宝物 | ナノ


[3/8]



「そういえば、お前の名前だが…しばらくは総司だ。沖田総司…いや、土方総司か」

「え、総司?」

「そうだ。知り合いが新選組の沖田のファンだったらしいから、お前の名前も総司にしたらいいんじゃないかって思ったんだが…」

本当はそんな理由なんかじゃない。
自分とこの少年は、もっと深い部分で繋がっている事を自分以外は誰も知らない。

「…わかりました。じゃあ、総司でいいです」

「なら、決まりだな」

かくして、少年は総司として名前をつけられた。

「でも、僕…いいんでしょうか。ここにいて…」

「いいんだよ。記憶喪失なんだろ?それに…お前、行く宛てなんてなさそうだからな」

「………」

あんな夜中で、まるで逃げて来たと言わんばかりの姿を見れば、きっと路頭に迷っている事など一目瞭然。
怯えるようにガタガタ震える様子は、ひどい目にあって命からがら逃げてきたんだろう。
こんな総司を放っておくわけにはいかない。
――…守ってやりたい。
一人の人間として。

しばらく手元に置いておこう。
総司の身元引受人が来るまでの間、自分の義理の息子にでもして。
長いか短いかわからないが、少しでもこの総司を手元に置いておけるのなら、総司を助けてやれるのならそれに越したことはない。

「心配するな。お前がいいっていうならずっといていいんだ」

「土方さん…でも」

「いいって言っているだろ。お前一人くらい面倒見てやる」

土方の大きな手が、総司の頭を撫でる。
その眼差しもとても慈しみにあふれていた。
心からの優しさがにじみ出ていて、総司の心はほのかに温かくなる。
熱い物がこみあげてきそうになって、思わずふんばった。
まだ出会って間もないというのに、この人なら信じられる、自分を受け止めてくれるってそう思った。

その日から、総司と土方の共同生活はスタートした。
最初の一日目や二日目は、総司はどこかよそよそしかったが、時間が経つことによってそれは慣れていった。


「えーと、まず…野菜を切って…」

「何してんだ」

夜6時過ぎ、まだスーツ姿で帰宅したばかりの土方が、台所へやってきた。
総司がピーマンを切っている。

「夕食です。土方さん、いつも仕事夜遅くまで働いてるでしょう。今日は僕が料理作りますから」

「総司…あんまり慣れない事して無理するなよ」

土方はふっと嬉しそうに微笑む。

「見ててくださいよ、ちゃんと野菜炒め作って見せま…いたっ」

手元が狂い、包丁でさくっと指を切ってしまった。

「ほら…何やってんだ」

「うう…こんなの平気で」

苦笑いを浮かべて手を見ると、指先から血が流れる。

「かしてみな」

土方が総司の手を掴んで、顔の前に持ってくる。
そしてそのまま、血が出ている人差し指を口に含んだ。

「あ、ちょ…」

総司は呆気にとられた。
土方はなんの躊躇いもなく、流れ出る血を舐め、吸い取っていく。
それが妙に恥ずかしく感じて、総司はドキっとした。

「血が止まったら消毒して、絆創膏貼っておきゃあいいだろ」

「はい…でも、土方さん…いつも女の人にこんな事してるんですか?」

何気なく訊いた一言に、土方はらしくもなく動揺する。

「な…す、するわけないだろ。お前限定だ!」

「え…僕限定?」

「あ、いいんだよ!そんな事気にしなくても」

土方は顔を赤くしていた。




*maetoptsugi#




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -