捧げ物 | ナノ


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誰かがおでこに触れている気がして、僕はふっと目を開けた。


「ん…………」

「あ、悪い。起こしちまったか」


何だか、心地よい声が聞こえる。

僕は目をぐりぐりと擦ると、僕の顔を覗き込んでいる人をやっと認識した。


「ん?………え?あれ、土方、先生?」


次第に覚醒していく意識の中で、僕は一生懸命この状況を理解しようと努める。


「……何で、土方先生がいるんですか?…山南先生は?」


眠たくて呂律の回らない声で聞くと、土方先生は苦笑しながら「もう放課後だぞ」と言った。


「え……あれ、いつの間に…」


僕は想像以上に時間が経過していたことに驚いて、壁の時計を見上げた。

なるほど、もう四時を回っている。


「…それで、山南先生は?」

「あぁ、自分じゃ沖田が言うことを聞かないから、沖田の扱いに慣れてる先生が行ってくれ、って言われてな」


その言い方に、僕は少しムッとした。

扱いとか、動物じゃないんだから、と思う。

……それに。


「……急に何なんですか。さっきは小言しか言わなかったくせに」


僕は再び毛布を被ると、土方先生に背を向けるように寝返りを打った。


「何だよ、拗ねてんのか?」

「拗ねてません。何で僕が拗ねなきゃいけないんですか」

「病気なのにほったらかしにされたからって、拗ねてるんだろ」


にやにやしながら図星をついてくる、確信犯みたいな土方先生に苛立って、僕はがばりと起き上がると荒い声で怒鳴り散らした。


「違います!僕がそんな子供っぽいことをするわけがないじゃないですか!いい加減にし…げほっごほっ!」


ああ、いいところだったのに。

少し声を荒げただけで咽せ返ってしまう僕の背中を、土方先生が優しく撫でてくれた。


「大丈夫か?まだ熱も高いみてぇだが」

「……ほっといてくださいよ。土方先生の言うとおり、体調管理を怠った僕が悪いんですから」


僕はぷい、と顔を背ける。


「…本当に放っちまっていいのか?そういうことを言うんなら、このままお前をほっぽりだして俺は帰るぞ」


そんな僕に、土方先生は意地悪くもそういうことを言ってきた。

普段の僕なら十も二十も言い返してやりこめることができるけど、今は何だか頭も働かないし、言われたことがぐさぐさと胸に刺さって、ただただ悲しくなるばかりだった。


「…………いいですよ?帰りたいなら、さっさと帰ればいいじゃないですか」


僕は至って淡白にそう言ってやった。

すると、土方先生は困ったように天を仰いでから、僕を簡単に抱き寄せてしまう。


「ちょ…っと!何するんですか、離してください」

「あー、意地悪言って悪かった。謝るから、…頼むからそんな泣きそうな顔はしねぇでくれよ」


いやいやともがく僕を、土方先生は益々キツく抱き締めてくる。

僕は仕方なく抵抗するのを諦めて、大人しく土方先生の胸に収まった。


「……ズルいです、よ…今更。今まで僕のこと、心配すらしてくれなかったくせに」


土方先生の胸の中でぼそっと言うと、土方先生は壊れ物に触れるかのように、優しい手つきで僕の髪の毛を梳いてくれた。


「心配なら、これでもかっていうくらいしてた」

「…でも、嫌な顔ばっかりしてたじゃないですか」

「だから、いつも心配して世話を焼こうとすると、お前が過保護だ何だ言って嫌がるから……今回は我慢してやろうと思ったんだよ」


僕が驚いて顔を上げると、土方先生はばつが悪そうに眉間に皺を寄せながら、僕のことを見下ろしていた。


「………そんな我慢、………ほんと………馬鹿じゃないですか?」

「あぁ?何て言ったんだ?」

「別に?ただ、柄にもないことされると、調子狂うんで止めてくださいって言ったんです」

「そうかよ…………」


土方先生は、何故か嬉しそうに口元を緩めている。


「……そんな締まりのない顔やめていただけませんか、気持ち悪い」


僕は気まずくなって、土方先生の胸を押し返すと、くたりとベッドの上に横になった。

そんな僕を見て、土方先生が慌てておでこを触ってくる。


「お前………また熱が上がったんじゃねぇのか?大丈夫か?」


土方先生の手がひんやりしていて気持ちいい、だなんて絶対に言わないけど、僕は黙ってその手に甘んじていた。


「あー、こりゃあ結構あるな………総司、ちょっと待ってろよ、今帰る支度してくるから」

「……何で僕が待つんですか」

「一人じゃ帰れねえだろ?車で送ってやるって言ってんだ」

「…………………送るだけ?」

「沢山甘えさせてやる。そうだな、なら、俺の家に来るか?明日も休むなら泊まりでもいいぞ」

「………うん………土方先生んちには、お気に入りのクッションがあるからね…」

「おまえ……」


絶対に嬉しいなんて言ってやらない。

素直に土方先生の家に行きたいなんて、絶対に言わない。

それでも少し照れ臭くなっちゃって、僕はまた布団をぐいっと引っ張り上げた。


「じゃあ、ちょっと待ってろよ…………ああそうだ、忘れるところだった」

「…………?」


土方先生は、何かを思い出したように処置台の方に歩いて行って、それからまたすぐに戻ってきた。


「これ、山南さんに貼るように言われてたんだった」


そう言って土方先生がかざして見せたのは、件の冷却シート。


「嫌がらずに貼られてくれよ?」


僕はムスッとして、シールを剥がす土方先生を見つめた。

いよいよ貼られそうになった時、僕はたまらなくなって、小さな声で呟いた。


「ま、待って……」

「何だよ」

「あの………それ、貼ってもいいから、あの……」

「あ?何かあんのか?」


訝しそうな顔をして僕を見る土方先生に、僕は首まで真っ赤になりながら、こう言った。


「だから……その…………貼る前に、…キス…してください」


余りの恥ずかしさに、ギュッと目を瞑る。

どうやら固まってしまったような土方先生に、僕は自分の発言を激しく後悔した。


……やっぱり、あんなこと言わなきゃよかった。


そう思って、薄目を開けようとした瞬間。


軽く押し当てるように土方先生の唇がおでこに触れて、そこから身体中に熱が広がっていくような感覚に陥った。


「ずいぶんと可愛い我が儘じゃねぇか」

「……〜〜っ…!!」


恐る恐る目を開けると、優しい顔をして微笑む土方先生と目が合って、僕は今度こそ羞恥に耐えきれなくなって、頭まですっぽりと毛布を被った。


「ばーか。出てこねぇとシート貼れねぇだろうが」

「〜〜〜〜……っ…」

「仕方ねぇな………大人しく待ってろよ」


布団を被ったまま出て来ない僕の頭を布団の上からポンポンと叩くと、土方先生は足早に保健室から出て行った。


…ほんと、ズルいと思う。

僕の心を、いとも簡単にさらっていってしまうんだから。


やっぱり僕は、過保護で心配性でやたら世話を焼きたがる土方先生のことが大好きだと、改めて実感したのだった。



2012.03.07




土沖で、SSLで、具合の悪い総司を看病する土方さん、というとても萌えるリクエストをいただいたのですが、土方さん全然看病してない気がするのはわたしだけですか。

山南さんでしゃばってる気がするのはわたしだけですか。

…萌えシチュを台無しにする女がここにいます。

残念な結果になった上砂吐き甘で終わってますが、よかったらもらってくださいね!

この度は相互リンクとリクエスト、どうもありがとうございました。




*maetop|―




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