「ひっ…ま、待っ……あああ!」
抵抗も虚しく、後ろにいた浪士が総司の袴を剥ぎ取る。
急に外気に触れた下肢が、ぞわりと粟立った。
「おら!足開け!」
ぱしん、と尻たぶを叩かれて、四つん這いの総司の上半身ががくりと崩れ落ちる。
「あぁっ!……ぅっ…っ…!」
自然と尻だけを突き出すような格好になってしまい、総司は余りの羞恥に嫌々と頭を振った。
京の男というのは、皆衆道嗜好があるのだろうか。
悪趣味にも程があると、総司は顔を歪める。
男娼などの文化があることは知っているが、自分がその対象になるなど想像もしていなかった。
「男、相手に……悪趣味、だ、ね…」
「てっめぇ…!生意気言ってんじゃねぇぞ!」
「痛!…ッ…痛い!!」
間髪入れずに顔に拳骨が飛んできて、総司は地面に血反吐を吐き出した。
「うぅっ…くっ……優しく…してよ…」
「あんだと?」
「優しく?笑わせんな」
「おねが……言うこと…聞く、から…っ」
意識を飛ばしそうになりながら、総司は辛うじてそう言った。
どうせ同じ結果なら、少しでも楽に終わりたい。
総司は全ての矜持を捨てて頼み込んだ。
が。
「は……てめぇ、自分の立場が全くわかってねえんだな」
浪士たちは鼻先で総司の頼みをせせら笑った。
「…なん、で……」
「ったく、これ以上怒らせるんじゃねぇぞ」
そう言うや否や、尻たぶを掴んでいた浪士が、それを左右にぐい、と割り開いた。
そしてすぐに、熱くて固くそそり立ったものを押し付けられる。
「なっ…や、やだ、…やめ…ろっ…!」
先に待ち受けている行為に気付き、総司の背筋に戦慄が走った。
必死に腰を捩って逃げようとするも、両脇から他の浪士にがっちりと掴まれてしまい、それすら叶わない。
「ひ…やだ!やだ!ぁ―――っアアァッ!!」
全く慣らされていず、堅く閉じたままのそこに、ぐいぐいと無遠慮な肉棒が突き立てられる。
「痛い痛い痛い!!くっ…ぅ、あぁっ!」
余りの激痛に総司の顔が歪み、生理的な涙がぽろぽろと零れ落ちる。
「おねがっ…もうやだっ!…抜いて!抜いてよっ!!」
「は、馬鹿か。お楽しみはこれからだろ」
言うや否や、浪士は総司の腰を鷲掴んで律動を開始した。
「ああっ…あぁあっ!」
狭いところを無理やり広げられる痛さに、総司は煩悶して首を振る。
がくがくと揺さぶられぶれる視界が、更に涙で霞んだ。
「っあぁぁ…うぅ……」
総司は半ば諦めたようにされるがままになっている。
確かに女とは違って失う物など何もないが、深々と矜持が傷付けられる点では、かなりの屈辱と痛みを与えられる行為だった。
「ふ、ぅっあ、あっ………」
大きすぎる痛みにもう下肢の感覚はほぼないのだが、恐らく切れたのだろう、血が伝い落ちるのは微かに感じた。
不本意にも溢れ出る涙をぽたぽたと垂らしながら、総司ははぁはぁと荒い息を吐く。
「……ほら…口開けろ」
総司が肯定する間もなく、総司の前に膝立ちした浪人が、総司の口に己の昂ぶりを押し込んだ。
「う、っぅえぇ……」
息も出来ないほど喉の奥を連続して突かれて、ついえづきそうになる。
「ふっ…んっ、ぅ……」
酸素を求めて総司がもがいた、ちょうどその時。
「総司っ……!!!」
ドタバタという盛大な足音と共に土方の声が聞こえてきて、総司だけでなく、浪士たちが全員ハッと顔を上げた。
「っ…総司!」
「ちっ……仲間かよ…………」
浪士は総司を乱暴に放り出すと、抜き身を引っ提げて走ってくる土方に向き直った。
「あ……何で………土方さん…?」
総司は道端に転がったまま視線だけを動かした。
「貴様ら何してやがんだっ!!」
そんな総司の惨状を見て、土方が怒りも顕わに怒鳴り声を上げる。
「くそっ……てめぇも死にてぇのか!!」
「やっちまえよ!!」
頭上で繰り広げられる斬り合いを、総司は倒れたまま、どこかぼんやりと感じていた。
身体が痛いのと、何が起きたのか理解したくないのとで、もうどこも動かすことが出来なかったのだ。
総司は刀が鳴る音を遠くから聞きながら、ゆっくりと意識を手放した。
*
ふと意識が浮上した時、総司は自分の身体が揺れているのを感じた。
「…ん………」
うっすらと目を開けると、目の前で見慣れた黒髪が揺れている。
それを認識すると同時にぶり返す身体の痛みに、総司は思わず呻き声を上げた。
袴はきちんと土方が着せてくれたようだが、その下に隠れる裂傷は、どうしようと元通りには戻らない。
「っ…ぅ………土方さん…」
土方は図体の大きな総司を背負ってかなり前屈みになった状態で、少しだけ首を捻って後ろに注意を向けた。
「総司……!気付いたのか?」
「ん…………」
土方が足を止める。
そのまま背中から降ろされそうになるのを、総司は慌てて制止した。
「このまま歩いてください……」
