何度も屯所に引き返そうと思った。
十回思って、しかし十回とも足は前にしか進まなかった。
そんな十回が何回も続いて、気付いたらまたこうして薬をもらいに来てしまっていた。
「………約束通り来てあげたけど」
いつもと同じようにその場に屯(たむろ)している連中を、沖田は酷く冷ややかな目で見つめた。
…ところがそれがいけなかったらしい。
連中の一人が面白くなさそうに沖田に近付いてきて、不躾な視線で舐めるように沖田を眺め回した。
「ふん、随分と偉そうな態度じゃねーか」
その男を睨み付けると、今度は後ろに立っていた男にぐい、と襟足を引っ張られた。
「まったく生意気な僕ちゃんだねぇ」
そのまま乱暴に床に叩きつけられ、抗議する余裕すらも奪い取られる。
「っ痛いよ…」
沖田が顔をしかめると、その男はしゃがみ込んで沖田の前髪をぐいっと引っ張った。
「だから痛いってば…!」
「なぁ………誰を殺れば新選組が崩れると思う」
「なっ……」
沖田は怒りに目を見開いた。
「はは、いいねぇその顔」
「そんなに新選組が大事か?自分は裏切ってこんなことしてるってのに?」
沖田は歯を食いしばった。
こいつらは自分が苦しむのを見て楽しんでいるだけなんだ。真に受けちゃいけない。
そう思おうとするのに、どうしても心がきりきりと痛んだ。
………僕は新選組を、近藤さんや土方さんを裏切っている。
その罪悪感だけは、どんなに言い訳をしても決して消えてはくれなかった。
不意に、一人が手に持った薬包紙をひらひらと見せつけてきた。
「お前、薬が欲しくてここに来たんだろ?」
「…そうだけど…でもっ…」
「悪いな、そろそろ俺たちもてめぇの身体だけじゃ満足できなくなってきちまってよ」
「どうだ?これからは新選組の情報もつけるってのは」
「なっ…………!」
沖田は驚愕して固まった。
「別に悪かねぇだろ?」
「大丈夫だって。新選組から追い出されても、総司くんのこたぁ俺たちが引き取ってたっぷり可愛がってやっからよぉ」
「……………」
いいように転がされている自分が情けなかった。
が、新選組を売るほど堕ちてはいない。
自分が犠牲になって死ぬなら本望だ。
「…………嫌だね」
「あん?」
「新選組を売るなんて、そんなの絶対に嫌だって言ってんの!」
沖田は啖呵を切って男たちを睨みつけた。
……が、男たちは怯むどころか、むしろさも面白そうに沖田を眺め回してくる。
「おいおい、こいつまだ分かってないみたいだぜ?」
「薬が欲しくないのかなぁ?総司くんよぉ」
男の一人が沖田の背中を蹴る。
「うぐっ!……がっ……!」
地面にめり込むかのような衝撃に、沖田は目をぎゅっと瞑って辛うじて耐えた。
「俺たちが殺るべきなのは誰だろうねぇ?局長か?それとも副ち……」
「僕だよ」
沖田は大声で言った。
「………何だって?」
「君たちが殺すのは僕だ」
「はぁ?」
男たちは馬鹿にしたように顔を見合わせあった。
「僕、こう見えても局長からも、副長からもかなり信用されてるんだよね」
「だから、何だよ」
「だから、僕、いろんな仕事任されてて。隊士たちをまとめてるのもぜーんぶ僕だし。僕がいなくなったら、きっと新選組は……う゛ぐぁぁっ!!」
「堂々と嘘吐いてんじゃねぇよ!」
思い切り脇腹に蹴りが入った。
窒息するような強い痛みに沖田は激しく身を捩る。
「ぅ…く……はぁ…はぁ……」
「ただの組長の分際で隊士全部まとめるなんて無理に決まってるだろ?!」
「おふざけがすぎてるんじゃねえか?」
「あ゛…ぐ、ぁ…あっ!!」
その場にいた男たち全員が、好き勝手に沖田をなぶり始める。
「ほらほら、薬が欲しけりゃ早く本当のことを言いな」
「だから、僕が、っ…あぁぁっ!!」
顔に拳骨が降ってきて、沖田は辛うじてそれを避けた。
が、頬に鋭い痛みが走り、つーと赤い線が滲む。
「っ…ぅあぁっ!…顔っ、顔はやめて!おねが…っ…お願い、だから…!!」
次々と降り下ろされる拳骨から頭を守るようにして、沖田はうずくまった。
顔に傷を拵えたら、いくらなんでも隠し事がバレる。何かあったと疑われる。
「何か生意気なこと言ってるぜ、こいつ」
「自分の立場が分かってねえんだな」
「顔はやめてほしいだとよ。綺麗なお顔に傷がつくからか?ん?」
「はっ……目ン玉潰してやったっていいんだぜ?」
「ぃっ…あぁぁっ、くそっ!だから僕だって言ってるじゃないか!」
沖田は何をされようと何を言われようとめげなかった。
……が、連中も連中で負けてはいない。
バキッという物凄い音がして、沖田の身体が地面をゴロゴロと転がった。
「……ぁ…う…ぅ…」
一瞬何をされたのか分からずに、ブレる視界で必死に辺りを見回そうとする。
が、更にもう一度蹴り飛ばされて、沖田はうつ伏せにぐしゃりと潰れた。
「あーあ……折角優しい優しい俺たちが機会を与えてやったってのによぉ」
「今日も俺たちと遊んでくか?…この雌犬めがっ」
「ぁっ…ぃ、…痛…っ!」
地面に顔を押し付けられ、じたばたと暴れたらするりと袴を脱がされた。
「あっ、やめろって言ってるでしょ!」
「犬が飼い主に噛みついてんじゃねぇよ!」
「あ、ぁっ!だから嫌だって……!」
下帯までをも抜き取られ、沖田の下半身が丸出しになった。
「嫌だぁ?…どの口が言ってるんだか」
ざわざわと男たちの手が蠢いて、沖田の臀部を弄る。
「や、やだぁ!…いやっ、いや……いやだぁ、」
「今更嫌がってんじゃねぇよ」
男の指が、無遠慮に後孔に突き刺さる。
「ぐっ…あ゙ぁっ!痛っ…いたいっ…」
沖田は悲鳴を上げてのたうち回った。
「暴れるんじゃねぇよ!」
ばしんと乱暴に尻を叩かれる。
「…あぁ、くそっ…!!痛いってば!」
「当たり前だろうが。痛くしてんだからな」
「……ほーら、総司くんお口がお留守になってるぜ?」
「んぅ、んぐっ…んっ!」
別の男の逸物を、無理やり口に押し込まれた。
いつもながらに…いや、いつも以上に酷い。
「ちっ……歯ぁ立ててんじゃねぇよ!」
「んっ…がはっ…っん…」
喉の奥を抉るように腰を打ちつけられ、沖田は息苦しさと嫌悪感に眉を寄せた。
ガツガツと腰を振る男の性急さに、心も身体もついていけなかったのだ。
「総司くんの好きなところはどこだったかなぁ?」
「ん゙ー!ん゙ー!」
口淫を強要されながらも後ろに突き立てられた男の指は止まらず、沖田の中を好き勝手に蹂躙する。
「ここか?それともこっちか?」
「ん゙っ…ぐ…」
「ほら、もっとヨガって見せなきゃ駄目じゃねぇか」
いくら毎日のように犯されているとはいえ、何の滑りもない指をいきなり突き立てられたのだ。
余りの激痛に耐えきれず腰を捩って逃れようとするのだが、別の男に中心をがっちりと握られている所為で上手く動けない。
更にその中心を握った手を激しく上下に動かされれば、沖田の腰は完全に砕け散った。
「ほらほら、前が疎かになってんぞ。もっと舌絡めて吸いやがれ!」
「ぅ゙……む、無理っ、んぐ…!」
「無理じゃねぇんだよ!」
沖田が拒否したことで、男の腰使いが更に荒くなる。
鼻をつく臭気に男の限界が近いことを知り、沖田は思わず吐きそうになった。
「ん゙っ…ん、んっ…」
「ハァァ!…くー、たまんねぇな、おい」
「おいおい、お前だけ気持ち良くなってんじゃねぇよ。早く交代しろ」
「ったく……分かったよ。おら、たっぷりやるから全部飲み込みやがれ!」
「ん、ぅ…おぇっ、げほげほ…!」
喉奥に叩きつけられた熱い飛沫に、総司は涙を溜めて咽せ返った。
「んんっ…ぷはあっ…はぁ……うっ…げほっ!」
「こら、吐き出すんじゃねぇ!」
「ぅ゙…ぇぇ…!」
粘つく苦い精液は、いくら吐き出そうとしても口中に絡みついてくる。
更には、達したばかりの男の、白濁でねっとりと濡れた亀頭を顔中に押し付けられて、沖田の顔は精液塗れになった。
