宝物 | ナノ


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週末には必ず泊まりに来る年下の可愛い恋人は、夏休みに入った途端、うちに入り浸るようになり、今日も今日とて我が物顔でリビングのソファーでクッションを抱いてゴロゴロしている。

期末テストが終わった先週は、急に暑くなったことも有ってか、体調を崩して寝込んでいたが、夏休みに入って少しゆっくりできるようになり、少しは元気になったようだった。

「なぁ、総司お前うちに入り浸ってるけど、帰らなくてもいいのか?」

学生の総司とは違い、夏休みでも学校に行かなくてはいけない土方はずっと一緒に居てやれる訳ではないのだ。

「ん〜、家にいてもどうせ一人だし・・・土方さんは迷惑?」

「いや、俺は構わないが・・・、お前姉貴はどうした?」

総司は年の離れた姉と二人で暮らしている。

流石に夏休み中ずっとうちに居るのは姉が心配するだろうと聞いてみると意外な返事が返ってきた。

「あれ?聞いてませんか?姉さんは、一昨日から海外出張で家に居ませんよ」

「は?」

「だから、姉さんが居ない間は土方さんか近藤さんにお世話になりなさいって。姉さん言っておくって言ったたのになぁ〜」

「・・・・みつさんらしいな」

思わず苦笑が零れる。

恐らく本当に伝えておくつもりだったのを、バタバタと出て行って忘れてしまってたのだろう。

「ホント姉さんってどっか抜けてるよね〜。・・・って訳で、夏休み中宜しくお願いします」

「はぁ、偉く長い出張だな。まぁ、お前が退屈しないなら、かまわねえよ」

「・・・ホントはね、嬉しかったんですよ。夏休み中、土方さんと一緒にいられるの」

照れたようにボソッと言う総司は本当に可愛い。

恐らく本人は聞こえてないと思っているのだろうが、生憎しっかりと聞いてしまた。

「まぁ、書斎にさえ入らなけりゃ好きにしろ」

書斎には生徒にあまり見せない方がいいような書類もあるし、何より総司が来るようになってから、煙草を吸うのは書斎かベランダか換気扇の下でだけと決めているのだ。

流石に居ない時に入っても大丈夫だとは思うが、煙草を吸っている時に入ってくると、喘息を持っている総司の気管支には毒にしかならない。

「わかってますよ〜」

一度煙草を吸っている時にノックと同時に入ってきた総司に驚いて思いっきり煙草の煙を吹き掛けてしまった事があった。

いつもの薬で抑えられる程度の発作で済んだのだが、あの時は本当に肝が冷えた。

それ以来、ノックと同時にドアを開くことがなくなったのは、総司も懲りたからだろう。


「それより総司、体調はどうだ?」

「え?別に悪くないですよ。・・・暑いから絶好調でもないですけど」

「確かに顔色は悪くねえな・・・あーんしてみろ」

大人しく口を開く総司の口の中を覗き込む。

特に喉も腫れてる感じもないし、額に手をやっても熱もなさそうだ。

「いきなりなんですか?そりゃ、暑くって食欲は無いですけど、それ以外に不調はないですよ?」

「素麺もちゃんと食ったしな」

サッパリとしてつるっと入る素麺だから食べられたのだとは思うが、二人分とゆでた3分の1程は食べていた。

「・・・・てんぷら食べなかったこと、今更説教ですか?」

「いや、天麩羅は食わねぇだろうとは思ってたからそれはかまわねぇ。総司、お前水族館行きたがってたよな?」

「!!!連れて行ってくれるんですか?」

嬉しそうに言う総司に、顔が緩む。

「あぁ、期末テスト頑張ったしな、ご褒美だ明日連れて行ってやる。」

「ありがとうございます!楽しみだな〜」

余程嬉しいのか、にこにこ笑う総司は本当に可愛くて、おもいきり甘やかしたくなる。

身体の弱い総司とは出かける約束はあまりしない。

一緒に居ると言っても、今のように部屋でゆっくりしているか、寝込んでいる総司の看病をしているかが大半だ。

前もって出かける約束をすると、当日の朝になって体調を崩して中止になることも少なくなく、出掛けても帰ってくるなり体調を崩して寝込んでしまったことも一度や二度ではない。

それでも、昔に比べれば随分丈夫になったものなのだが・・・。

「だったら、もう寝ろ。少しでも体調悪くなってたら延期だからな」

「むぅ・・・。少しくらい大丈夫なのに」

「お前の大丈夫はあてにならねぇ。行きたいのならしっかり寝て、明日の朝飯もしっかり食え」

「・・・・仕方ないですね・・・。じゃぁもう寝ます。お休みなさい」

しぶしぶ、とでもいう風に寝室へと入っていく総司を見送った土方は明日、明後日と仕事をしなくても良い様にと持ち帰った仕事に向かった。


それから二時間ほどが過ぎた頃だろうか、書斎のドアが控えめにノックされた。

「総司・・・?まだ起きてんのか?」

「・・・ひじかたさん・・・」

ドアを開けると、不安げな顔の総司が佇んでいた。

「どうした?」

さっきまでは元気そうだったけど、急に具合でも悪くなったか?と、様子を見るが、どうもそうではないようだ。

「まだおしごと、じかんかりそう?」

眠いのか、酷く幼い喋り方になっている総司に愛おしさが込み上げる。

「ん?どうした?」

「あのね。ねなくちゃっておもうし、ねむいんだけど、ねむれない・・・」

おそらく遠足前の子供のように、興奮してしまっているのだろう。

「・・・総司ひょっとして、今まで出かける約束した時もそうだったのか?」

こくり、と頷く総司に、約束する度に体調を崩す理由を始めて理解した気がした。

「ひじかたさんが、ぎゅってしててくれたら、ねむれるの」

そういえば、今日のような約束の仕方で、一緒に寝た時は出掛けられていた。

「わかった、お前は先にベットで寝てろ。キリ付けて直に行くから」

こく、と一つ頷き覚束ない足取りで寝室に戻る総司を見送り、早々に仕事にキリを付け、うとうとしている総司を抱き込み、睡魔に身を委ねた。



翌日、予定よりも随分早く目が覚めた土方は、自分の腕の中ですやすやと寝息を立てる総司の体温がいつもと変わらないことに安堵し、暫くその寝顔を眺め、額に一つ口付けを落とすと、起きる予定だった時間まで仕事でもするか、と目覚ましを片手に書斎へ向かった。


