二人で手分けして、ご飯とお味噌汁と野菜炒めの簡単な朝食を作った。
二人で向かい合って食べる、久しぶりのゆったりした朝食。
僕の所為で土方さんまで休むことになっちゃって大丈夫なのかと心配になったけど、今日は土方さんの学校は試験休みで、部活動の生徒くらいしか登校しないから、土方さんがいなくても問題はないらしい。
「僕、学校サボってごめんなさい…」
「ん」
「キライになった?」
土方さんはならねぇよ、とでも言うように微笑を浮かべた。
「ねぇ、土方さん」
「んー?」
「まだ、お嫁さんもらわないでね」
「どうしたんだよ急に」
「僕がご飯作るし、栄養も考えるし、掃除も洗濯も何でもするから、お嫁さんなんてもらわないでね」
土方さんの一番を取られたくない一心で言えば、土方さんは驚いたように目を瞬かせてから、喉の奥を震わせて笑った。
「総司が、息子兼嫁になってくれんのか?」
「よ、よ、嫁っていうか…………ダメ?」
自分で言い出したことだけど、何を言っているのか自覚したらとんでもない羞恥が襲ってきた。
僕、何言ってるんだろう。
そりゃあダメに決まってるって。
「そうだなぁ……土方さんって呼ぶのをやめねぇ限りはダメだな」
ほら、やっぱり。
ん?でも、アレ?
「じ、じゃあ、父さんって呼んだらいいってこと?」
「まぁ、それもそうだが」
土方さんは何故かニヤリと笑った。
「"う"を"し"に変えてみろ」
「し?えーと…と、し、さん……っ!?としさんっ!?」
「おう、何だ?」
ニヤニヤ笑ってこっちを見てくる土方さんの顔、まるで悪代官みたいだ。
真っ赤に茹で上がった僕を見て、完全に楽しんでいる。
「はは、これしきのことで狼狽えてるようじゃ、俺の嫁は務まらねえな」
「うぅ……と"し"さんの意地悪!」
「おー、言うじゃねぇか」
「いいもん、僕みっちり修業してきますから」
土方さんは再びニヤリと笑った。
危険を感じるほどにキレイな笑い顔。
「心配しなくても大丈夫だ。お前がその気なら、俺がみっちり花嫁修業してやるよ」
そう言って身を乗り出し、テーブル越しに頭を撫でてくる土方さんを、僕は呆気にとられて見上げた。
嫁ぎ先と修業の先生が同じって、それ、土方さんが好き勝手できるってことだよね…?
土方さんって意外とお馬鹿さんなのかな?
でもまぁ……当分はお嫁さんは貰わないでいてくれるみたいだから結果オーライってことにしよ。
「でも僕、まずは息子修業から始めますね」
「じゃあ俺も、父親修業を頑張らねぇとな」
そう言って苦笑する土方さんを見て僕は思った。
としさん、もう僕の中では立派なお父さんだよ。
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