「お、おう……」
「お尻……痛くて……………歩けないです」
「……………」
恥じ入るように、総司が背中に顔を押し付けるのを感じて、土方は遠慮がちに再び歩き始めた。
「お前…酷いことをされたんだろう?……大丈夫…なわけねぇか」
「………何で、土方さんが来てくれたんですか」
総司は土方の質問は無視して聞いた。
「…そりゃ………見かけたからだよ、逃げるお前を」
「僕……?」
「あぁ………最初はお前だとは思わなかったんだが、屯所に帰って皆が総司がいねぇって騒いでたからな。悪い予感がして、探しに来た」
「あの……あの人たちは…………?」
「ん?……あぁ、浪士たちなら、斬った。生かしておく必要もねぇ。下衆の極みだ」
「そう………」
総司はホッとして、あからさまに身体中から力を抜いた。
「後で観察方でもやっておくさ。総司は心配しねぇでいい」
「…………迷惑かけて、ごめんなさい…」
「いや、…………無事で何よりだ」
身体は密着しているが、互いの顔が見えないお陰で、いつもよりも若干素直な会話ができる。
総司も土方も、核心には触れないように、互いの心境を探り合いながら会話を続けた。
「――それよりお前、あんなところで何してたんだよ」
「ちょっと………散歩です」
「一人でか?」
「…………地理、覚えようと思って」
消え入るような総司の声に、土方は一瞬息を詰めた。
それからふっと息を吐き出して、うっすらと笑みを浮かべる。
「……慣れねぇことしてんじゃねぇよ」
「だって………土方さんが言ったんじゃないですか」
「……まぁそうなんだが、今度からは絶対に俺を頼れ」
「だって土方さんいなかったし…」
「いいな?」
「…………はい」
土方の有無を言わさぬ物言いに、総司は仕方なく頷いた。
すると、土方が助けに来てくれたからもう大丈夫だ、という安堵がこみ上げてきて、今更のように身体の震えが止まらなくなった。
総司はそれを隠すように、必死で土方にしがみつく。
土方は敏感にそれを感じ取って、労るように口を開いた。
「……辛かったか?」
「…いいえ」
「痛かっただろう」
「いいえ」
だが、どこまでも強がるのが総司だ。
なかなか素直に受けた痛みを吐き出そうとはしてくれない。
「お前、こんなに震えてんじゃねぇか。正直に言えよ。怖かったんだろ?」
「………………ちょっと」
土方が語気を強めたところで、総司はようやくそれだけ言った。
「お前、もう俺の傍から離れんなよ。俺の目の届く範囲に居やがれ」
「あは……それって口説いてるんですか。土方さんも、男色なんですか」
身体は震えているというのに、総司はまるで裏腹に明るい声で言った。
"土方さんも"という総司の乾いた声が、土方の胸に深く突き刺さる。
やはり、相当堪えているのだろう。
初めての街で、初めての陵辱を受けて。
赤黒く腫れた顔が痛々しい。
「……悪い」
何と言ってやるのが適切なのか分からず、土方はぽつりと呟いた。
すると総司は徐に、土方の背中に頬を擦り寄せた。
「総司………?」
「…あったかいです、土方さん」
そのまま浅く呼吸を繰り返している総司に、土方は掛ける言葉を見つけてやることすら出来なかった。
総司が受けた傷は、心身共に一朝一夕ですぐに癒えるものではないだろう。
が、少しでも力になってやりたい。
総司が温かいと言うなら、その身体が心まで温まるまで、幾らでも傍にいてやろう。
総司を守りきれなかったことを悔いると共に、土方はそんなことを思っていた。
「………一人で抱え込むなよ」
「大丈夫です、僕には土方さんがいますから……」
弱々しい声で呟く総司に、土方の口角が微かに上がる。
切なく、苦しいのにほんのりと嬉しさが込み上げる。
「あぁ、俺でよけりゃいつでももたれ掛かってこい。受け止めてやるから……」
総司からの返事はなかったが、それでも土方は満足だった。
辺りはもうすっかり暗くなり、行く先を月明かりが仄かに照らすばかりとなっている。
人気のない京の街に二人だけ――思わずそんな倒錯に溺れそうになりながら、屯所までの少々長い道のりを、土方は総司を負ぶってゆっくりと帰ったのだった。
2012.03.13
敵に捕まった総司を、土方が助けに来る話というリクエストをいただきました。
土沖というよりは、土+沖を意識してみました。若干。
というか、捕まるだけでなく総司を勝手に痛めつけてごめんなさい。
しかも土方さんが助けに来るのも間に合ってなくてごめんなさい。
色々リクからズレてしまってますが、良かったら受け取ってくださいね〜!
リテイクなど受け付けます!
この度はキリリクどうもありがとうございましたm(__)m
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