宝物 | ナノ


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年度末は色々忙しいって事は判ってるつもりだった。

でも、テスト前から逢えなくなって、ずるずるともう1ヶ月以上ゆっくりと逢えていない。

家に行っても追い返されるし、学校で逢っても忙しいからと相手にしてもらえていない。

確かに土方は忙しそうだ。

それでも、少しでも会話がしたくて逢いに行っては無下に追い返されるそんな日々が続いて、いい加減に総司も限界なのだ。

「・・・・ひじかたさんのばか・・・」

学校から帰って早々にベットに倒れこむように身体を投げ出した総司は、枕に顔を埋めパタパタと足を動かす。

こんな所、土方や姉に見つかったら何を言われるか判った物じゃないが、今は誰もいない。

「・・・さみしいよぉ〜・・・」

じんわりと、目元が濡れてくるのは気のせいだ。

自分にそう言い聞かせても、だんだん枕が濡れていく。

「・・・やっぱりもぅ、だめ・・・なのかな・・・」

ごろりと寝返りを打ち、目元を腕で覆い目を閉じる。

頭に浮かぶのは、帰宅前に目にした光景。

自分とは録に話もしてくれないのに、斎藤君とは談笑していた。

斎藤君は風紀委員だ。

顧問をしている土方さんと話をするのは当然の事だとは思う。

でも、今日だけではないのだ。

総司がずっと淋しい思いをして、喋りかけても『忙しい』と切り捨てられてる間に度々見られた光景。

あまりにも無碍にされるから拗ねてみてもバッサリと切り捨てられた自分とは裏腹に優しい笑顔を向けられる斎藤。

しかも、今日はそれだけでなく、土方がいつも総司にするように斎藤の頭を優しく撫でていたのだ。

「・・・・・反抗ばっかしてる僕より、何でも言う事を聞く斎藤君の方が・・・、いいのかなぁ・・・」

口に出してみたら、より一層胸が痛んだ。

自分で言って傷付いてるなんて馬鹿らしいと頭の片隅では思う物の、じくじく痛む胸と壊れたような涙腺から零れる涙は止まらない。

どれくらいそうやっていたのだろう、いつの間にか眠ってしまっていた様で、気が付いたら辺りは真っ暗になっていた。

「・・・ん・・・っ、こほ、けほ・・・あれ・・・?ぼく・・・ねてた・・・?」

この季節に碌な暖房もつけず布団も掛けず制服のまま転寝してしまった所為か、泣いた所為か微かに頭痛がする。

「・・・・ねえさん、きょう・・・かえって、こないんだったっけ・・・」

帰ってきた時に放り出したスマフォで確認した時間は21時を示していた。

姉が帰ってきていたのなら、とっくに起されて食事もしていただろうが、生憎今日から出張で帰ってくるのは来週だ。

普段なら姉さんの出張中は土方さんの家に転がり込むのだが、こんな状況では行きたくなく、相変わらず慌しく出て行った姉さんが土方さんに出張の事を告げていないのを良いことに一人家にいる事にしたのだが。

「ごほ、げほっ、こほこほ・・・・・ふぅ・・・」

零れる咳に小さく溜息を零し、シャワーを浴びて布団へ潜り込んだ。



それから眠れない夜を過ごした総司は、翌朝ベットの中でどうしたものかと寝返りを打つ。

多少の咳は出るが、発作は大丈夫そうだ。

相変わらず頭痛はあるものの、微かな物でこれ位ならどうってことはない。

寝不足もあって少し身体がだるい気もするが、この程度ならいつもの事だ問題はない。

念の為にと測った体温も、普段よりは高い物の、微熱と言うほどでもない。

「・・・・まぁ・・・・だいじょーぶ・・・かな」

問題はそれよりもちくちく痛む心の方だ。

「・・・・はぁ・・・」

今日休んでも、どうせずっと休み続ける訳にはいかないのだ。

それに下手に休むと過保護な土方さんが家まで押し掛けてきそうだ・・・・。

いや、本当は押し掛けてきて欲しいと思っているのに、来てくれないかもしれないのが怖い。

そんな不安なまま家にいるよりは、学校に行って出来る限り土方さんを視界に入れないようにする方が精神的にはいいだろう。

そこまで考え、総司は何時もよりも随分と重たく感じる身体を起し、制服に着替えていちごミルクのパックを一つ冷蔵庫から出し、飲みながら学校へ向かった。



「総司、遅刻だ」

ベットの中で色々考えていたら何時もよりも遅くなってしまった――最も、校門に斎藤が立っているだろう予想は付いていたので会わないようにとゆっくりと来たのだが―予想よりも早く着いてしまったのか、斎藤が何時もよりも遅くまで立っているのか、朝から会うなんて本当についていない。