「さ、もう後ろもいいだろう」
「……裂けたところで別に構やしねぇよ」
「や、やだ……」
「あん?誰がてめぇの意見を聞いたんだよ」
「じゃあ、遠慮なくいかせてもらうとすっか」
「やだってば…!やだ!やめ……っ!」
沖田の狭い後孔に、固く勃ち上がった男の熱塊があてられたかと思いきや、次の瞬間には再奥まで一気に貫かれた。
「うぅ、うっ……あ゙ぁぁぁっ!!」
壮絶な痛みに沖田の目から涙が散る。
「おら、もっと腰振りやがれ!」
「あ゙ぁっ!痛い!痛いってば!…も、抜いて…おねがっ…」
「うっせぇ口だな………」
「ぁ゙っ、い゙、っいたっ……」
視界がブレるほど激しく揺さぶられ、結合部からはパンパンと乾いた音が鳴り響く。
必死に身体を支えていた両腕からはとうに力が抜け、沖田は腰だけを突き出した格好で地面に這いつくばっていた。
「あぁぁっ…ひじかたさんっ!……ひじかたさ、っぅ、く……うぁ、っ、…ぅ…助け、て……」
「はは!こいつ助け求めてやんの!」
「土方って副長だったか?は!副長殿はお前さんなんかを助けに来るほど暇じゃねぇよ」
「く、そ………っひじかた、さ……」
「まったく、新選組の組長さんがいい格好だなぁ!」
「お仲間に見せつけてやりてぇよ。淫乱な雌犬が腰振りまくってヨガってます、ってな!がはははは!」
「ぅ、ぁ…っく…くそっ…!」
沖田は眉尻を下げて涙を流した。
自分が惨めで情けなくて、もう死んでしまいたいと思った。
もう二度と誰にも顔を合わせられないと思うほどに、沖田は自分が汚れきってしまったことを深く悟っていた。
「何だよ、泣くほどいいか?あぁ?」
「ち、がう……っ…」
「おー、そうかそうか。自分は淫乱だって、そう言いてぇんだな?よしよし、よく分かった」
「淫乱だから、まだまだ足りません、もっと犯してくださいだとよ!」
「あっはっはっ!」
頭上で繰り広げられる好き勝手な罵倒に、沖田は唇を噛んで耐えるしかない。
「そうか、ならお望み通りにしてやらねぇとな」
「っぼく、は…望んでなん、か…っ」
「嘘はよくねぇよな、総司くんよぉ」
「っ気安く名前……呼ぶ、な」
「あん?聞こえねーな」
「おい、次俺に回せよ」
「わぁってる」
足が痺れて感覚もなくなった頃、ようやく一人目の男が達した。
「ほらよ、中にたんまり出してやるぜ」
「っあ、やだ…っ中、やだぁ……」
「こいつのややっこでも孕んでみるか?」
「あぁ、お前は男だったな。ははっ!」
「やめっ…中は、やめて…!お願いだから、ぁ…」
「うっせぇんだよ!」
「あぁぁぁっ!…やだぁ!や、…だ……ひっく…」
卑下た笑い声が響く中、大量の熱いものが沖田の中に注ぎ込まれる。
沖田は身体をびくびくと跳ね上がらせて、望んでもいないのに自身からも押し出されるように精を吐き出した。
「ははは!こいつ触ってもいねぇのにイきやがったぜ!」
「ほんと淫乱なんだな、一番組組長さんよぉ」
「ぅ…う………っぐすっ…」
それから男たちは、一人ずつ順番に沖田の中を蹂躙していって、ようやく沖田が解放されたのは、すっかり日が落ち夜の帳が辺りを覆い出す頃だった。
「今日のところは薬はお預けだ」
「せいぜい苦しむんだな、……薬が切れたらそれはもう辛ぇなんてもんじゃねぇぜ」
「てめぇが情報を提供する気になったら、またたんまりとくれてやるよ」
そんな言葉を残して、男たちは去っていった。
「…っ…く、くそ…」
沖田は悔しさに唇を噛んだ。
弱みにつけこまれていることに、無性に腹が立った。
かといって、沖田に新選組を売る気はさらさらない。
当分は、薬は我慢しなければならないだろう。
そう思って、沖田は潔く諦めた。
これで当分痛い思いもしなくて済む。
……だが、その時の沖田は、まだ本当の意味での薬の恐怖を知らなかったのだ。
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