げた。


「もうお互いに十分待っただろ。何時まで待たせる気だ」


強引な口付けは不本意だったが、土方は痺れを切らして総司に口付けた。

が、もう拒否されないということは、総司も受け入れたと見ていいのだろう。

閉じていた目を開け、ゆっくりと唇を離すと、総司は真っ直ぐに土方を見上げていた。


「総司………」

「もう……」


総司は開口一番にこう言った。


「…お、遅いですよ…………いつまで待たせる気ですか」


顔を真っ赤にして拗ねたような顔をしている総司に、土方は思わず苦笑してその頭を小突いた。


「おまえ………言ってくれるじゃねぇか」


総司は、恥ずかしさを誤魔化すように、自ら土方に抱きついた。


「僕……土方さんを好きでいても、いいんですよ、ね?」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。当たり前だろ」


土方は、幸せになることに対して臆病な総司を安心させるよう、優しく笑いかけてやった。


「そう、か………じゃあ、よろしくお願いします、ね」

「今更だろ」


真っ赤な顔で仄かに笑う総司に、土方は今一度口付けてやったのだった。



2012.03.02




土沖で、「soundless voice」の馴れ初め話でした。

いかがでしたでしょうか?|_・//)チラ

二人ともお互いの気持ちには気付いてるのに、色々なしがらみに縛られてなかなか伝えられないただの焦れったいだけの土沖にしてみました。

伝わっているといいです!

そして気に入ってくださると嬉しいです

ここ直せ!とか突き返し全然おっけいですよー(*^。^*)


それでは、ここまで読んでくださってどうもありがとうございました!




*maetop|―




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