「・・・斎藤君・・・おはよ・・・」

「?総司、どうした?具合でも悪いのか?」

「・・・・・大丈夫だよ・・・」

言葉を交わすのも正直苦痛で視線を合わせないようにして、斎藤の前を早足で通り過ぎる。

「総司・・・・・」

背後で何か言っている斎藤を無視し校内へ足を踏み入れた。

教室に行くと、同じクラスの斎藤と又顔を合わせることになるだろうが、朝の出欠に出ていないと後が面倒くさい。

それに、サボるとしても、場所に困る。

屋上や中庭は今の季節は寒く、本調子でないから尚更行かない方が良いだろう。

何時も行っている古典準備室は問題外。

保健室に行くと、山南先生から土方さんに余計な事まで伝わってしまうかもしれない。

空き教室を探すのも面倒だし、空き教室には暖房は入っていないことを考えると避けた方が良いだろう。

一つ溜息を落とし、総司は教室に向かった。

寝たふりでもしてたら話し掛けられないかな。



「総司、昼飯どうすんだ?」

寝たふりをしていたつもりが、いつの間にか寝てしまっていたようで、頭に乗せられた手に目を覚ますと、平助君が覗き込んでいた。

「・・・へーすけ、くん・・・」

「ん?総司、何かあった?」

鈍い方ではあるが、小学生の頃からと長い付き合いの平助には、総司が何時もと違うように見えるのだろう。

「・・・なにも、ないよ・・・」

「ならいいけど、総司具合悪い?咳してるけど・・・」

総司の身体の弱さを良く知っている平助は心配そうだ。

「ん〜、だいじょうぶ。・・・・」

「ならいいけど・・・あ、オレ学食行くけど総司どうする?」

ふと視線を動かした所で斉藤君と目が合い、慌てて平助くんに視線を戻す。

「ぼくも、いこうかな・・・」

食欲なんて全くないけれど、教室に居てると斎藤くんに話しかけられるかもしれない。

まだ何時ものように話せるようにも思えないので、避けるのが一番良いような気がするのだ。

「じゃぁ、一緒に行くか〜」

何食おうかな〜と笑う平助は何時もと同じでほっとする。



そんな平助と一緒に昼食――と言っても総司はいちごミルクのパックジュースと平助にせめてこれ位と、半ば無理矢理食べさせられたプリンを食べただけだが―を食べて教室へ向かう。

食べない総司に平助が保健室に行ったほうが良いんじゃないかとか言っているが、無視だ。

そんな平助と二人教室のある3階へと辿り着き教室を見やると、そこには逢いたくて、逢いたくて、でも見たくなかった人が相変わらず珍しい優しい笑顔で話をしていた。

「・・・あ・・・」

「総司?・・・あれ?土方先生とはじめくん?」

小さく零れた総司の声に平助が総司の視線の先を辿ると休み時間にこんな所にいるなんて珍しい土方とそんな土方と話をする斎藤。

「・・・ッ・・・」

くるり、と踵を返し階段を駆け下りる総司を平助が慌てて追いかける。

「総司、走っちゃ駄目だって!」

平助の言葉を無視し、2階まで駆け下りたものの、苦しくなる呼吸に足を止める。

「ッ、こほ、げほげほッ・・・・はぁ」

少し走っただけで止まらなくなる咳に自分の弱さが本当に嫌になる。

くらり、と眩暈を起し、踏み出した足が踏んだ足場は酷く不安定で、まずいと思った次の瞬間に長い浮遊感と衝撃を感じた。

「総司!!!!!」

平助の焦ったような声を聞き、頭の片隅であぁ、階段から落ちたのかと思ったのを最後に意識はブラックアウトしていた。





「総司!!!!!」

「沖田!大丈夫か?」

「おい、動かさない方が良いって!!先生呼んで来い!」

平助の酷く焦ったような声、生徒の慌てたような声に又倒れでもしたかと斎藤との話を切り上げ、声のする方へ急ぐと、そこには思ってもいなかったような光景が広がっていた。

「総司!!!」

ぐったりと階段の下に倒れている総司の頭から流れる鮮血。

「平助、何があった?」

総司の傍らで困りきっている平助に声を掛け、総司の様子を見る。

「土方、先生・・・・・」

意識のない総司の怪我の具合は判らないが、取り合えず出血を止めるべく、ハンカチで患部を押さえ、脈を確かめる。

呼吸が細いのが気になるが、意識のない総司に薬を飲ませるのは無理だし、動かさない方がいいだろう。

「平助、総司は階段から落ちたのか?」

「・・・・先生と、はじめくんが喋ってるの見て総司階段駆け下りてって、でも2階まで降りて咳き込んじゃってて、多分バランス崩して・・・」

「・・・・そうか・・・」

平助の少し様子の可笑しいのは恐らく総司が階段を駆け下りていく事になった理由―斎藤と自分が話をしていた事―なのだろう。

「土方先生、沖田君は・・・」

そんな思考は駆けつけてきた山南に掻き消された。

「あぁ、発作かどうかまではわからねぇが、咳き込んでバランス崩して2階から落ちたらしい」

「そうですか・・・発作起してますね・・・熱もありますね・・・救急車呼びます」

総司の状態を見て微かに苦い表情を浮かべ、生徒に聞き、念のためにと持って来ていたのだろう、吸入器を総司の口に当て、救急車を呼ぶべく携帯へ手を伸ばした。




救急車で病院に運ばれた総司は、階段から落ちた外傷もあるが、発作と発熱もあり暫く入院する事になった。

外傷は無防備に落ちた割には軽く、右足の捻挫が酷く捻ってしまってる様で重傷だが、後目立った物と言えば派手に出血していたわりに縫合の必要もなかった額部の裂傷位で他は打ち身と擦り傷で、頭を打ってはいるものの検査の結果、脳出血等はなく大丈夫だろうとのことだ。

夜になってもまだ意識の戻らない総司の枕元に座り、点滴の為に布団から出されている左手を握る。

怪我からのものもあるのだろう、高熱を出している総司の手は酷く熱い。

「・・・総司、ごめんな・・・」

最近忙しいのを理由にずっとほったらかしだった。

もちろん、総司が淋しそうだった事にも気が付いていた。

でも、総司に構ってしまったら仕事が進まなくなってしまうのは目に見えており、つい邪険に扱っていた。

そんな中で斎藤と話をしている所を見て傷付いたのだろうことは予想できる。

それでも、総司の事だ、必要な事なら言うだろうし、いくら邪険にしても寄って来ると思っていた。

総司を病院へ連れて来て、みつさんに連絡を入れようとして愕然とした。

携帯が繋がらず、会社へ電話してみると、海外出張で10日ほど留守にするらしいことを告げられた。

いままで、みつさんが長期出張に行くと必ず総司は土方の家に転がり込んできていたのだ。

それが今回、何も言わなかったと言う事は、総司を邪険に扱ってしまった結果だと言う事か。

それだけではない、今日まで気が付かなかったが、ここ一週間ほど総司が古典準備室に来る事すらなくなっていた。

なんでもない風に振舞う物の、本来淋しがりで甘えたな総司は本当にずっと我慢していたのだろう。

怪我の原因になった体調不良だって、その所為かもしれない。




結局総司の意識が戻ったのは翌日の昼過ぎだった。

近藤さんに無理を言い暫く―少なくとも総司がある程度落ち着くまでは―付き添いの為に休ませて貰っている。

「総司、気が付いたか!具合はどうだ?痛い所はないか?」

「・・・・ぼく・・・・・」

ぼんやりと周りを見回す総司は状況をうまく飲み込めていないのだろう。

「階段から落ちたのは覚えてるか?」

「・・・かいだん・・・・・?ッ!!!」

身体を動かそうとし、傷が痛んだのだろう顔を歪める総司の身体を元通り寝かせてやる。

「まだ動くな、酷い怪我は右足だけだが、全身打ち身だらけで動かすと痛いだろう。熱も殆ど下がってねぇ」

「・・・・・なんで・・・・?」

「ん?どうした、総司?」

できるだけ優しく総司に声を掛ける。

「なんで・・・ひじかたさんが・・・いるんですか・・・?」

「総司・・・・?」

「ねえさんが・・・いないから・・・?・・・それなら・・・ぼく、ひとりでも・・・だいじょーぶ、なので・・・もう、かえ・・・て・・く・・・さ」

「どうした、総司?」

様子が可笑しい総司に手を伸ばすと、パシンと軽い衝撃。

「ッ、さわらな・・・げほ、ごほごほ」

衝撃は総司に振り払われたもので、動いて傷に触ったのだろう、痛みに表情を歪め、声を上げようとして咳き込んだ。

「総司!大丈夫か!?」

咳き込み、苦しそうにしながらも土方の手を避けようとする総司に為す術もなく立ち尽くし、聞こえてきた喘鳴に慌ててナースコールを押す。

「総司君!!!」

やって来た看護師が慌てて医師を呼び、吸入器と点滴の処置を行った後、暫くは発作も起しやすいだろうから気をつけるように釘を刺された。


暫く苦しそうに呼吸をしていた総司が、再び寝息を立て始めたのを少し離れた位置で見守り、総司の態度を思い返す。

何時もなら倒れた後目が覚めた時土方がいる事を喜び、帰れと言ったり手を振り払ったりする訳がない。

放って置いた事を怒っているのか・・・?