「総司、そろそろ起きろ、水族館行くんだろ?」

一仕事終え、朝食の準備が出来たところでまだ寝ている総司に声を掛ける。

「・・・ん・・・」

「ほら、朝メシできてるから起きろ」

ぽんぽんと、布団の上から肩を叩いてやると、低血圧で朝が滅法弱い総司が珍しくごそごそと動き出した。

「・・・ん〜〜〜・・・おはよー・・・ございます」

眠そうに目を擦りながらも総司は起き上がった。

「調子はどうだ?具合悪い所はないか?」

見た感じでは顔色もいいし、熱もなさそうだ。

「ん、だいじょーぶ・・・ですよ」

口を開かせて咽喉を確かめても、腫れはない。

「朝メシは?」

「・・・・すこしなら・・・」

昨日の約束のせいか、珍しく朝食を摂ると言った総司の頭を一撫でし、再び寝てしまわない様に洗面所まで連れて行ってから、総司用のミルクティを準備した。



にこにこと終始嬉しそうな総司にパイル地のブランケットを掛けてやり、シートベルトを締めるのを確認して車を発進させた。

「これ、掛けてなきゃダメですか?暑いのに・・・」

ブランケットが気に入らないのか総司はどけようとするが、今は暑くてもすぐに冷房が効いてくる。

「掛けとけ、すぐにクーラー効いてくるし、日除けにもなる」

「むぅ・・・」

渋々といった風にブランケットを掛けなおす総司の栗毛を撫でてやり、少しだけ設定温度を下げてやる。

暑いのもダメだが、クーラーもあまり得意でない総司の為に設定温度は高めだが、身体を冷やして風邪をひかせるわけにはいかない。

それに、あまり外に出ない総司は日差しにも弱い。

すぐに真っ赤になってしまい、見ていて痛々しいのだ。

「寒くなったらすぐに言えよ」

「は〜い」

「それから、調子悪くなってもすぐに言え。」

「・・・判ってますよ。・・・・時間ってどれ位かかるんですか?」

「2時間位だ」

「・・・・ふぇ・・・そんなに掛かるんですか・・・」

「あぁ、寝ててもかまわねぇよ。でも気持ち悪くなったらすぐに言えよ?休憩入れるから」

乗り物にも弱い総司に半ば無理矢理酔い止めも飲ませたが、ここまでの遠出は初めてで不安がないわけではない。

「・・・ん・・・でも、そんなに遠くまで行くのって初めてだから、ちょっと嬉しい」

無邪気にはしゃぐ総司を見て、土方の頬が緩む。

思えば、今以上に身体の弱かった総司は、子供の頃は入院ばかりで録に遊んだこともないような子供だった。

もちろん遠足も修学旅行も不参加で、旅行所か日帰りでいける程度の観光地にすら行った事がない。

水族館も、雑誌やテレビでは食い入るように見ているが、実際行くのは始めての経験なのだ。

出不精の土方と、体調を崩しやすいのであまり出かけられない総司の今までのデートは精々映画や、そこまで遠くないショッピングモール位のものだった。

(こんなに喜ぶなら、調子の良さそうな時に、もっと連れ出すか)

嬉しそうにきょろきょろと車窓に食らい付く総司に、少し過保護過ぎたかとこれからは色々と連れて行ってやろうと思った土方であった。



酔い止めが効いたのか、見る物が珍しく、これから行く水族館が楽しみで嬉しくてか、結局酔うこともなく辿り付いた水族館。

車を降りると容赦なく襲い掛かる熱気にも楽しさの方が勝ったのか、負ける事無く早く早く、とはしゃぐ総司に手を引かれ、水族館の入場口へと向かっい、チケットを買い入場する。

電車の改札口のような入場口を抜け、目の前に広がるアクアゲートに、総司はあんぐりと口を開いたまま止まってしまった。

「ふぇ・・・凄い・・・・・」

上も下も横も水槽なその空間に足を踏み入れることを戸惑うかのように足を止めた総司を促すように背中を押すが、動こうとはしない。

「総司、入るぞ?」

「・・・・・ここ、乗っても割れないの・・・?」

上と横が水槽なのはまだしも、床が水槽なのが怖いのか、腕に縋り付いてくる総司が可愛い。

「大丈夫だ、ちょっとやそっとでは割れないようになってる。それに、あんな子供でも平気で走ってるぞ?」

ちょうど同じくらいにやって来た子供がはしゃいで走っていくのを指すと、総司は目を丸くして、それでも恐る恐ると言った風に、アクアゲートに足を踏み入れた。

「うわ〜〜〜」

足を踏み入れて暫くは恐る恐ると言う風に歩いていた総司だったが、暫く進むとやっと慣れて、周りを見る余裕が出来たのか、きょろきょろと水槽を見て感嘆の声を出す。

確かに、これは凄い。

まるで海の中を歩いているかのようだ。

「凄い・・・・。土方さん、魚いっぱいだね〜」

「あぁ、凄いな」

目をキラキラさせて、水槽に張り付く総司は子供みたいだが、本当に可愛くてたまらない。

まだ入り口の水槽だが、総司は放れそうにない。

始めて見る魚達がそうとう嬉しいのだろう。

先はまだ長いが、にこにこと上機嫌で水槽に張り付き、色々質問してくる総司の好きにさせることにした。

夏休みの休日の割にはそこまで人も多くなく、見る物全てが目新しい総司にゆっくりと堪能させてやることができた。

「・・・くしゅっ・・・」

「大丈夫か?・・・冷えてきたか?」

水族館に入ってそろそろ2時間。

冷房の効いている館内に身体が冷えてきたのか、くしゃみをした総司に、念のためと持ってきていた上着を着せてやる。

触れた身体は思っていた以上に冷えていて驚いた。

「一度外に出て休憩するか?それに、そんなにはしゃいでると疲れるぞ」

流石に、車に乗った頃からずっとテンションの高い総司に心配が募ってくる。

「大丈夫ですよ〜ホント土方さんって過保護なんだから」

「過保護なんじゃねぇよ、それにそろそろ昼飯だ。イルカショーも見たいんだろ?」

総司は事あるごとに過保護だ過保護だと言うが、そうさせているのは、無理を無理だと思っていないのか、すぐに無理をして寝込む自分のせいもあると言うことを理解していない。

