宝物 | ナノ


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はあ…はぁ…

行き場もなく、雨の中を走る一人の少年。
見た目はまだ12、13歳位の小柄な男子で、全身には赤い斑点と暴行の痕。
真夜中に関わらず、何かに追われているような、悲しみを抱えたようなそんな表情でひた走る。
全身ずぶぬれで、着ている私服も上から下まで全部湿っていた。
ぱしゃぱしゃと地を蹴るたびにに水音が跳ねる。
息が続かない。
もう疲労の限界だ。
走れない。

少年は息を荒げて、力なくして跪く。
雨で全身は冷え切り、空腹で力も出ない。
電車に乗ったのか、バスに乗ったのかすら思い出せない。
どうやってここに来たのかもわからない。
もはや、数分前の事すら記憶がとんでいる。
脳裏が蕩けるように、記憶が溢れてくる。
これは、記憶が消えていく前兆か。

(やだ…やだ…)

記憶が走馬灯のように流れる事に恐怖を覚え、頭を両手で抱える。


薬のせいで、記憶が全部消える?
いやだ…いやだ。
忘れたくない。
みつ姉さんの事も、死んだお父さんの事もお母さんの事も忘れたくないっ。

僕は…僕は…沖田…総司で…前世は…一番組組長で……あの人を…あの人を探して……


っやぁああああーーっ!!


声にならない声をあげ、ふっと力尽きたように意識が途切れた。

忘れたくなかった。
僕はこの現世で、あの人に出会うために生まれてきたはずなのに、それも叶わぬままここで朽ち果てる。
記憶も何もかも失って。
せっかく全てを思い出したのに、また…振り出しに戻ってしまうんだ。


あなたに会いたかったのに…。






―|toptsugi#




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