取り合えず一度話をしなくてはいけないと思う物の、今の総司と話しをしようとしても、興奮してしまい、又発作を起してしまうかもしれない。

暫くは出来る限り総司の側に居て、思うようにさせよう。

そう決心し、眠る総司の手触りの良い柔らかな髪を撫でて近藤さんに連絡を入れるべく側を離れた。


それから目を覚まして土方の顔を見る度に何でいるんだ、自分の事は放っておいてくれと言う総司に土方は何も言わず、それでも黙って側に居た。

「・・・・土方さん」

やっと熱も下がり、発作も落ち着いた総司が何を言われても側に居る土方に珍しく声を掛けてきた。

「どうした、総司」

熱は下がった物の、未だ頭の包帯も取れず、一人で立つ事も儘ならない総司はベットでぼんやりとテレビを眺める日々を過ごしている。

「・・・どうして一緒に居てくれるんですか・・・・?ねえさんがいないから?保護者代わりですか?」

「何言ってやがる、お前が苦しい時に離れられる訳ねぇだろ」

「・・・何で・・・?もう、僕の事なんて放っておいたらいいじゃないですか」

「放っておける訳ねぇだろ!」

確かにここの所忙しくて構ってやれてなかったし、無碍にもしていた。

それでも総司の事は何よりも大切だし、こんなに愛おしい人は他に居ない。

「・・・反抗して、我儘ばっかり言ってる僕より、何でも言う事を聞く斎藤君の方がいいんでしょ!!!」

「・・・・は?」

いきなり自分よりも斎藤の方が良いんだろうと言い出した総司の顔をまじまじと見てしまう。

「僕の事は相手にもしてくれないのに斎藤くんとは楽しそうに喋ってたじゃない!」

「斎藤とは風紀の話ししかして・・・あぁ、お前の話しもしていたかもしれねぇがそれだけだ」

「・・・この間、斎藤君の頭撫でてた・・・・」

「はぁ?」

いつだ、それ・・・・・。

「僕が、階段から落ちた前の日・・・僕見たんだから!」

総司が階段から落ちた前の日・・・斎藤と話をしていたのは放課後か・・・・。

「あぁ、あれは斎藤の髪に埃が付いてたから取ってやってただけだ」

「・・・・本当に・・・・?」

目元を赤くし、上目使いでおずおずと見てくる総司は酷く可愛い。

「あぁ、俺が一緒に居たいと思っていて、愛しているのはお前だけだ」

「・・・・・でも・・・」

「構ってやらなくてすまなかった。俺だってお前と一緒に居たかった。だが、仕事もしなけりゃいけねぇし、お前がいると仕事を放り出してしまいそうで遠ざけていた」

「土方・・・さん・・・・」

「淋しい思いさせちまって、本当に悪かった」

まだあちこち痛いだろう総司の身体を気遣いつつ抱きしめてやると、おずおずと背中に回される腕。

「階段から落ちちまったのも、発作起したのも俺の所為だな・・・本当に悪かった」

傷に響かない様に力を加減しつつ抱きしめてやると、胸に顔を埋めた総司がゆるゆると首を横に振る。

「・・・僕も、疑ったりして・・・ごめんなさい・・・」

じんわりと濡れてくる胸に又泣かせてしまった不甲斐なさに情けなくなる。

いつだって大切にしてやりたいと思ってる年下の可愛い恋人なのだ。

「総司、誤解させて悪かった」

背中を撫でてやると、ふるふると横に降られる首。

暫くそうやって土方の胸で泣いていた総司が寝てしまうまで抱きしめ、寝てしまった総司をベットへ戻してやる。

「ごめんな、総司愛してる」

眠っている総司の唇に自分のそれを重ね、こんな事二度とないように心に誓う土方だった。





土方さんの浮気を疑う総司、なんてリクエストさせていただきました。
そうしたら期待のはるか上を行く作品が届きました…!!

悶々しているうちに体調にまで影響しちゃう総司可愛すぎますね!病室で頑なにお世話する土方さんにも惚れましたが!

奏さんのアクアリウムシリーズは、わたしがリクエストさせていただいたものなので本当に大大大好きなんです!!!!

階段から落としてくださいだの体調悪くしてくださいだの、相当あくどいリクエストを付け加えてしまいましたが、こんなに萌え要素が詰まりまくったお話をいただいてしまって嬉しすぎます……!

素敵な素敵なお話をありがとうございました!

20130428




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