「えぇ〜。僕お腹すいてない」

・・・・言うと思ったが、少しでも何か食べささなければいけない。

「お前は腹減ってなくても俺は減ってるんだよ」

「・・・あ、そうですよね。判りました。休憩しましょう。僕ソフトクリームが食べたいです」

「・・・・少しでもメシ食ったらな」

身体が冷えているのに冷たい物を食べたがる総司に呆れたが、外に出たら暑いのだし、外でなら大丈夫かと、食事を摂らせるいい条件になると頷いた。

「・・・・お腹すいてないのに・・・」

「何なら食えそうだ?」

「・・・・・本当にお腹すいてないんで、何でもいいですよ。土方さんが食べたい物のあるお店でいいです」

この感じだと、食っても一口、二口って所か・・・・。

せめて半分は食わせないと・・・と思い、総司は何なら食べるか考える。

冷たい麺類なら食いやすいだろうが、総司は麺類を啜るのが苦手だ。

好きで良く食べているのだが、うどんやラーメンを啜るたびに咽ている。

普段ならそれでも構わないが、今日は余計な体力は使わせたくないので却下だ。

となると、まだ食べそうなのは、オムライスって所か。

「・・・オムライスなら食えそうか?」

店と言っても、ファーストフードでなくレストランは1店舗しかなく、ショーウィンドウを覗いて言う。

「・・・全部は無理です・・・」

「半分でかまわねぇ、半分食べたらソフトクリームも買ってやる」

こくり、と頷いて嬉しそうに笑う総司に、甘いなと苦笑が零れる。

結局、オムライスを何とか半分と少し食べた総司は、買ってやると言ったソフトクリームも今入らないと言い出し、再度食べたいと言い出したのは帰る直前だったが、何を見ても終始嬉しそうな総司を見ているだけで連れてきてやって良かったとつくづく思った。

土産物屋では、イルカの縫い包みを欲しがり、離さないのを宥めて諦めさせ、代わりにクッションと魚の形の食器を買ってやった。

確かにイルカの縫い包みを抱きしめている総司は可愛い。

そして、総司が好きそうなのも判る。

でも、縫い包みは埃だとか、ダニだとかで総司の気管支にはあまり良くない。

クッションでさえマメに洗濯と日干しは欠かせないのだ。



「・・・土方さん、今日はありがとうございました」

総司は車に乗って早々に買ってやったクッションを袋から出し、ぎゅっと抱き締める。

「楽しかったか?」

「はい」

やっぱり疲れたのだろう、あまり元気がないが、それでも嬉しそうな総司に、また連れ出してやろうと強く思う。

「疲れただろう?寝てもかまわねぇからな」

くしゃくしゃと、総司の栗毛を撫でるついでにさり気なく触れた額は、何時もより少し熱いような気がして、ブランケットを掛け直してやる。

「・・・でも、土方さんの方が疲れてるんじゃないですか・・・?」

身体は睡眠を欲しているのか、眠そうにしながらも健気な事を言う総司は本当に可愛い。

「俺は大丈夫だ。それより体調はどうだ?しんどくないか?」

今度は信号で止まった事もあり、額に手を伸ばす。

「・・・ちょっと、だるいかも・・・」

やっぱりいつもより熱い体温に眉間に皺が寄る。

朝の約束もあってか、素直に不調を口にする総司に不安はあるが、シートを倒してやり、ブランケットをもう一枚掛けてやり、少しでも早く帰って寝かせてやろうと、アクセルを踏み込んだ。


朝よりも短時間で帰宅し、早々に総司をベットに推し込んで体温計と薬と濡れタオルを準備する。

「はしゃぎ過ぎて疲れたんだろう?ゆっくり寝たら熱も下がる、もう寝ろ」

不安そうに見上げてくる総司の額を冷やしてやりながら言う。

体温計の数値は37.8度。心配するほどではない。

「・・・ごめんなさい・・・せっかく連れて行ってくれたのに・・・」

熱自体はそんなに高くないが、疲れきっているのだろう、酷く眠そうな総司の胸元を叩いてやる。

「大丈夫だ、気にするな。・・・また、行こうな?」

直に体調が悪くなる自分が情けないのか、泣きそうな表情をする総司に笑いかけてやる。

「・・・うん、また・・・いきたい・・・」

素直に言い、眠りに落ちていく総司の手を握ってやりながら、毎回これだと流石に総司本人が辛いだろうと、少しずつでも体力を付けさせなけりゃいけないなとつくづく思う土方であった。



2012.08.09


相互記念で、奏様からいただきました。

病弱な総司が土方さんとデート、なんていう我が儘なリクエストを書いてくださって。

総司可愛すぎますよ!!
わたしは奏様の、眠いとひらがな言葉になる総司がどツボです。

病弱だけどデートに連れて行ってあげる土方さんというのも、わたしの期待をはるかに上回ったかっこよさ…というか、過保護で優しくて、総司のことを一番大切にしているのがもう!

奏様、素敵すぎるお話をありがとうございました。

そして、相互リンクも有り難うございました。改めて、よろしくお願いいたします。




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